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ようこそ! カフェオンライン部へ!  作者: 石山 カイリ
守晴はどこへ行ったんですか~♪
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閑話 星とその姪

 椎菜と雪那が電車に揺られている頃。

 アメリカ、アラスカ地方のとある森奥。

 そこに守晴はいた。

「フッ!」

 そんな短い気合いの声と共に、繰り出される掌低突き。


 空気を轟かせながら拳が向かう相手は、守晴の三倍はあろうかと言う、ヒグマ。

 その腹に見事クリーンヒット。

 たった一撃でアラスカの森の食物連鎖のトップに君臨する、ヒグマは儚い断末魔を上げて地面に倒れる。


 その光景を目の当たりにした、守晴の後ろにいた二人のうち、一人はあり得ない光景を目にしたかのように、青ざめ、もう一人は平然にノートパソコンを片手に、何やらタイピングをしている。

 そのうち、青ざめている髭面の大男のほうがガイド。


 ノートパソコンを持っているほうが、守晴の叔母、ステラである。

 ステラは全身の色素が欠落しているアルビノであり、オーロッディーユ家は、代々少なからずアルビノの影響を受けている者が多い。


 守晴の髪が灰色なのはアルビノの影響だ。その中でもステラは、アルビノの影響を強く受けたようで、髪は白く、瞳の虹彩もそれを構成する色素がない。


 なので、血管の赤い色が浮き出ている。

 雪より白い肌は、日焼けをしない。代わりに陽射しにめっぽう弱い。

 そんな彼女だから、全身をUVカット加工されてある特注の白スーツに包んでいる。


 そして、登山バッグを背負い、腰にはサバイバルナイフ一本と、到底ヒグマを狩るような装備ではない。

 それは、守晴も同様である。いや、素肌のほうが軽装で、武器の類いを一切所持していない。


 男が青ざめているのも当然である。

「おお、仕留めたんか。以外にあっけなかったな」

「うん……」

 ステラが当然のように言うと、守晴がすこし残念そうに頷く。


 そんな守晴にステラはパソコンに目を落としたままほれ、とサバイバルナイフをノールックで投げ渡す。

 それを危うげなく、空中でキャッチする守晴。すると、そそくさと慣れた手付きで血抜きを開始。


「あ、あんたらなにもんなんだ……」

 そう英語で聞いたのは、ガイドの男。悪魔を見ているかのように、表情に影をおとしている。

 彼の名前は、ガブリエル・ニュートン。猟師歴二十年、ガイド歴五年のベテランだ。


 ここアラスカでは、外国人が狩を行うときには、必ずガイドをつけなければならない。

 そんなわけで、組合の当番制で、彼がガイド役になった。


 彼は、二人のことを、単なる興味本意で狩をしたいがためのセレブだと、考えた。

 年に数人いるのだ。

 こういうバカな人たち。

 そして、怪我をしたら、あんたのせいだ! という良くて罵倒、裁判沙汰に発展する。


 今回の二人組もそうだと思った。

 素手でヒグマを倒せる者なんて誰が想像できようか。

 故に誓約書を書いて貰った。ガイド中、何が起こってもガイドはその責任を負わないという内容の誓約書である。


 二人は、彼の予想通り、二つ返事で誓約書にサインをした。だが、反対に予想外の展開も起きた。

 誓約書を書かされたのだ。内容は、狩中の出来事は一切口外しないという内容だった。


 彼には都合の良いことであったので、彼もまたこの誓約書にサインをした。いな、してしまった。言葉巧みにサインするように誘導させられたのだ。

 確かに彼にとって、都合の良かったのは事実だ。


 警察沙汰になっても、誓約書により、少しは守られる。

 そう思ったことも事実だ。

 しかし、まさかこんなことが起きようとは。

 この二人、主に大人のほうは、最初からこうなることを予見していた。故に誓約書を書かせたのだ。


 素手でヒグマを倒せる子供がいたのだ。

 その事実は口止めでもしていない限り、瞬く間に世界を駆け巡るだろう。

 そうならないように、事前に誓約書というかたちで口止めをしたわけである。全てはステラの手の上というわけである。


「それを聞いてどないしはるん?」

 ステラがタイピングの手を止め、首を傾けながら問う。

「び、別に、どうしようもする気はねえよ。あんたらに逆らったら命がいくつもあっても足りねえかんな」


 ガブリエルは、言葉を慎重に選びながら、かつ普通を意識しなが声を発した。

「まぁ、酷いわぁ。うちらをそんな狂人みたいに言い張って」

「でも、出来るか出来ないかって言ったら出来るだろ?」


 自虐的な笑みを浮かべるガブリエルに、ステラはあくまでも冗談っぽく続ける。そこに殺意も狂気も一切感じ取れず、むしろ安心感すら感じられる。そんなオーラを纏っていた。

「そうやなぁ、出来る出来ないで言うと、確かに出来るなぁ……。ただ、うちも姪もそんなことはせえへん。これは、ほんまよ?」


「だろうな。こういう仕事をしていると、殺気に敏感になる。あんたらにはそういった気配が一切しない。うまく気配を隠せるやつはいるが、そういうヤツはたいてい目で分かる。あんたの目はそれではない。どちらかと言えば、商売人のソレだ」


「それはそれは、ありがとうなー、そういってくれて嬉しいわ」

 だがなと、言葉を続けるガブリエル。

「あんたの姪の眼には、闘志しか感じねえ。そんなことはありえねえんだよ。人間はより多くの感情が戦っている間でも目には出る生き物だ。いや、獣だってああいう風にはなんねえぞ。まるで、そういう風にプログラムされた機械みてえだ」


 ガブリエルの見解を静かに聞き終えた、ステラはフッと鼻で苦笑。

「機械みたいかぁ。言い得て妙やな。あながち間違ってはおらへんよ。だけど、それはちとナイーブな問題や。深く突っ込まんといてくれると助かるんやけど……」


「ああ、あんたらには深く関わるのはごめんだかんな。ま、でも、これだけは答えてくれや。あんたらはなにもんなんだ? 人外の生き物なのか?」

「最初に言ったとおりやよ? ただの物書きとその姪。そして、うちらみたいに力に恵まれたもんは、世界中、結構おるで」


 その応答に、ガブリエルはハンッ! と鼻を鳴らした。

「お前らみたいなばけもんがそうゴロゴロいてたまるか!」

 そんな捨て台詞を吐き終えたガブリエルに、ステラはかもなと、肩を竦め清々しく笑う。


 それと、ほぼ同時。血抜きが終わったらしい守晴が、幾分か軽くなったヒグマ――それでも百キロを軽く超えるが――を軽々と背に抱えている。

「ステラおばさん。血抜き終わったぞ」

「おお、たすかったわ。それでどんなんなん?」


 守晴は視線を下に落とす。

「いや、まだまだだ。まだ、自信が持てない」

 それを聞いたステラは、一瞬だけ鼻白む。と、しょうがないなと言わんばかりの苦笑。

「そう、か。ま、好きなだけうちに付いてくればええ」


「ああ、助かるよ。ステラおばさん」

「が、うちのメンツのためにも、留年だけはせんといてな」

 さりげなく釘を刺すステラ。これに守晴が肩を竦めながら苦笑。

「耳が痛いな」

 守晴が戻るのはもう少し先の話になりそうだ。

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