第十二話 大学生活
私は高校を卒業し、国立大学に入った。
ぎりぎりの成績だけど、何とか大学に合格した。
柿田さんが卒業した大学に入ったから、柿田さんや牧田さん、近衛さんは私の先輩になる。
これはこれで、私は嬉しい。
そうか、滝川さんもそうなるのか。
でも、そこには滝川先生は居ないけど。
私は希望を胸に、大学生活とアルバイト三昧の日々を送ることになった。
一応、奨学金と生活費は支給されるけど、それですべてが賄われるはずもなく、少ない貯金とアルバイトのお給料で正直カツカツだった。
だからサークル活動も出来ず、もちろんダブルスクールに通うなど論外だった。
「ねえ!坂上さん!」
同じゼミを選択している子だけど、私はこの子が苦手だった。
明るくて可愛らしく、それでいて成績もいいのだから、男子だけではなく教員からも人気がある子なのだ。
私とは、対照的だった。
「ねえ、今夜コンパやるから、一緒に行こうよ!」
「ゴメン、私バイトなんだ」
「ええええ?いっつもじゃん」
「ゴメンて」
「みんな、坂上さんと話したがってるよ」
そんな訳ないだろう。
いつも輪の中心に居るのは、あなたであって私なんかではないはず。
いつもフェミニンな格好の彼女と、化粧っ気の無いデニムパンツばかりの私とは、本当に対照的だと思う。太陽と月と言ったら、月が可哀そうになるぐらいに、彼女は華やかだった。
その圧倒的なまでのコミュ力を持つ彼女と、まるでコミュ障のような私では、つり合いが全くと言っていいほど取れない。
「ホント、ゴメン!」
私は手を合わせるようにして、彼女に謝った。
本当は謝る必要は無いのだが、一応同じゼミの子だから、それなりの礼儀は必要だろう。
私も、一応成人になるし。
「じゃあ、今度ね。約束よ」
「うん、分かった」
約束も何も、私にはそんな時間もお金も余裕も無い。
あなたとは、根本から立場が違うんだから。
それを不公平だと言う者も居るだろうけど、人にはそれぞれ背負っているモノがあり、それを以って公平とか不公平は無いと私は思う。
だって、それだったらお母さんは、どうなるの?
私はあれから、滝川さんのお家には行っていない。
お母さんのお墓は遠くにあり、今の私ではとても行けない。
滝川さんも大事なのは気持ちであり、形では無いとおっしゃっていたけど、どこか後ろめたさがつきまとう。
私はあれから施設を出て、一人暮らしを始めた。
幸い、アルバイトで貯めたお金と、自治体からの自立支援金もあるので、初期費用はなんとかなった。
施設が紹介してくれたアパートに住むことになったし、施設の人も何かあれば相談に来るようにって言ってくれた。
特に一人暮らしを始めた一ヶ月後には、必ず施設に顔を出すようにと念を押されたけど、なんでそんなに心配されているのか、私には分からなかった。
とは言え、私を心配してくれる人が居るのは、やはりうれしいものだった。
生活費や学費は、国から支給される返済不要の奨学金と、企業から支給される支援金でなんとか賄えているけど、研究に使うお金は意外にかかる。
パソコンだって、安くはない。
しかも、研究用の書籍があんなに高い代物何て、大学に入るまで知らなかった。
大学の図書館に入り浸ってる場合では無いので、本当に必要な書籍は借りるか購入するしかなかった。でも、使う時は皆同じで、いつも貸し出し中だった。
私はそんな貸し出し中の文字を見ると、がっかりしてしまう。
購入するしかなく、しかし本の代金が半端では無かった。
一冊一万円もする本の存在を、私は大学に入るまで知らなかったから。
正直、計算違いをした。
でも、頑張らないと。
誰でもない、自分自身の為だから。
でも、どうしたらいいんだろうか?
コミュ力があれば、伝手を頼って何とか論文を入手出来るのだろうけど、あいにく私は勉強とアルバイト三昧だったから、学内には人脈が殆どなかった。
「せめて、サークル活動でもしていればなあ」
でも、今さらだ。
アルバイトを、もう一件増やそうかな。
体力には自信があるし。
でも、いつかは限界が来る。
そこまでは、頑張ろうと思う。




