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私の先輩  作者: せいじ
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第十八話   運命の人は昼行燈

「やあ、君が坂上さんだね?私は、勝呂と言います。よろしくね」

 今、何て言った?

 スグロ?

「すみません、勝呂何さんでしょうか?」

「うん?純だけど?名刺を渡そうか?」

 スグロジュン。

 まさか、この人か?

 年の頃は、50代半ばと言うところか。体格はいい方だろうけど、猫背でなかったらエリートサラリーマンに見えないこともないのかな?

「いえ、私は坂上咲良と申します。これから、よろしくご指導ご鞭撻のほどをお願いします」

「まあまあ、肩肘張らずにね」

「はい、ありがとうございます」

「まあ、君みたいなエリートは、すぐに現場に配属されるだろうから、しばらくはここで我慢してね」

「いえ、総務は大事な部署と聞いています。勉強させてもらいます」

「建前はね。実際は、事業本部の奴らは総務は会社のお荷物とか、お前らを食べさせてやってると、鼻息が荒いんだよ」

「総務は縁の下の力持ちと、そう伺っています。普段は存在感無くても、いざという時に力を発揮すると、そう聞いています」

「おお!君はいい子だ。今のことを、よく覚えておいてね。研修が終わったら、君みたいな貴重な人材は、恐らくはどこかの事業本部入りになるだろうから」

 何だろう、不思議な人だと思う。

 色々聞きたいけど、何から聞いていいか分からないし、今はそれどころではないと思う。



 でも、不思議な雰囲気を持っている人だと思う。



 研修は特に大変ではなく、むしろこの勝呂さんが意外に適当で、ああ、言ってなかったっけということが度々ある。

 最初はそれが私を鍛える為に、わざとやっていると思っていたけど、どうも天然らしい。

 勝呂さんの同僚の女性社員が、給湯室で私に色々と教えてくれた。

「勝呂さんってね、昼行燈なのよ」

「昼行燈ですか?」

「そうそう。だからね、坂上さんがしっかりしないと、結構うっかりが多いのよ、あの人」

 大丈夫だろうか、この会社は。

 でも、ここは大きな会社だから、ああいう人が一人はいないと、むしろ組織はうまく回らないと大学時代の教授はおっしゃっていた。

 仮に優秀であっても、同じ規格品だらけになると、それで一旦問題が起きると、修正もやり直しも効かないからだそうだ。

 とは言え、それでも教え方は丁寧だし、よく色んな部署に私を連れて行ってくれた。

 勝呂さんは意外に顔が広く、私の顔も一緒に覚えてもらった。


 ここが食料本部、ここがエネルギー本部と、私を紹介して回ってくれた。

 時々勝呂さんは、マーケティング部で新商品の試食とかで時間を潰しているけど、マーケティング部の人に私の感想内容を詳細に聞かれた時は、やっぱり遊びではないんだと思った。

 勝呂さん曰く、おやつの時間はマーケティング部がお勧めとおっしゃっていたけど、味見をするたびに詳細な感想を書かないといけないのは、案外手間が掛かった。

 もっとも、当の勝呂さんは、暢気にお茶をすすりながら、新商品を頬張っていたけど。

「あの~。勝呂さんには、感想を聞かなくていいんですか?」

「え?無駄でしょう」

「無駄なんですか?」

「だって、勝呂さんは美味しい、とても美味しい、とっても美味しいの三つの感想だけなんだから。マーケティングにならないよ」

 何だそりゃあ?

 でも何だか、ほっこりしてしまった。

 美味しくないは、無かったのね。

「その点、坂上さんは若い女性だけあって、いい分析を書いてくれるよ。研修終えたら、是非マーケティング部に来なさい。君みたいな人を、我々は待っているよ」

「はい、こちらに配属されたその時は、よろしくお願いします」

 実際、マーケティング部も面白そうだけど、配属先は新人が決められるものではないだろう。

「勝呂さん。そろそろ」

「うん?もう、終わったの?」

 大丈夫か、この人と思った。

 目を離していたら、うとうとしていたよ、この人は。しかも、目をこすりながら、大きくあくびをしていたし。

 でも、こういう人で良かったとも思う。

 

 もしかしたら、この人が私の父かもしれないから。


 これがバリバリのエリートサラリーマンだったら、ちょっと話ずらいし。



 とは言え、父ならもっと威厳が欲しいなと、その時の私は贅沢にもそう思った。

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