001 毒舌王子
眼前に美青年。透き通った青い瞳が近過ぎて、私の思考は停止した。
この距離感では心臓が持たないってば。
これはなんの企画!?
毒舌王子に姉と間違われて接近される。
そんなシーンは知らない。
一旦、この状況か何なのか、誰か教えて。
状況を整理する為に、美青年の熱い視線から目を逸した時、別の声が部屋に響いた。
「アレク様。クラルテ様は火山の噴火に巻き込まれ、やっと目覚めたばかりですよ。落ち着いてくださいませ」
そう言ったのは、眼鏡をかけたデキる執事といった装いの中年の男性。長い銀髪をオーバックにして後ろで一本に結ってる。
こっちもトルシュに出てくる完璧執事、フリューゲルさんにそっくり。気合いの入ったコスプレに眼福だわ。
アレクと呼ばれたコスプレイヤーは、デキる執事風コスプレイヤーに諭されると、ため息をつき、気まずそうに一歩後ろへ下がった。
もしかしたら、見た目が完璧過ぎて気持ちが高ぶり、役に入り過ぎてしまったのかも。そう気づくと、少しだけ気持ちが落ち着いた。
彼らがそこまで本気なら、私だって楽しむしかない。
私も何かの役なのかな。
クラルテ様と呼ばれた気がしたけれど……。
よくよく見ると、私は西洋風の部屋の天蓋付きのベッドの上にいる。多分ここで寝ていたみたい。服はシルクのような心地よい肌触りの白いネグリジェのような感じで。
――誰よ。私を着替えさせた人。
状況確認の序盤で早くも突っかかり、先に進めなくなっていると、アレクと呼ばれたコスプレイヤーが、仕切り直しとばかりに咳払いをして、私へ真っ直ぐに目を向けた。
「こほんっ。――姉様。お身体はいかがですか? 三日も眠り続けていたので、心配しました」
王子は説明無しで続けるらしい。執事も何も言うつもりはない様子。何たる無茶振り!?
「そ、そうなの? あの……。水を差す用で申し訳ないのだけれど、私って誰役なのかしら? どうしてここでこんな事になっているのか、何も分からなくて」
「……そ、それは。自分が誰なのかも分からず、記憶も無いと言うことですか!?」
「ん? いえ、……でも、そうなのかも知れないわ」
私の言葉に、アレクは酷く落胆した。寝起きに企画をぶち込んできたのですから、仕方がないじゃない。それに、行きの飛行機で寝てから記憶がない。何故ここで乙女な格好で寝ていたのか何も知らないのに。
アレクは卵を恨めしそうに見つめながら口を開いた。
「召喚の儀に、こんな後遺症があるなんて……。あ、あの。貴女はトルシュ王国、第一王女、クラルテ=トルシュ王女です。私は弟のアレク=トルシュです」
「えっ? わ、私が王女ですか?」