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ようこそ! カフェオンライン部へ!  作者: 石山 カイリ
守晴はどこへ行ったんですか~♪
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落とし物と三紅

「ヤバイヤバイ! 遅刻だ! 姫乃に怒られる!」

 雪那と神坂が理事長室で話を繰り広げている頃、三紅はいつも通り、渡り廊下を走っていた。

 三紅は、モカと同じクラスである。


 しかし、それなのに、モカが一緒に走っていないのは、三紅がホームルーム後、クラスメイトと楽しくお喋りをしていたからである。

 モカは開店準備があるので、先にカフェオンライン部に向かった。


 実のところ、三紅は開店中が忙しいだけで、準備や片付けの時の仕事はあまり、というより皆無である。

 最初こそ、床掃除や机拭きなど、あったがその仕事を椎菜や守晴に取られてからは、毎日のように遅刻ギリギリ生活を送っている。


 そんな三紅が、一階の渡り廊下を歩いていると、声が道を逸れた茂みのほうから聞こえてきた。

「あれー、どこ行ったんだろー?」

 興味心が旺盛の三紅は、気になり走りながら視線を声のしたほうへと向けた。


 そこには、四つん這いの腰まで長い紅髪を、後ろで一つに結わえた女性の姿があった。

 女性は、さらに姿勢を低くし、茂みやベンチと、地面の隙間を覗き込み、時には手を突っ込み何かを探しているようだった。


 近くのベンチの上には、女性のものと思われる黒のビジネスカバンが乱雑に投げ捨ててあり、また服装もスーツ姿。そのスーツが汚れるのもお構い無しに、探していることら、よほど大切なものを落としたのであろう。


 そこまでを、その場で足踏みをしながら、確認している三紅は心の中で葛藤していた。

 女性を助けたい気もあるけど、遅れたら姫乃が怖い。今は守晴がいないから余計に、だ。

 守晴が身勝手に武者修行に行っている今。四人でも手一杯で、雪那のフォローに――本人は否定しているが――、甘えているのが現状である。


 そこに、さらに三紅もいないとなると、完全に終わる。それは楽観主義者の三紅でもわかっている。

 わかってはいるものの、三紅だって学生だ。仕事より人助けを優先することに、靡きやすかった。


「それに、姫乃がいるもんね。姫乃本気を出したらすごいんだから……!」

 そう三紅は自分に言い聞かせ、人助けに向かう。

 呼吸を整え、ゆっくりと歩みを進め、女性の背後を取ると、同時に声。


「あ、あの……!」

 瞬間、女性の甲高い絶叫。

「ひゃうッ!!!!」

 その絶叫に驚き、三紅の連鎖するような絶叫。

「キャッ!!!!」


 そんな、二つの高周波兵器が暴発し終わり、僅かな静寂。の後に、紅髪の女性は謝罪しながら立ち上がる。

「え、えっと、ごめんね!? 急に大声を出して」


「あ、い、いえ! 私も急に背後からこえを掛けてしまい、ごめんなさい!」

 そんな二人のやり取りが終わり、振り返った女性の頬は、年甲斐もなく声上げてしまったことが、恥ずかしいのか紅潮している。


 そんな泥が若干ついたスーツの女性の容姿は、三紅の母に負けず劣らずの童顔であり、スーツ姿じゃなければ、高校生と見間違えていた。

 桜色のぷくりとふくれたリップ。素材の良さを生かした薄化粧。


 ルビーのような、紅色の瞳。右眼は閉じたままの状態である。

 三紅の顔は、可愛らしい童顔であるが、この女性は愛くるしく、護ってあげたいと思う童顔だ。

 そんな女性の魅力に一瞬にして、心を奪われた三紅。


 口を明け、見蕩れていると、女性がはにかみながら、

「えっと……、あたしは白井(しらい)(あき)。よろしく……」

 と、手を差し伸べて来る。


 それに、慌て、

「わ、私、錦織三紅です!」

 名乗り返しながら、手を両手で取る。

 それを待って、暁は、あどけない笑みで、問う。


「それで、錦織さん、どうしたの? もしかして、あたし、ジャマだった?」

 三紅はぶんぶんと、首を横に全力で振り、否定。

「い、いえ! 何かを探してるようでしたので、私になにかできればな~、と、思いまして……」


「あ、あー、そういうこと? でも、ほら。良いの? どこかに急いでいたんじゃないの?」

 暁は、明らかに目が泳いでいた。

 一瞬に探されては、なにか不味いことがあるのか。そんな明らかな動揺の素振りにも、気づくことなく、三紅が仔犬のように目を輝かせながら、二つ返事を繰り出す。


 どうやら、一瞬で暁に懐いてしまったようだ。

「はい! 私がいなくても、姫乃が何とかしますから!」

「えーと」

 苦悩する暁。


 しかし、三紅は大きな眼を輝かせ、手伝う気満々だ。

 あー、これ、断っても無駄なヤツだ……。と、内心で諦めをつけ、苦笑い。

 同時に言葉を続ける。


「じゃ、じゃぁ、お願いしよっかな?」

「はい! それで何を探してるんですか?」

 三紅がこてんと首を傾げ聞く。と、暁は「あー……」と、唸り声を上げながら、左手を持ち上げる。


 そして、自信の右目を指差すと、同時に声。

「眼、なんだよね……」

「へ?」

 予想を超える。いや、予想を超えすぎる落とし物の存在に、三紅は絶叫を忘れ、きょとんと可愛らしい声と表情で、固まる。

 そんな三紅の反応を見て、「アハハ……」と、申し訳なさそうに、渇いた笑いで、沈黙を埋める。


  * * *


 数分後。

「それでね。私の仕事を活かして作ったのが、その義眼なんだ……」

「へー、すごいですね」

 間が持たないのか、暁は探している義眼のことについて、説明をしている。


 それを興味津々で、眼を輝かせながら聞く、三紅。聞いたことのない新しい取り組みに、胸を弾ませている。もし、暁の言う技術が、実用化されることになったら、目が見えない人にとっては、希望となるだろう。


 そうなれば、どんなに素敵なことだろう。そういう未來を脳内に思い描きながら、暁の義眼を探す。

「ま、あたしは、こういうのがあったら、良いのになぁ、とか、こうしたら実現出来るんじゃない? とかってアイデアを出すだけで、プログラムとかそういうのは、ユイがやってくれてるんだけどねー」


 だから、あたしはそこまでスゴくないよ、と謙遜する。

「いや、そんなことないですよ。思い付くだけでもすごいですって!」

「アハハ。ありがと。そういってもらえて嬉しい、な」


 照れながらも、気分が良くなったのか、暁は今開発中の技術の核心に迫るところまで、語り出す。

「でね。そもそも視覚の仕組みというのは、光を眼球をスクリーンに電気信号に変え、その電気信号が神経という管を通り、脳で再生するっていう仕組み――」


 独特な言い回しすぎて、暁の言っている言葉は半分も分からない三紅。しかし、何とかして話について行こうと、適度に相槌を打っている。

「――前に開発したものは、脳に直接、電気信号を送り、視覚化するもの。これは、夢を見るのの応用なんだ。それを更に応用して、神経の管と脳の再生する機能が正常なら、義眼が眼球の役割をしてくれるんだよね」


「へー。で、今はその試験段階ということですか?」

「ま、そういうこと。でも、機械ものだから、人それぞれの眼球の大きさに合わせる微調整が難しくて、さ。あたしにはちょっと小さくて、ちょっとした衝撃でどっか行くんだよねー」


「因みに、見えるんですか?」

「あー、一回。一時間だけどちゃんとみれるよ。いちおー」

「え!? それってスゴくないですか!?」

「まー、応用だからねー。って、あった~!」


「本当ですか!? 良かったですね!」

「ありがとー、錦織さんのおかげだよー。これでユイに怒られずに済む」

 そんな会話を交わしながら、ぴょんぴょん跳び跳ねる三紅と暁。


 あまりに激しすぎて、暁の手から義眼が落ちてしまったことに、気づかないまま。

 バギッ!

 そのまま数回跳び跳ねた不快な音が足元から聴こえてきた。


 両者、とたんに静まり返り、足下に眼を向けると、そこには、見るも無惨な、機械片があった。

 数秒後。

 二つの高周波兵器が辺りに響き渡る。

 その影響で窓ガラスが何枚か割れたとか割れなかったとか。

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