表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ようこそ! カフェオンライン部へ!  作者: 石山 カイリ
守晴はどこへ行ったんですか~♪
81/108

Today is the day……

 二千三十九年七月三日の日曜日。

 黒の太ももが見えるほど短いミニスカートの大胆さをカバーするように黒のニーハイソックスで肌の露出を抑え、清楚さを保っている。


しかし、ニーハイとミニスカートではカバーしきれない、露になった白い腿。上は、短い藤色のショールで隠されているが、白のショルダーカットトップス。

 こういう服装を着なれていないのか、頬を少し赤らめているのが初初しい。


 そんな彼女のコーデを一番いかせる場面が椅子に座っている時。腿と腿の間から下着が見えるのではないかと。それだけでほとんどの男は胸踊る。

 幸か不幸か、彼女は常時、その体勢を維持できるのだ。


 その理由は、他でもなく、白色のフレームの車イスに乗っている、椎菜だからだ。

 男性からは、性的対象と見られ、女性からはお人形さんみたいに見られ、行き交う人々の目に止まる。


 そんな椎菜のコーディネートは、質の言い藍色の髪が際立つように、緻密に計算されている。

 ナンパされてもおかしくない。が、やはり右目につけている眼帯が、中二病ぽく印象付けて、不埒な輩を寄せ付けない。


 それでも、行き交う人々の瞳に晒され続け、気恥ずかしくなり、シースルーの前髪をいじっている。

 この服は、ゴールデンウィークに、『メイプルアーホルン』で、自身のアパレルブランドを持つユゥ姉に、コーデをして貰い買った、いや押し付けられた勝負服だ。


 普段着はいつも、一緒に暮らす理事長である詩野がコーデをしてくれているが、大事な日には、アパレルブランドを持つユゥ姉がコーデをしてくれた服を来て行くに間違いはない。

 そんな浅はかな考えで、着てきたのだが、やはり恥ずかしいものがある。


 そんな椎菜がいる場所は、待ち合わせ場所の駅の前。

 誰と待ち合わせしているのか。もし、男なら間違いなくイチコロであろう。しかし、今日の待ち合わせは、そういうものではない。


「お待たせ……」

 そのように声を掛けてきた女声。それは、どこか素っ気なく聞こえるも、慣れてしまえば、喜怒哀楽が充分に読み取れる。

 現在の彼女の『お待たせ……』という言葉には、胸弾むような抑揚が伺える。


待ち合わせというのは、そんな彼女のことで、椎菜は満面の笑みで、声のしたほうへと顔を向ける。

 そこには、赤と白のスニーカーに、紺のジーンズを思わせる生地のジャージ。ほとんど白に近い青色の半袖ティーシャツの上から少し大きいのか、左の肩から腕までが出ている薄手の上着を着こなした人物。


 その者が何者なのか。それは、首から上を見れば判る。

 赤渕メガネに、黒のスポーツキャップに入りきれてない、アッシュグレーの髪は、くるんと渦を巻いている。


 そう、聖ブルーローズ女学園、高等部三年生の桐谷雪那だ。

 二人は、雪那の指導対戦をするという名目で、おちあい、遊ぶ約束をしていた。

 こうでもしないと、報道部に目を付けられている今おちおち人前で会えないのだ――まぁ、これでもおそらく一人や二人は尾行しているであろうが――


 そんな事に思考を巡らすと、頭が痛くなりため息が漏れる雪那である。

「雪那さん、私服カッコいい!」

 と、純粋無垢な瞳をキラキラ輝かせ言う椎菜。それに雪那は毒気が抜かれ、顔が弛む。


「そう、ありがと。椎菜も、その似合ってるわよ」

「ほんと!? えへへ……。嬉しいな。さすがはユゥ姉がコーデをしてくれた服」

 照れくさそうに後頭部を擦っている。


 と、雪那が、不思議そうな表情を微かに浮かべながら、

「ユゥ姉?」

 首を傾ける。

「あぁ、そういえば、雪那さんは会ったことなかったんだよね。詩野姉ぇ、つまり、理事長の双子の妹。ボクの尊敬しているほうの姉ちゃん」


「へぇ、ミィナって、理事長以外に姉いるのね」

 自分の利害にならないと、判断した者の名前は覚えないで、お馴染みの雪那が、案の定椎菜の名前を間違える。

 しかし、椎菜は訂正する事なく、会話を続けた。


「うん。いるよ。雪那さんは姉妹か、兄弟っている?」

「いいえ、雪は一人っ子よ」

「えー、うらやましい!」

「そう?」


 椎菜の首肯。

「だって、ボクの姉ちゃん、どっちともシスコンなんだもん!」

「そうなの?」

「うん。ユゥ姉はまだ姉妹放れ出来てるからいいけど、詩野姉は一向に姉妹放れ出来てないから困ってるんだよね」


 腕を組んでうーんと、頭を悩ませる椎菜。

 その光景を見ている雪那は、どうしようもなく、笑いが込み上げて来る。

 堪らずクスッと一笑いをしてしまった雪那。それに素早く頬を膨らませる反応を見せる椎菜。


「あー、雪那さん、ひどーい!」

 雪那が口元を綻ばせながらの謝罪。

「ごめんなさいね。あと雪にさんはいらないわ。呼び捨てで結構よ」

 一拍置いた後に椎菜は、純粋無垢な笑みを浮かべ大きく頷く。


「うん。わかった! 雪那」

 自分で言っておいて、椎菜のあまりもの純粋な可愛さに照れてしまった。

 そんな自分の顔を見られまいと、雪那は身を翻し、言う。と、同時に歩き出す。


「ほら、行くわよ」

「あー、待ってよー」

 その後を追うように、駅の中に入って行く。

 最近は切符や入場券等をスマホで、一括管理できるようになってきた。


 もちろん、それは障がい者特有の割引制度も同様である。

 電車やバス等は会社に寄って制度は若干の違いはあるものの、たいていは乗る本人の料金が半額なのはもちろん、付き添いの一人も半額。


 椎菜は、通常通りスマホを改札口にかざし、ホームへ入場。今回、付き添いの雪那は、事前に椎菜のスマホからコードを読み込んだスマホで椎菜の後から入場。

 少々手間だが、切符を窓口でいちいち買わないと行けなかった、あるいは現金で支払わなくては行けなかった昔に比べたら、だいぶ楽だ。


 因みに、読み込んだコードの期限は一日で、必ずコードを読み込んだ持ち主の後に入場し、後に退場しなければならない。こうすることで、割引制度の悪用が減らせるそうだ。

 ホームで、二人がそこそこおしゃべりで盛り上がっていると、電車が到着。


 電車の扉が開くのと同時、電車からホームとの段差をなくすスロープが伸びてくる。

 世界で高齢化が進んで来ている中、こういうお年寄りに配慮された造りが、椎菜達車イスの者らの気軽な外出のしやすさに繋がっている。


 聖ブルーローズ女学園がある楓市は、都会と言うには程遠いが、快速電車に乗れば、二時間ほどで東京、郊外へ出れる割りと高条件な場所に存在している。

 そして、今から二人が向かうのは、もちろん東京である。


 二時間の長い電車の旅。その車内にある小さなモニターが緊急ニュースを流していた。

『本日、東京で開催のファッションショーに、出場される予定の高坂柚季。体調不良のため、急遽取り止め……』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ