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ようこそ! カフェオンライン部へ!  作者: 石山 カイリ
守晴はどこへ行ったんですか~♪
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次期アップデート特別βテスト

 隻脚の女性に連れられて、ユゥ姉と椎菜が待つ家へと戻った雪那。

 戻るとすぐに、椎菜、雪那、そしてユゥ姉の三者による謝罪の応酬。

 どうやら、ユゥ姉もあの態度は、本心ではなく、この女性と引き合わせることと共に――おそらくこれが一番の目的――迷惑料という建前で、次期アップデートのベータテストに招待したかったようだ。


 という名目で、次期アップデート版で、椎菜と雪那と闘いたかっただけだ。と、隻脚の女性――黒崎(くろさき)結花(ゆいか)――は、冷たく訂正する。

 その訂正に、ユゥ姉は弁明でも、ごまかすでもなく、ただただ開き直った。


 まったく残念な大人である。

 結花がベータテスト用の、パッチディスクを【ハートバディギア】にインストールと、適合するため、パソコンをカタカタしている。

 どうやら、彼女は《KAMAAGE》システムエンジニアのようだ。


「ねー、結花~、まだー?」

「ねー結花さん、あとどれぐらいで出来そう?」

 と、神坂姉妹は、かたや横柄に、かたや丁寧に催促した。これに、結花は冷たく冷ややかな笑みで応対する。


「そんなに言うのだったら、あなた達がやれば?」

「ボクが? 無理に決まってるじゃん? だから結花を呼んだんだから」

 結花って天然なところあるよね。と微笑混じりに続けるユゥ姉。それに、「確かに!」と。椎菜の同調。


 向けた嫌味を、純粋に返された結花は、怒りのあまり肩を震わせる。

「これだから、戦闘狂は……!」

 ぶつぶつ言いながら、作業をしていると、唯一、三人の中でまともな雪那が、丁寧な謝罪。


「な、なんか、ごめんなさいね。結花さん。ユゥ姉? はどうか分かりませんが、椎菜は普段は聞き分けの良い子なんですけど……」

 真剣な謝罪に、ため息混じりで別に。と、結花は言葉を続ける。


「気にしていないわ。ユゥは仕事で忙しくてなかなか椎菜に会えないし、椎菜もユゥと遊びたいだけだから。それに、ユゥは、私が調整にてこずってるから、気を紛らわそうとしてくれているのよ」


「そう、なの?」

 雪那が、ユゥ姉に視線を向けながら、結花に聞き返す。見ると、ユゥ姉は、子供のように目を輝かせながら、出来上がるのを待っている。

 到底、そのような考えがあるとは思えない。


 そんな事を内心思っていると、結花が注釈を加えた。

「ま、一割ぐらいはでしょうけど……。ねぇ、ユゥ?」

 結花の呼び掛けに不思議そうに、ユゥ姉が応じた。


「なーに?」

「今回はベータテストということだから、十個あるステージのうち、二つ、【森林ステージ】と、【ほとりステージ】のランダムで良いかしら?」

「うん!」


 結花の確認に、一縷の狂いなく頷き返すユゥ姉。どうやら、次の大型アップデートで加わる要素は、ステージ変更らしい。ランダムのみなのか、選択も出来るのか、わからないが、ステージが追加されることは地形も大きく変わるということだ。


 そうなると、自ずと戦術も多岐に渡ってくる。

 その戦術を考えると思うと、今から内心ワクワクが止まらない雪那であった。

「あと、システム的に問題ないと思うのだけれど、安全のため、今回は【ペイン機能】はロックするわ、良いわね?」


「えー、あれが無いと感覚が鈍るんだよなー」

 二人が話す【ペイン機能】とは、大型アップデートで、実装された、痛みや触覚を擬似的に軽度で体験できる機能のことである。

 ユゥ姉が【ペイン機能】入れてよーと、ぶくれていると、結花がある可能性について、語り出す。


「別に入れても良いけど、椎菜と雪那さんはロックする設定にするだけだから……」

「えー、ボクも、【ペイン機能】? ありがいいな」

 と気楽に言う椎菜。これを結花は、一刀両断する。

「だめよ」


「えー、なんでさー」

 椎菜がユゥ姉と同様、ぶくれる。

 そんな聞き分けのない子供のような姉妹を、結花は諭すように、理由を紡ぎ出す。

「椎菜と、雪那さんはまだ、【ペイン機能】に脳が慣れていないの。そんな状態でリアルなステージを体現した、空間で【ペイン機能】ありきで送り込んだら、【ノージーボ効果】を引き起こす危険があるわ。そうしたら最悪《KAMAAGE》がなくなってしまう危険があるの」


「えー、それはイヤだ、な。ボク」

 椎菜が渋々納得する。それに胸を張りながら、自慢気に鼻をならすユゥ姉。

「ふふん。大型アップデート前のベータテストは、多少機能が制限されてるものだよ」


「ユゥ。さっきも言ったけど、プログラム的には問題ないと、断言できるわ。でもね。万が一ということがある。それがベータテストというもの。そして、この場合の最悪の万が一は、誰かの【ペイン機能】に連動して、ロックした【ペイン機能】が外れることなの。その場合、やはり《KAMAAGE》はなくなってしまうわね。そうなると椎菜に死ぬまで恨まれるわね」


「それは、困る! ボクも【ペイン機能】ロックで良いよ!!」

「そ、わかったわ……。で、あと、これは相談なんだけど、タッグ戦の組み合わせ、私と雪那さん、ユゥは椎菜と組まない?」


 この提案に椎菜は目を輝かせながら、雪那は冷静に賛成。

「うん、ボクは良いよ!」

「ええ、私も問題ないわ。結花さんが言ったように、ベータテストは、万が一というものがつきもの。同じチームに運営側の人がいたら、その不具合をいち早く気付けるでしょうから、気兼ねなく闘えるし、ね」


「ボクも良いけどさー。それって、バランス悪くない? だってさ、結花ってボクに一度も勝ったことないじゃん? 雪那さんもさー、悪いけど、椎菜に一度も勝ったことないじゃんか?」

 ユゥ姉は、更に言葉を続ける。だからさ、バランス悪くない? と。だからさ、組み合わせチェンジしたほうが良くない? と。


 雪那は確かにその通りだと、思った。そこに別に悔しさはなかった。あるのは、ただただベータテストを長く満喫したいという思いのみ。

 そのためには、ユゥ姉の提案通り、組み合わせを変えたほうが、より遊べるのではないか。そう考えたのである。


 それは、椎菜もユゥ姉も、同様である。

 しかし、結花だけが違った考えを持っている。いな、システムエンジニアの彼女が持っているのは、考えではなく、事実。

「でも、ユゥ。このアップデートファイルが出来てから、私と一度も闘ったことないでしょ?」


「そ、それはそうだけどさー」

「だったら、闘って見ないとわからないのじゃない?」

 挑発的な視線を向けられては、戦闘狂のユゥ姉も食い下がるしかなかった。それは、椎菜も同様であるが、椎菜のほうが回りを気遣えるようで、雪那に確認を取る。


「ゆ、結花さんがそこまで、言うなら、ボクも構わないけど……。雪那はどう?」

 雪那の答えは決まっていた。

 結花と出会った土手でのやり取りを思い出したからだ。


 一つ、次のアップデートは、雪那向きのものになるということ。

 一つ。自分も雪那と、同じような存在であること。

 そして、さっきのユゥ姉の言葉にあった結花は一度もユゥ姉に勝ったことないということ。


 それなのに、挑発的な態度を取り、自分の意見を通そうとしている。

 それから導き出される答えは一つ。

 結花は証明しようとしているのである。

 次のアップデートで、凡人が天才に勝つことが出来るということを……。


  * * *


 うっそうとした大小様々な木々が、不規則に存在する、まさに未開の地と行っても過言ではない、独特な雰囲気が漂う場所。

 その場所に光柱と共に降り立つ四人の戦士達。四つの光の柱は、二つずつに別れ、地上へと到達する。


「時期アップデートは、聞いての通り、十個のステージが追加され、計十一個のステージとなるわ」

 そのように、解説をしているのは青銅色の槍を持つ、長い蒼髪の少女。デフォルトキャラ、絶対零度の殺神を操る、結花――アバター名、微笑みの殺神――だ。


 その解説を聞くはもちろん、ヘカテー。

「ステージによって、戦いの特色が違うの。例えば、この森林ステージなら、ゲリラ戦。相手の位置がどこにいるか、分からないままスタートするわ。そして、もう一つ話に上がったほとりステージは、湖の対岸でスタートして、どのように相手に近付くか、近づけさせないかがポイントとなるステージよ。もちろん、ステージにより有利不利なキャラもいるわ。そこの相性をどうやって埋めるかも、大事な要素になってくるわ」


「なるほど。でも、それだったら、話し合いタイムはどうなるんだい?」

「ステージにもよるけど、次のアップデートでなくなるわ。ステージに降り立ったと同時に即スタートよ。ま、チーム戦の場合は、いずれのステージの場合にも三十秒間の作戦タイムが儲けられるけどね。また、対戦時間も、ステージによって異なるわ」


「そ、そうなのかい?」

「ええ、そうよ。ま、今回はステージ説明も入れているから、三分に設定しているけどね」

「了解したよ」

「それで、さっき、あなた達の対戦のログを確認したのだけど……」


「そんなことしていたのかい!?」

 ヘカテーが絶叫。

「ええ、だって、私だけ知らないのはフェアじゃないでしょ?」

 サラッと、殺神は自分のしたことを正当化する。


「た、確かにそうだけども……」

 ヘカテーの濁した言葉など、気にする素振りもなく殺神は、言葉を続ける。

「それで、ログを確認したのだけれど、あなた、ユゥの剣変則撃をかすり傷程度で凌いでいたわね」

「そ、そうだけど、それがどうかしたのかい?」


 殺神は微笑みながら、素直に称賛した。

「それは、スゴいことよ。ユゥの変則剣撃をかすり傷で抑えれる人なんて、世界中探しても、そうはいないわ」

「それはどうも」


 その称賛の言葉に、キザに応じたヘカテー。その顔は少し赤らんでいた。

 そんなヘカテーに、殺神はこんな提案を持ちかけた。

「それで、そんなあなたにぴったりな雪魔法が二つあるんだけど、どう?」

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