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002 聖地巡礼!?

 『トルシュの灯』はスマホのRPGゲームだ。

 魔族の襲来により闇に覆われた世界に、小さな島の王子と姫が、異世界から神獣の巫女を召喚して、世界に灯りを取り戻すゲーム。


 主人公は神獣の巫女として、神獣とこの世界の人々との繋がりを結ぶ役目がある。神獣から授かった五つのペンダントを仲間にしたいキャラに渡し、その仲間との交友を深めることで神獣を成長させ、力を合わせて魔族を倒していくのだ。

 戦闘シーンはターン制だけど勝手に戦ってくれて楽だし、ミニキャラが戦う姿が可愛いのよね。

 

 そして、乙女ゲームと言われるだけあって、仲間になるのは個性的なイケメンばっかり。

 毒舌王子に完璧執事、ツンデレ仔猫と寡黙な魔導師。それから、チャラい海賊と自由な吟遊詩人に隣国の癒し系王子。


 一度本編をクリアすると、二週目のプレイから孤高の魔族も仲間に出来る。それから全キャラとの個別エンドを見ると、隠れキャラであるクールな近衛騎士とのストーリーが解禁されて、元の世界に戻れるエンドが存在するらしい。まだ全キャラのエンドを見た訳ではないので、攻略サイトから得た知識だ。

 毎月、キャラ別の着せ替えパーツとかボイスが手に入るイベントがあって、私はそっちばかり楽しんでいる。


 このツアーも公式お墨付きなので、チケットセットの中に「おかえり(キャラ別の台詞をお楽しみに)」ボイス交換券がついていた。お高いツアー代金にも関わらず、ボイス交換は好きなキャラ一人のみ。だけど今回のツアーで全キャラコンプしたと話していた猛者がいた。


 私は、推しのボイスで大満足だけど、ツアーには他にも色々な企画が用意されているらしい。アンケートで推しキャラや好きなシーンを聞かれたから、すごく期待してる自分がいる。

 キャラに激似のエキストラさんとか準備してくれて、シーンを再現してくれたりするのかな……。


「――わぁぉ。神獣様の爆誕じゃない……」


 私が妄想に花を咲かせていた時、隣に座る同じツアー参加者の女性が、スマホ画面に向かって呟いた。

 気になって目を向けると、お隣さんのスマホについたマスコットと目が合った。

 トルシュの海賊、キャプテン・カルロスだ。お隣さんの推しは、ちょっとチャラいけれど頼れる大人、カルロスのようだ。

 私の視線に気づいたお隣さんは、画面をこちらに傾け、神妙な面持ちで口を開いた。


「明後日見学予定の火山。小規模噴火したそうです。ほら」

「おぉ……」


 噴煙を発する山の画像は、まさに乙女ゲーム世界で神獣様が降臨した時のようで、私はつい感嘆の声を漏らしてしまったけれど、これは現実に起きた自然災害。不謹慎だなと気付き、私は慌てて口元を手で隠した。


「あ。人災はないそうですよ。地形や季節風の影響を鑑みると、多数の空路に影響を及ぼし、飛行機の到着は遅れそうですね。ですが、ツアーの中止とまではならないでしょう。あの規模ならよくある事なので」

「成程。お詳しいんですね」

「一般常識ですよ。さて、雲行きが怪しくなってきたので、今のうちに寝ておくのが良策でしょう」

「そうですね。教えて頂きありがとうございます」

「いえ」


 お隣さんが鞄からアイマスクを取り出し睡眠の体勢に入った時、飛行機のアナウンスが入った。安全が確認されるまで、飛行機は着陸できないので、予定より遅れるそうだ。到着まで、後三時間の予定だったけれど、もっとかかる事になるだろう。


 私もアイマスクを取り出し装着すると、隣から微かに寝息が聞こえてきて、私も急に眠くなってきた。目を閉じると、先程見た火山の噴煙が瞼の裏に浮かぶ。


 神獣爆誕。上等だわ。

 ツアーが中止にならない事を祈りつつ、私は深い夢の中へと落ちていった。


 ◆◇◆◇


「――――――神獣のたまご。これがあると言う事は――」


 まだ眠くて朦朧とする意識の中、イケボな青年の声がした。トルシュのキャラで例えたら、毒舌年下王子のイメージなボイス。

 いくらでも聞いてられるわ。もう少し寝ましょう。……でも、神獣のたまごとか言ってたような。


 まさか、寝落ちした間に、ツアー企画が始まっちゃってる!?


 そう思って飛び起きると、目の前に、声のイメージ通りの王子様がいた。

 ダチョウレベルの大きな卵を抱えた青年は、黒髪に青い瞳の西洋風の顔立ち。服装は中世の騎士みたいな感じで、多分私より年下――でも、コスプレにしてはレベルが高すぎだ。全身からキラキラオーラが出でて、まさにトルシュ国の王子、アーサー=トルシュ様降臨って感じ。 

 

 特別企画満載! なんてツアー要項に書かれていたけれど、こんなにハイレベルな企画だとは、目からウロコだ。


 青年は私と目が合うと、卵を抱えたまま険しい面持ちで私へと詰め寄った。


「姉様っ。一体何があったのですかっ。巫女を……神獣の巫女を召喚出来たのですか!?」

「…………?」


 迫真の演技を見せる青年に、私は圧倒されて言葉を失った。

 えっと。これは……何の企画が進行中なの!?



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