第一話 悪夢の始まり
幸せにテンプレは無い
この男を、殺してやろうと思った。
私が中学に入った頃、両親が離婚した。
私がどう思おうが、私が何を言っても関係なく、親が勝手に決めた。
元々、いさかいが多い両親だったから、いつかこんな事になるだろうと覚悟はしていたけど。
いざその日が来てみると、やっぱり耐えられない。
でも、親が、大人の決めたことだから、子供にはどうにも出来なかった。
早く、大人になりたかった。
私は母と二人で暮らすことになったけど、本当なら父と暮らしたかった。
母はちょっとおかしいところがあり、よく切れたりするからだ。
言ってることも支離滅裂なところがあり、言った、言わないとよくケンカになる。
そんな時の母は、私が反抗期だからとか、情緒が不安定だからと決めつける。
悪いのは、いつも私の方だった。
母は決して、反省しない人だから。
両親が離婚した時も、私が母ではなく父を選ぼうとした時、母は最初は戸惑い、次には怒り、最後は泣いてすがってきたからだ。
お母さんを、ひとりにしないでって。
もっとも、当時の父は不倫していたらしく、私が父についていくのを歓迎していなかった感じがしたから、母の元に残るしかなかった。
大人は身勝手だ。
子供のことなんか、一切考えてくれない。
中学三年生になった時、母は再婚した。
私に何の相談もなく。
ある日、唐突に。
寂しがりの母は喜んでいたけど、私は嫌だった。
父は父であり、新しい男は父ではないからだ。
でも、この人が新しいお父さんよと母に言われたから、嫌でも受け入れないといけない。
子供には、どうにも出来ないから。
早く家を出たかった。
私はこの男が、大嫌いだった。
本当に、気持ち悪かった。
いつも舐めるように、私を見ていたからだ。
ある日、私の体調が悪かった時、この男は私の身体に触れてきた。
「大丈夫かい?咲良ちゃん?」
「平気です」
私がそう言っても、この男は心配そうな顔をしながら、私のお腹を丹念に触ってきた。
丹念に。
何度も、何度も。
なぞるように。
気持ち悪かった。
やがてこの男は、私のお腹から胸に触るようになった。
体調に関係なく、今日の咲良ちゃんの体調は、どうかなと言いながら。
「あ、あの、そこは違います」
「大丈夫だよ。僕に任せなさい」
この男は、私の胸を触り続けた。
丹念に、触ってきた。
私は、吐きそうになった。
私がお風呂に入っていたら、この男が無断で入ってきたことがあった。
親子だから、裸の付き合いをしよう、背中を流しっこしようと。
私は怒った。私が入浴中に、お風呂に入ってこないでと言っても、親子だから気にしなくていいと、あの男は私を諭すように言ってきた。
「ほら、咲良ちゃんの髪の毛も、僕が洗ってあげるよ」
本当に気持ち悪かった。お前なんかに、私の大事な髪を触れさせるもんか。
絶対にだ。
「お父さんのことも、ちゃんと洗ってね」
この男は、自分の前を隠さずにまるで見せつけるようにして、私の前に立ちふさがった。
私はこの男を突き飛ばして、お風呂から出た。
逃げるように。
この男は、笑っていた。
母にいくら苦情を言っても、取り合ってくれないどころか、私が反抗期だからと、むしろからかってきた。
お父さんと仲良く出来る、いい機会じゃないのと。
私は、そんな母も許せなかった。
この男は、いつも笑っていた。
嘲笑っていた。
まるで、お前に味方は居ないんだと、そう言っているように。
だから私は、帰宅したらまず真っ先にお風呂に入ることにした。
この男と一緒に、お風呂に入りたくないからだ。
母は私を思春期特有の潔癖症だと言って、私のことを笑いながら、むしろからかってきた。
この男も、そんな難しい時期の私に、なるべく寄り添おうと言っていた。
家族なんだからと。
虫唾が走った。
お前を、家族と認めたことは無い。
でもこの男は、諦めなかった。
ある日の夜だった。
寝ていたら、身体がもぞもぞしていた。
目が覚めると、誰かが私の身体を触っていた。
この男だった。
私は驚いたけど、この男は騒ぐとお母さんに知られるよと言って、私の口を塞いできた。
私は、身体をいじられた。
パジャマの上からだけど、まるで舐めるように触ってきた。
私の胸を。
私のお腹を。
私の足を。
そして、私の一番恥ずかしくて大事なところを、なぞるようにして触り続けた。
「気持ちいいだろう?」
「やめてください」
「安心しなさい。すべて、お父さんに任せるんだ」
「やめて」
「大丈夫だからね」
やめて。
お願いだから、触らないで。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、お願いだから、やめて!
私は、怖いのと恥ずかしい気持ちが混ざり合い、男のされるがままだった。
私は泣かないように、歯を食いしばった。
この男は笑いながら、また来るねと言って私の部屋を出た。
この男が居なくなってから、私は声を抑えながら泣いた。
悔しかった。
悲しかった。
死にたかった。
私は、汚れてしまった。
男は毎夜毎夜、私の部屋にやってきては、私の身体を触っていた。
少しずつ、触り方が酷くなってくる。
この男は、私の健康や成長を心配してのことだと、自分の行為を正当化するように私に語ってきた。
そんなことは、どうでもいいと思った。
私の身体は、私のモノだからだ。
私は母に、この男と離婚出来ないか相談したけど、全然取り合ってくれなかった。
むしろ、お父さんとよく話し合ったらどうかと、私を諭す始末だった。
母は、私の味方ではないんだ。
ある夜だった。
ついにこの男は、私のパジャマの内側に手を入れてきた。
「お母さんにいくら言っても、無駄だからね。僕が咲良ちゃんを、ちゃんと面倒見てあげるって、お母さんにきちんと言っておいたから」
それまでは、服やパジャマの上から触ってきていた。
いつも私の胸やお腹、そして私の大事な部分を、パジャマの上から触ってきた。
でも、今回は違った。
私の下着に、触ってきた。
「安心して。僕に任せるんだよ」
私は抵抗した。
やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だれか、たすけて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
男は、笑っていた。
「ああ、濡れてきたねえ。気持ち良かった?」
私は、死にたかった。
死にたかった。
死にたかった。
死にたかった。
死にたかった。
だれか、だれか、わたしをたすけて。
この男が部屋から出た後、私はこの男に汚された下着を取り替え、カバンの中に隠した。
どこかに捨てる為に。
母に見つかりたくない、私の汚れた下着を見て欲しくなかったから。
だから、私は下着を隠した。
私を隠すことが出来たら、どんなにいいことなんだろうか。
それを終えたら、私は放心するようにして、ベッドに倒れた。
頭の中は、真っ白だった。
私はあれから、夜まともに寝ていなかった。
それでもうとうとする時があり、この男はそれをまるで見透かすようにして、私の部屋に入ってきた。
「待たせたね。今夜もいっぱい、咲良ちゃんのことを可愛がってあげるよ」
この男の表情は、無邪気さと残忍さを合わせたような、嫌な顔をしていた。
この男は、私のパジャマの中に手を入れてきたけど、ついにブラの中にまで手を入れてきた。
胸を直接触られた。
胸の先を、いじられた。
「可愛いよ、咲良ちゃん。お父さんが、おっぱいを揉んであげるね。そうしたら、もっと大きくなるからね」
私は抵抗したけど、力では敵わなかった。
この男は私の反応を見て、喜んでいた。
そしてついに、この男は私の恥ずかしくて大事な部分に触ってきた。
この男は笑いながら、私の下着の中にまで手を入れ、私の大事な身体をなぞり、私の中に指を無理やり入れてきた。
痛かった。
怖かった。
悲しかった。
恥ずかしかった。
死にたかった。
「おやあ、もしかして初めてかな?良かったね、初めてがお父さんで」
うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
たすけて。
私は、泣いてしまった。
でも、いくら泣いても、誰も助けてくれなかった。
誰にも、助けを求めることが出来なかった。
私は女である私自身の、この女の身体を憎んだ。
指を入れる場所がある、この女の身体を嫌いになった。
私は私の中のオンナを、心から憎んだ。
私の中のオンナを、殺してやりたいと思った。
オンナだから、女の身体だから、私はこんな目に遭うんだ。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
汚らしい。
私は翌朝、朝食を摂らずに学校に行った。
お父さんに朝の挨拶をしなさいっていう、母さんの言葉が私を追い詰めたから。
とにかく、家には居たくなかった。
この男は、私を見ていた。
この男は、笑っていた。
学校で私は、倒れてしまった。
先生が私の肩に触れた瞬間、私は悲鳴を上げて気を失ったから。
私は、保健室に運ばれた。
きっと、貧血なんだろう。
私は誰にも見つからないように、声を殺して泣いた。
先生が、保健室にやってきた。
「大丈夫か?」
「ごめんなさい」
私は、先生に謝った。
理由はと聞かれても、私はただ謝った。
先生から、何か問題があるなら相談に乗ると言ってくれたけど、相談してもどうせ母や男に連絡が行くんだろう。
だから、私はこう答えた。
「すみません、ただの寝不足です」と。
そして、夜になった。
昨夜も寝ていなかったので、つい寝落ちしてしまった。
一晩中起きていようと、決心していたのに。
気が付いたら、あの男が私の部屋に居た。
私はギョッとした。
夜の部屋でも、この男のぎらぎらしている目が、良く光っていたから。
この男は私のパジャマを、私の下着を、剥ぎ取ろうとしていた。
「ほら、大人しくしなさい。すぐに済むから」
私は用意していた、カッターナイフで切りつけた。
手にかすめたようだ。
この男は驚いていたけど、笑っていた。
「もう、来ないで」
私は震える手で、カッターナイフを構えた。
この男は、カッターナイフで傷付いた手を舐めながら、また来るよと言った。
男は、笑っていた。
私は、武装しないと死ぬと思った。
武器を用意しないと。
次の日の学校帰りに包丁を買い、枕元に隠しておいた。
やがて、夜になった。
悪夢の夜の始まりだった。