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ようこそ! カフェオンライン部へ!  作者: 石山 カイリ
守晴はどこへ行ったんですか~♪
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三紅の日常①

 二千三十九年六月二十六日の日曜日。

 近年、大型ショッピングモールや、スーパー、ネットショッピング等に販売競争に負け、影も形も見なくなった商店街。


 この町でも、なくなりこそはしないものの、細々と経営している店舗が数件ある程度であった。数年前までは……。

 そんな、商店街の危機を救ったのは、他の誰でもなく、神坂だ。


 神坂が聖ブルーローズ女学園の理事長に就任し最初にやったこと、それは、古くなっていた学生寮の建て直しだ。

 神坂は、事前に本社である《SMILEY》の力で、商店街の東側の土地を買い占め、マンションという名目で、貸し出し製の学生寮を事前に建てていた。


 そして、就任後。

 そのマンションを、聖ブルーローズ女学園の名義に書き替え、学生寮とし、空き部屋は、他校に貸し出した。

 また、寮の入り口が、商店街側にあることにより、自ずと寮の帰りに、商店街に立ち入り、買い物をする。


 そうすると、商店街に店舗を出そうと思う、事業者が増える。新しい店舗が増えると、学生の立ち寄りもさらに増える。そうしたら、また店舗が増える。更には、忙しくなり、店が回らなくなるという嬉しい悲鳴が上がり、バイトを雇おうとする時、寮の帰り道ということもあり、バイト希望の学生達が絶えなくなる。


 という負のスパイラルならぬ、正のスパイラル。そんなわけで、学生向け商店街へと、発展を遂げ、今や大盛況。

 これにより、地域の人たちからも、人望を集めることに成功した神坂。


 そんな商店街の西側、太い道を三本挟んだティー字路の角にある平屋。

 淡い水色の壁と、赤茶の屋根瓦が特徴的な家。

 その家の一番大きな部屋。


 そこは、家のデザイナーである父が、一人娘のために設計した空間である。

 その部屋には、メルヘンチックな装飾と家具家具。その中で、まず目に飛び込んでくるのは、間違いなく、淡い桃色のプリンセスベッド。


 純白の天蓋を付けられて、まさにお姫様のそれだ。朝になると、天蓋を(とお)って程よい陽光で心地よく起きれるように計算されている。

 だが、今はそんな陽光も見る影もない。

 時刻は既に昼。


 お天道様は家の真上に存在し、自然の目覚ましである陽光も、その抗力を失われている。

 ま、風情溢れる自然の目覚ましは、ここを使っているお姫様には、そもそも意味を持たないのだが。


 ここを使っているお姫様は、お姫様の中でも、眠ることが大好きな、眠り姫。

 しかも、ただの眠りじゃない。惰眠だ。

 現に、昼を過ぎても未だ、ベッドの中央で、すうすうと寝息を立てながら寝ている。


 洋風のお姫様が着るような、ベビードレスではなく、和風のお姫様が着るような真っ白な寝間着を着て寝ている。

 そこに寝ているのは三紅だ。

 三紅の予定のない休日は、大半を寝て過ごすことが多い。


「みーちゃん。いい加減、起きなさーい」

 そのように優しく言葉をかけながら、入ってきたのは、長身の和服美人。三紅の母である。

 黒色の生地に花の刺繍、乳白色の帯で大人びた印象を与えている。


 その風貌こそ、化粧のおかげもあり、二十半ばに見えるが、年齢は四十を超える。化粧化けで、若さを保っているのかのように聞こえるが、驚くことにその逆。

 三紅母がすっぴんでうろつくと、高校生に見えてしまうのだから、世界は奇妙なことに溢れていると、言わざるおえない。


 三紅母は、親子三代で商店街の店舗で呉服屋を営んでいる。数年前まで、経営が厳しかったが、それでも三紅父のデザイナーとしての、報酬料に長年通ってくれているお得意様のおかげで、なんとか潰れずにやってこれた。


 それが、神坂の働きと、三紅のアイデアのおかげで、今は学生向けのレンタル和服サービスとして、忙しくなっていた。

 そして、今日は三紅父と、じゃんけん三番勝負に見事、勝利し愛しの眠り姫のお世話を勝ち取ったのである。


 因みに、この和やかで激しい戦争は、毎週末起こっている。負けたほうが、日曜のお店に立ち、勝ったほうが、三紅と一緒にいれられる権利を勝ち取るのだ。

「みーちゃん、ほーら、起きなさーい。もうお昼過ぎてるわよー」


 再度、優しく起こす三紅母。

 しかし、いっこうに起きない。

「あのー、俺、そろそろ帰ります。この後、仕事があるんで」

 三紅の部屋に通じる扉の前で、挨拶する男声。


 それに、三紅母は少し残念そうに応じる。

「あら、そう? 忙しいのにごめんなさいね」

「あ、いえ、俺が勝手に来ただけなんで、お邪魔してすみませんでした」

「ううん、全然。未来のお婿さん候補なんだから、気にしなくて良いのよ?」


 三紅母がからかい混じりで、告げると、男性こと、王子はゴタッと、何かにぶつかったのか、大きな音を立てた後に反論。

 顔こそ見えなかったものの、三紅母の脳裏には、赤面した王子の顔が浮かぶ。


「な、何を!」

「あら、おー君は、みーちゃんのこと嫌い?」

「い、いや……。でも、三紅姉の。三紅の気持ちだってありますし……。そ、それに、お義父さんの許しが出るか……」


「お義父さん、ね」

 フフと笑いで締め括る三紅母の言葉に、王子は自分の失言に気が付き、あわてふためく。

「い、いや、その……!」

「まぁまぁ良いじゃない。あの人だって、おー君になら、みーちゃんを嫁に出して良いって行ってることだし」


「へ!!!???」

 突如告げられた、両親公認の印に、激しく動揺し、絶叫に似た悲鳴をあげてしまう。

 その反応が可愛くて、ついつい大人げなくからかってしまう三紅母である。


「でも、おー君。みーちゃんは恋愛感情には鈍感でウブだから、誰かに告白されたら付き合っちゃうかもよ? ま、今のところは姫ちゃんが追い払ってくれているようだけど……。それも、高校卒業するまでだと思うわ。それまでに告白しないとね」


「…………。分かってます。じゃ、俺。行くんで。おにぎりありがとうございます。後で食べます」

 真剣な声で言い残し、玄関に向かう王子。

 数十秒後。ガチャリという玄関の開閉音が小さく家の中に響く。それを見計らったのか、同タイミングで三紅は目を覚ます。


「あら、おはよ」

 三紅母の呼び掛けを無視し、疑問をぶつける。

「誰か、来てたの?」

「えぇ、おー君が来てたわよ?」

「え!? なんで、起こしてくれなかったの!?」


「何度も起こしたわよ。でも、みーちゃん起きなかったんだもの」

「その呼び方止めてって言ってるでしょ!?」

「お昼ご飯食べる?」

 会話のキャッチボールが出来ていないのは、いつものことである。


「んー、あまり、お腹空いてないから、昨日余したご飯を食べよっかな?」

「もうないわよ?」

「へ? お母さんが食べたの?」

 三紅が、首をこてんと倒しながら問う。


「いいえ、おー君にお昼に食べてもらったわよ」

 いたって平然のように言い退けた三紅母は、「だって、他にカップラーメンぐらいしかなかったから」と付け加える。

「はぁ!?!?!?」


 三紅の絶叫を伴う可愛らしい怒声が、家中を駆け巡る。

 実は、前々から、三紅母は王子に三紅の残り物を食べさせている。

 その事実をもちろん、王子は知らない。

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