甘那と雪那と……
ここは、《星空出版》経営のメイド喫茶《天使のボイス》。
表向きでは、《星空出版》の経営社が、皆様に安らげる空間を。というコンセプトでやっているが、実際は違う。
喫茶店で楽しくワイワイ、喋っていると時たまポロっと重要な情報を溢すことがある。彼女らはその情報を狙っているのだ。
《星空出版》が喫茶店を開くと、言うことは少なからず、そういうことだ。と理解されているものが多い。
なので、お偉いさん方は近づかない、または来たとしても、気を張り詰めて大事な情報を溢すことが少ない。
では、この作戦は失敗だったか。答えは断じてノーだ。
それらも考慮した上で、計画を立てている。《星空出版》はまだ若い会社で、報道部のOBがやっているということもあり、全体的に若い娘達が揃っている。それらがメイト服を来て接客しているのだ。
大半の男は欲求に逆らえないだろう。加え、やっているのが、聖ブルーローズ女学園のOBで、かつ学園から近いということもあり、こういう店を毛嫌いする若い女性らの集客率も稼いでいる。
ので、ここは普通のメイド喫茶とは違うという、世間体が出来上がっており、敷居を卑しい男達が跨ぎやすい構造が出来上がっている。
また、メイドコースと、普通の喫茶コースで値段も分けられており、主婦層の人気も高くなる。
それが、《星空出版》の筋書きである。
今は、オープンして間もないので、聖ブルーローズ女学園のOBや現生徒の集客が大半だが、OB達が、会社の同僚を連れて来てくれて、その同僚が会社の上司をちらほら連れて来てくれている。
最近では、主婦の方も週に数名来て、井戸端会議をしている。
そんな訳で滑り出しは順調である。
ここからは、リピーターを増やす方法を模索する必要も、新店舗に取っては切り離せない課題ではあるが、それはこの場合既にクリアしていると言って良いだろう。
なぜか。それは、まだ来たいと思えないような店に、会社の上司を連れてこないからである。
これもひとえに、恵子のコーヒーがあってのことだろう。否、コーヒーだけではない。
恵子は、《オールラウンダーのバリスタ》の二つ名の如く、接客や、料理まであらかた器用にこなせる。
対し、《青空出版》の社員はというと、もとは報道部のOBと言うこともあり、一部スタッフは趣味で料理経験者なものの、あくまで趣味止まり。お客様には到底お出しできるような品ではなかった。
これを考慮しても、接客はもちろんダメダメで、ここのスタッフは全員恵子が育てたといっても良い。
その為、恵子に頭が上がらないし、恵子を尊敬している。
恵子も恵子で、その事でえらぶらないし、幼い弟の事を優先で仕事が出きるなら、それだけでありがたいと思っている。
とは、言え、現状は恵子がいなくなると、店が回らないのもまた事実。
なので、恵子が嫌がりそうな情報。例えば、かつての部活仲間の情報や、恵子の直属の後輩であるカフェオンライイン部の情報は、手に入れても上や報道部へ報告しないのが、暗黙の了解となっている。
そんなことを見抜いているのは、恵子はもちろんのことながら、甘那に雪那。
故に、雪那は甘那との密会にここを選んだのだ。ま、一つ問題があるとしたら、もはや、甘那の取り巻きのようになっている、アキラが同行していることだが……。
まぁ、まずい話しを聞かれても、彼女は何気に賢いし、何があろうとも友人は売らない。そんな体質だから、問題はないだろう。
「久し振りね。甘那さん。それと……、なんだったかしら……」
「桜井アキラだよ!? いい加減覚えてね!? 桐谷さん!」
メガネを掛けたクールビューティー系の女性に挟まれてるのに、気後れしないでツッコミを入れる、イモ系女子アキラ。
その光景を、対面で見ながら、爆笑中のメイド服姿の恵子。
仕事がちょうど休憩時間で、それでたまたま面白い組み合わせを見つけたので、加わったようだ。その事も雪那は計算積みなのだが……。
「ちょっと、天野さんも笑わないで貰えますかねぇ!?」
「わりわり、未だに名前覚えられてないんだって思ってよ……」
「人が気にしていることを!!」
と、両脇でテンポのいい漫才が繰り広げているなか、甘那はため息混じりで、本題に入ろうと口を開く。
「それで、要件はなに?」
「あら、連れないわね。せっかく久し振りに合ったのにもっと会話を楽しみましょうよ……」
「よくも、いけしゃあしゃあと、そんな心に思ってないことを……」
「あら、甘那さん。雪の事を誤解しているようだけど、雪は以外に無駄なダベりは好きよ?」
「好きなら、無駄なんて言葉が出るわけないし、それに、これまでの二年間、あなたあたし私に声を掛けたのって、いつも用がある時じゃない?」
「そうだったかしら?」
腹の探り会いをしている二人を中心に、極寒の風が吹き荒れるような感覚に襲われる。
それは、遠く離れた客や、肝が座っているスタッフ達までもが、背筋を凍らせるものだった。
そんな中、発生源の一番近くにいた、アキラと恵子は平然と苦笑していた。
「やっぱり、すごい……」
「ああ、だな……。だが――」
恵子はどこから取り出したのか、銀盆を振りかざし、三つの頭を順繰りに叩く。
「あたっ」「っ」「いたっ」
三者三様の反応を見せ、極寒の風のような圧が収まったのと、ほぼ同時に、恵子の男勝りな口調。
「――おまえらなぁ、じゃれ合うこたぁ、良いが、あたしと弟を路頭に迷わせる気か!!」
「ごめんごめん恵子、そんなつもりじゃないの。ただ、つい、ね?」
軽く謝ってくる甘那に、さらに苛立つ恵子。
「つい、で、店を廃業にさせられてたまるか!」
「路頭に迷ったら、雪が養ってあげるから心配しないで」
「おう、ありがとな! もし、店が廃棄したら、お前の脛がなくなるまでしゃぶり尽くしてやるからな!」
「その時は最近、読モの話しとか、テレビ出演の話とかが来てるから受けるとするわ」
嫌味に嫌味の上乗せで返された恵子の舌打ち。
「なんで、うちまでお盆で殴られないといけないのですかねぇ!?」
正当な怒りをぶつけられた恵子は、
「お、おう、わり……。つい、癖でな」
と、押し黙るしかなかった。
「その癖、やめて貰えませんか!?」
と、まぁ、ここまでがこのメンバーのみが集まった時のお約束だ。
甘那と雪那はよく言えば、似た者同士、悪く言えばキャラ被りな訳もあって、仲が良い。
――そんな甘那と雪那の大きな性格の違いは、主に二つ。
一つは、甘那のほうが、雪那より、血の通っている言い回しが出きると言うこと、もう一つが、甘那より雪那のほうが、柔軟に物事を考えて発言が出きると言うこと――
第一、仲良くなければ、人付き合いが【ヘカテー】モードじゃなければ、苦手な雪那が誘う訳がない。
恵子が言うように、毎回こうやって、じゃれ合うのだ。
ま、慣れていない人に取っては溜まったものではないが……。
それでも、甘那の言うとおり、雪那から会おうって言い出すのは、何か用がある時だけと言うのは事実である。
「それで、あたしに何の用?」
甘那が本日二回目の呼び出した理由を問うた。
一回目とは違い、暖かみのあるこえで……。




