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ようこそ! カフェオンライン部へ!  作者: 石山 カイリ
守晴はどこへ行ったんですか~♪
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商店街組合会合①

 ここ、楓市商店街には、二つの派閥がある。

 『妖精のイタズラ』というミケラン二つ星を取ったケーキ屋の店主。美冬を担ぎ上げる形で、商店街復興後に、新しく来た店の店主達を中心にした新派。


 もう一つは、『錦織呉服店』を筆頭とした、商店街復興前から、長年、商店街で頑張ってきた店の店主を中心とした保守派。

 新派の代表である美冬は、商店街の更なる発展のため、競いあったほうが良い得策と、考えたため、名前と知恵を貸すだけで、これまでは会合にさ出ていなかった。


 新メニュー開発のため、持てる時間を全て使いたかったからだ。

 そんな美冬が、今回。何を思ったのか、重い腰を上げて、会合に出てくるというので、新派は勢い付き、保守派は気合いを入れている。


 その保守派の代表を勤める『錦織呉服店』の店主、千夏(ちか)も気合いが入っていた。

 現に、勝負服の錦色の着物を来て、組合会合に出席している。

 童顔を隠すために、キツイメイクをしている千夏ら、まさに戦闘モードと言える。


 会合の開催予定時刻より十分以上過ぎているが、向かい側の席、つまり、美冬が座るであろう席は空席のままである。

 これを、こちらを怒らせ、正常な判断をさせない作戦であると、読み、千夏は落ち着き待った。


 時が経つに連れ、あちら派閥に動揺の広がりが感じる気がするも、今まで散々苦しめられてきた宮坂さんの策なら、あり得るわねと。千夏は思考を巡らせる。

 美冬の考える作戦は、いつも新派を成長させるものではあるが、どこか穴を作っている。


 そして、その穴を見つけた時、保守派も成長できるようにしてある。

 すなわち、よく言えば、双方ウィンウィンの策。悪く言えば、美冬の一人勝ちな策な訳だ。

 さすがは、西園寺製薬がお抱えにしたいと思う元通訳士なだけある。


 通訳だけではなく、策も巡らせられる。

 そんな美冬が本気で考えた策だからこそ、千夏は本気で考えないといけない。

 油断できない。そんな相手だという認識でしかない。美冬と千夏は愛娘が同級生だということは、まだこの時は知らないのだから。


「すみませーん! 遅くなりましたー!」

 謝罪しながら、会合の会場に入ってきた人物。それは他でもなく美冬だった。

 急いできたのを演出させるためだろうか、パティシエの服に、鼻にクリームやら、頬に小麦粉やらをつけている。


 肩で息をしている呼吸を整えながら、席へと座る。

 保守派の誰かが、「いいご身分だこと」と、聞こえるか聞こえないか程度の声で、悪態をつく。

 そういう陰湿な行為が一番許せない千夏が、自陣に睨みを利かせる。


 一番の稼ぎ額をトップにする、浅はかな新派達とは違い、千夏はその人望で選ばれた節が多い。

 故に、千夏の機嫌を損なうとハブられる。そう思い千夏の睨み事態は、かわいいものだが、一番恐ろしい。


 もちろん、千夏はそういう陰湿な行為がしないが、他の保守派はその限りではない。千夏のために、千夏がしろと無言で命じたから。等と大義名分を立てて、陰湿な行為をする輩がいる。

 それが、新派のせいでストレスがたまっている今だからこそ、尚更。憂さ晴らしの八つ当たりをするだろう。


 それが、人間というものだ。

 睨みを利かせた後、千夏は美冬に軽く会釈のみの謝罪。

 これに、美冬は起きになさらずにと、言わんばかりに笑みを崩さない。


「さて、会合をはじめますか?」

 千夏が、淑やかに開催を宣言しようとした。のだが、その前に、ちょっと良いですか? と、手を上げる美冬。

 首をやや傾げながら、その問いを許可する千夏。


「ええ、構わないですよ?」

「あの、錦織さんにお子さんはいらっしゃいますか?」

「えぇ、いますよ? みーちゃんっていうかわいいかわいい娘が」


 子煩悩が発動し、千夏は緊張が緩められ、思わず笑みになる。

「そうですか……。あの失礼ですが、娘さんって聖ブルーローズ女学園に通っていませんか?」

「え、ええ、かよっていますが……」


 千夏は、質問の意図が分からず、顔がひきつる。

 美冬が娘を特定し、悪意を持ち近付き危害を加えるのでは、という思いが募って仕方ないのだ。

 今まで、美冬の講じてきた策を見てきて、他人を蹴落とすような策はなかった。なので、美冬はそう言うことはしないと、確信しているし、信頼もしている。


 だが、それと同時に次から次へと策をこうじてくるその、頭のキレの良さから、今までのことは全て演技で、真の美冬は恐ろしいことをする人だとも思えてきてしまう。

 だが、そんな不安も全て、会議終了後には取り払われることとなる。


「やっぱり! そうだったの。うちのモカちゃんとお友達の三紅ちゃん。錦織さんの所の娘さんだったの」

「へ?」

 急な展開で、なにがなんだか分からず、なんともマヌケな声を漏らす。


 そして、脳をフル回転。

 宮坂、モカ……。

 確か、みーちゃんと一緒な部活の子よね。そして、体育祭の時、部活でミスってしまったみーちゃん達を、モカさんの親御さんがフォローしてくれたって……。


 そこまで思考を巡らし終え、絶叫する千夏。

「あーーー!!!!」

「ち、千夏さん……?」

 高周波ボイスにやられ、頭がぐわんぐわんする中、千夏の隣に座っている電気屋の娘がなんとか千夏の名前を口にした。


 呼び掛けに答えることなく、千夏は勢い良く立ち上がる。

「モカさんの親御さんって、あなただったの!?」

「えぇ、そうよ。お互い知らなかったのは、私の家は商店街の東。錦織さんの家は西にあるからだと思うわ」


 そう、ここ楓市の小中学校の地区分けの一つに、商店街を隔てて、西側と東側というものがある。それで、家が近くても、三紅とモカはこれまで認識がなかったのだ。

「三紅が、迷惑をかけたようですみません」


 と、千夏は体育祭での出来事を深く謝罪する。

 この謝罪の意図が、大半の参加者は理解出来なかったが、新派は千夏は美冬に、借りがあるようだと、言うことは理解出来た。


 この会合は、新派達は勝利を確信しているし、保守派はその逆を確信した。

 のにも、関わらず次の瞬間には、会合は思いもよらないほうへと傾くこととな。

「いえ、良いのよ。それより、錦織さん。娘通しが仲良いのだから、今後は私達も仲良くしましょう?」


 その言葉で、千夏は美冬の思惑を悟った。

 なぜ、これまで知恵を貸すだけだった美冬が、このタイミングで出席したのか。

 それは、きっと、このため。つまらないいざこざを閉廷にする。そのきっかけを生み出すため。


 その思いがひしひしと伝わって来て、千夏二つ返事で応じた。

「はい!」

 こうして、新派と保守派の争いは終結した。

 だが、争いが一つ終結しても、またすぐに新たな火種が生まれるのが、世の常である。


 だが、それは、また別の話し。

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