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私の先輩  作者: せいじ
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第十三話   罠

「坂上さん、楽しんでる?」

「はあ、まあまあです」

 私は他のゼミとの、合同コンパに参加している。

 いや、参加させられたと言うべきだろう。

 今回のコンパは、他のゼミとの合同で行われるのみならず、教授や助教も参加するから、ゼミ生は原則全員出席とのご達しだった。

 もちろん私は断ったけど、私が教授に叱られると彼女に泣きつかれたので、日程を調整することにした。


 日にちが合わなければ、無理だと言って。

 でも彼女は、持ち前のコミュ力を発揮し、日程の調整に成功してしまった。

 こうなると、私も断れない。


 コンパ前日、彼女から当日はスカートで来るようにと言っていたけど、私はスカートを持っていなかった。

 大学入学式の時に着ていたスーツも、スカートではなくパンツだった。

 学生時代の制服のスカートを流用出来なくもないけど、何もそんなに気取る必要はないだろう。

 嫌なら、帰る。それだけだ。


 当日は、その気持ちでいつもの格好で大学に来た。

 彼女はそれならと、せめてメイクぐらいしなさいと私を洗面所に連れて行き、一体どんだけのメイク道具を持ってきてるんだと疑問に思うぐらい、道具を並べて私の顔をせっせと作った。

 他人に顔をいじられるのは、初めての経験だから、正直どきどきした。

「ヨシ!完成」

 鏡を見た瞬間、誰あんたと思うぐらい、自分でもよく分からない顔になっていた。

 思わず、キレイと思ったけど、それが自分の顔だと気付くと、ちょっと気持ち悪かった。

 とは言え、これは変装に使えるなと、その時は無邪気に思ったモノだった。



 コンパは結構な人数だったけど、誰が誰やら分からなかった。

 一応、自己紹介はしたけど、耳に入らなかった。興味無いし。

 どうせ、もう二度と会うことも無いだろうし。

 すると、隣に一人の男性が座ってきた。

「あの~、そこは空いていませんけど?」

「ああ、彼女なら、ほら」

 男が指を示した先に、肝腎の彼女が居た。

 男性に囲まれ、実に楽しそうだった。

 教授も居るし。

「ほら、飲んで飲んで」

「私、まだ19歳です」

「ええ?いいじゃないか、それぐらい」

「飲めないものは、飲めませんよ」

 私は店の壁に貼ってある、飲み会の心得が書かれたポスターを指した。

 無理にお酒を勧めないと、そこには記されていた。

「咲良さんてさ、男にもてるでしょう?」

 馬鹿か、こいつは。というか、何で名前を知っている。ああ、自己紹介したかな。名前を名乗ったかな?名字だけしか、話していないと思ったけど。

「さあ」

「ねえ、僕とふたりで抜け出さない?」

 抜け出すなら、一人で抜け出したいところだけど、そうも言えないだろう。

 というか、何のつもりだ?肩に手を当てやがって。虫唾が走るから、触るなよ。

 殴るぞ?

「他を当たってください」

「いいじゃん。僕と一緒に、オシャレなバーに行こうよ」

 さっき、飲めないって言ったばかりだけど?

 本物の馬鹿か?

 だいたい、一人称を僕っていう奴は、クズに決まっている。

 こいつも、その手合いだろう。

「他を当たってください」

 空気を壊したくないけど、元々来たくて来たわけじゃない。

 しつこいなら、私は帰るだけ。

「坂上さんに、しつこくしないでください」

 彼女が戻ってきた。

「分かったよ」

 男は案外、あっさり引き下がった。

 彼女のコミュ力は、半端ではないと思った。

 ちょっと、びっくりした。

 秘訣を知りたいって、そう思うぐらいに。

「坂上さん、二次会行くよね?」

「私は帰るよ。課題やらないといけないし」

「ええ?明日でいいじゃん」

「今日やることは、今日中にやるの」

「カッコいい!」

「学生の本分でしょう?」

「でも、教授や助教も行くって」

「私は行きません」

「じゃあ、顔を出すだけなら、いいでしょう?」

「顔だけで、済むはずないでしょう?」

「大丈夫だよ、私が保証するよ」

「う~ん」

「ねえねえ、行こうよ」

 腕を掴まれ、身体を揺らされた。

 ああ、男ならこれでイチコロかな?

 幸い、私は女だけど、悪い気はしなかった。

 それにしても、この子はしつこいなあ。これが、コミュ力の正体か?

「ああ、もう。分かったよ。顔を出したら、すぐに退散するよ」

「やったあ!」

 彼女が私に、抱き着いてきた。女性の身体って、こんなに柔らかいんだと、私は初めて知った。すごく、いい匂いもして、ああ、これが女子力って奴かと思った。私とは、根本から違うんだと思う。

「ちょ、ちょっと離して」

「うれしくてさ」

「分かったから」

 本当、彼女はウザイと思った。


 私はこの時、二次会に参加せずに、そのまま帰れば良かった


 後になって、そう思った。



 私は本当に、世間知らずだった。

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