第十七話 運命
教授に大学に残るように言われたけど、私は立場上そうはいかないので、お誘いを断ることにした。
私としてはもう少し、勉強をしてみたかったけど。
でも私は、学究肌じゃないし。
今の私の望みは、完全に自立することだから。
早く安定した、収入が欲しいから。
就職も最初から決まっていたけど、総合商社だから悪くはないと思う。
滝川さんや柿田さんのお陰だと思うけど、きっと私自身の努力の結果と、彼らは言ってくれるだろう。
ただ、大学のOBから聞いた話によると、総合商社では簿記とTOEICのある程度のレベルは必要だから、大学在学中に取得しておくようにと言われた。
実際、会社の研修でもそう言われ、あらかじめ取っておいたのが幸いだった。
色々と忙しく、あっという間に大学を卒業した。
私との別れを悲しむ人は居ないと思ったけど、後輩に泣きつかれた時は驚いた。
ちょっと、私も涙ぐんだ。
ただ、他の卒業生と違って、卒業旅行に耽ることは出来なかったので、感傷もそこまでだった。
一応、スーツも用意し、靴やかばんも用意した。
結構な出費だったけど、スグロジュンさんのお陰で、体裁を整えることが出来た。
少なくとも、恥ずかしくない格好だと思う。
入社式当日、会場には私と同じような格好の若い男女が集まっていた。
皆、どこか緊張した面持ちだった。かく言う私も、緊張してしまった。
ああ、私もいよいよ社会人なんだと、心が震えてきたから。
入社式は意外に質素で、噂に聞いていた派手さは無かった。
社長からのスピーチは淡々としていて、中身は社史から始まり、会社とステークホルダーとの関係について、色々と説明していた。しかも、あまり大きくない声で。
正直、眠くなってきた。
すると社長は突然黙り、我々新入社員のひとりひとりの顔を見つめた。
正直、その眼光には驚いた。
一瞬、私と目が合ったような気がした。
そして、さっきまでとは違い、非常に通る声で演説を再開した。
「君たちは、まだ何者でもない。当社の一員ですらない。ただのひよっこに過ぎない。だが、私もかつてそうだった。生意気盛りで、しかも鼻っ柱だけが強く、俺がこの会社を引っ張ってやるなんて意気込んでいた。君たちもそうだろう。だが、すぐにその生意気な鼻っ柱はへし折られるだろう。しかし、それで落ち込むことは無い。何故なら、そこからがスタートだからだ。恥をかけ。失敗しろ。だが大事なことは、保身に走ることではない。小さく纏まるな。それには、挑戦し続けることだ。わが社は、そんな生意気な社員を求めている。いくらへし折られても、決して折れない者になれ。世界は広い。世界は甘くない。誇り無き者に、居場所はない。君たちも、決して誇り無き者になるな。そんな者を、商社マンとは言わない。世界に羽ばたく、そんな人材になれ。誇りある商社マンになれ!私からは、以上だ。君たちを歓迎する!」
そう、まだ何者でもない。
私は、私になる。
そう思い、意気揚々と張り出された研修先を見た。
坂上咲良
上記社員を、総務部配属を命ずる。
総務部?
ちょっと、がっかりしたけど、研修先だから今はいいか。
でも私は、そこで運命の出会いをすることになる。
本当に、運命って分からないと思う。
少女漫画のようでもあり、小説のようでもある。
まるで、物語のように。
きっとこれが、運命って奴なんだろう。




