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プロローグ「アキバへ行こう!」

 世間では日本で開催されている世界陸上や有名人の失言問題などで盛り上がっているご時世に僕達はだらけていた。

 時は七月の下旬。まだまだ夏休み真盛りであり、高校生活最後の夏休みでもあった。だけど、別段特別なことも全くなく、宿題もやらずにだらだらと毎日を無意味に過ごしているだけである。

 別に進路の事なんて何も考えていないし、進学するかも就職するかも決めていない。将来の夢なんてものはありもしない。

 高校生活最後の青春を彼女と海で過ごす〜。なんて考えなかった訳でもないんだけど、僕には彼女はいないんだこれが。

 太陽の熱光線ビームを浴びながら、駄菓子屋の前に置いてある椅子に座り、アイスを頬張る。両隣には小学校からの腐れ縁である二人が同じようにだらけた様子で座り、同じようにアイスを食べていた。

 右隣に座っている背が高いのが通称、ノッポ。昔から背が高くて、背が低い僕をチビ呼ばわりして来たから、僕が復讐の意を込めてその仇名をつけたところ、定着した。ちなみに僕、同様に高校三年間で彼女は出来ていない。

 左隣に座っているのがノッポよりは背が低くて、僕よりは高い筋肉質な男が所謂、変態。小学校低学年の頃からエロに目覚め、今日に到るまでにエロ道を極め続けて来た為に僕が変態という仇名を付けた。すると、これまた定着してしまったのだ。

 この変態だが、実は僕達三人の間では唯一、彼女が出来た男でもある。しかし、二週間足らずで別れてしまい、理由を聞いたところ、したり顔でこう答えた。

 だって、中々やらせてくれないからさ。

 その言葉を聞いた瞬間、僕は思ったね。

 バカなの? どんだけエロいの? 死ぬの? と。

 まぁ、そんな小一時間ばかり説教したくなる理由で彼女と別れた変態と部活動から引退してしまったノッポと、毎日暇を持て余している僕の三人は何をするでもなく無作為に夏休みを過ごしていた。

 アイスを食べ終わった僕は特にすることもなく、空を見上げる。

「あち〜な〜」

 と僕が感想を漏らすと左隣の変態が、

「そりゃ、夏だからな」

 そんなありきたりのツッコミを入れる。そんなことは百も分かっている。今は夏だから暑いのは当然か。

 遠くでは蝉が鳴き続け、目の前に道路があるのだが、さっきから車一台通りやしない。

 あぁ、言うのが遅くなったけど、ここは東北地方のとある県の片隅にある小さな田舎町。あまりにも小さすぎて町というよりは村じゃないのかとツッコミを入れたくなるけど、町なのだ。

「なぁ」

 これからも意味のない夏休みを過ごすんだろうなぁ。そう僕が思っていた時にノッポが声を上げた。

「ん?」

 僕と変態が同時に答え、ノッポもまた答えた。

「アキバにいかねぇ?」

 言い忘れていたけど、僕達三人は学校の成績はバラバラ。得意な球技もバラバラ。だけど、三人共通の趣味はある。それはアニメとかゲームだ。世間一般的から見れば僕達はオタクと呼ばれる部類に入るのだろうけどね。

「いやさぁ。真のオタクならアキバに行かないといけないじゃん?」

 太陽の熱ビームにやられてしまったのかノッポは重要なことを忘れていた。僕達は高校生だ。バイトもしていない。つまり、

「そんな金どこにあんだよ?」

 そう、お金がない。僕の手持ちは二千百十二円。はっきり言って電車で往復も不可能だ。

 にやりとノッポは笑みを浮かべ、駄菓子屋の横に停まっている三台の自転車を指指した。

「自転車があるじゃねぇか」

 アホかお前は。それが僕の感想。

「そうだなぁ……毎日、こうしているのももったいねぇしな」

 それが変態の感想。

 折角の夏休み、何か変わったことがしたいのは僕も変態も同じ気持ちだった。結局、その日は親に聞いてからにするかということで丸く収まり、日が落ちてくると別れた。

「で、ノッポがそんなアホなこと言い出したんだよ」

 時と所変わって、夕食の一家団欒時。僕は父さんと母さんにノッポの計画を話した。当然、母さんは、そんな危ないこと止めなさい。とかいってくれると思っていたし、父さんも心よく思わないだろう。そう思っていたけど、

「行って来れば、良いじゃねぇかそして旅を通じて少しは大人になって進路のことでも考えて来い」

「えぇえぇぇえ!? 東京だよ? 自転車だよ? そんな危ない旅を可愛い一人息子にさせるのか〜い!」

「何を言う、可愛い子には旅をさせろって言うだろうが。なぁに自転車なら心配すんな。ロードレーサーでもマウンテンバイクでもママチャリでも好きなの使わせてやるからよ。ほら、これは軍資金だ旅の都銀にでも使いな」

 そう言って、諭吉を三枚渡された。これで旅の途中の食料を買えということだろうか。

 ピンポーンとお決まりの音が鳴り響き、来客があったことを告げる。母さんが対応に向かい、少しすると、ノッポの親父と変態の親父が母さんと一緒に入って来た。

「よう、チャリ屋。ウチのバカ息子から話はきいたぞ」

「おぉう、電気屋、料理屋。自転車でよけりゃ、好きなだけウチのを使え。わはははは」

 僕の家は昔からこの町で自転車屋を営んでいる。父さんはじいちゃんの後を継いで自転車屋を切り盛りしているのだ。

 ノッポの家は電気屋。変態の家は料理屋で、僕とノッポと変態の父さんは昔からの親友だったらしい。ちょうど僕達と同じように。

 そんなこんなで親父三人衆は盛り上がり、僕達の自転車アキバツアーは決定した。ったく、少しは反対しろっての。深夜徘徊で捕まったらどうしてくれる気だ。

 そんなことを思っていた僕だけど、少しだけワクワクしていたのは内緒だ。

 大人の許可を得た事で次の日から僕達、三人は計画を立てた。無闇に実行に移しても遭難は必須なので、まず地図の購入。ルートの設定、食料と飲料の確保が焦点になった。もっとも、これは全て僕が言い出したことで他の二人と言ったら、

「行き当たりばったりでも大丈夫だろ?」

 マジでアホか。大丈夫な訳ないだろうに、遭難して死にたいのかと言いたいよ、まったく。

 持っていくものの分担はそれぞれの家を考えれば自ずと分かるものだ。

 まず、自転車屋の僕はタイヤがパンクした時の修理用キットに地図など。料理屋の変態は飲み水や食料全般。電気屋のノッポはキャンプに使うアウトドア用品。

 ここで補足しておくとどうして電気屋のノッポの家にそんな物があるかと言うと、何故かは知らないが取り揃えていたから。と言う他ない。

 七月下旬に提案され、計画して来た自転車ツアーの出発日は八月一日に決まった。

 その日の早朝六時。僕達三人は真新しくてイカしたマウンテンバイクに跨り、駅前から伸びる町を出る為の一本道の前で並んでいた。

 後ろを振り返ると、そこには見送る町の人々。なんているはずもなく、ただただ道路が伸びていただけだった。

「よし……行くか」

「あぁ」

「アキバを目指してなぁ!」

 変態、僕、ノッポの順で口を開き、大きな荷物を背負いながら自転車のペダルを大きく踏み込む。

 ノッポの提案から始まった高校生活大一番の計画は今、実行に移されようとしていた。

この作品を呼んで頂きましてありがとうございます。いつかは書きたい書きたいと思っていた作品ですのでこうして書くことが出来て、かつこのような場で発表することが出来て嬉しいです。

この物語は実話を基に再構成したフィクションであり、今からもう数年も前のお話ではありますが、思い出とは美しいもので、今でも鮮明に思い出す事が出来ます。少しの間、この物語が完結するまでの間、お付き合い頂ければ幸いかと思います。

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