体育祭 エピローグ
二千三十九年六月二十日の月曜日。
体育祭の振り返りで今日は、振り返り休日だ。
そんな中でも、やはり部活の練習等で学園に来ている生徒達も多い。
それを狙うカフェオンライイン部のメンバーも例外ではない。
「ったく、どこ行きやがったんだよ……」
姫乃が悪態を着くように呟きながら、豆の選別を真剣にしている。
普段なら慣れているので、片手間でやるのだが、今日は違う。
理由は、体育祭の時に助っ人で来てくれた恵子からの無言の課題だからだ。
姫乃は、これまで、最良豆、良豆、雑魚豆の三種類に分けていた。
体育祭の当日の朝にもその様に分けていたのだ。
しかし、体育祭が終了し、部室に帰ってきたら、もうそこには恵子はいなかった。その代わりとは言ってはなんだが、コーヒー豆が四パターンに分けられていた。
具体的には、雑魚豆をさらに、二パターンに分けられていた。
これには、最初驚いたが、姫乃も大量とは言わないが、毎日出る廃棄豆、それらをどうにか出来まいかと、思っていた節がある。
それが、頭を過った為、その意図に気がつくまでには、さほど時間はかからなかった。
雑魚豆が二パターンに分けられていた理由、それはブレンド豆として使える豆と、本当に何も使えないただの雑魚豆に分けられていたのである。
姫乃もこの考えは頭に過っていたが、自分の技量では、この二つの豆の選別は難しい。加えて、違う豆同士を合わせることは非常に難しく、それこそ誰かに教えを乞わなければ、まず不可能。
姫乃自身、趣味の領域で作った、オリジナルのブレンド比率が、一つあるだけだ。しかし、それはあくまで自分好みにブレンドしただけで、決して大衆受けに作った訳ではない。
故にブレンドコーヒーを出すことは、現時点では半ば、諦めていた。
だが、恵子の無言の課題は、「お前なら、ブレンドコーヒー作れんだろ?」という期待のものであり、「プロのバリスタになりたきゃ、これぐらい仕分けなきゃ行けないいぜ。後輩!」という、プロとアマの差を見せつけられているものでもあった。
だから、こうして真剣に豆の選別を頑張っているのだ。
もちろん、間違っていたら自分では見分けが付かない。だが、ここには――
「――椎菜ー。確認たのむわ……」
「任せて!」
と、椎菜がまじまじと姫乃が分けたコーヒー豆を見る。
それを不安そうな表情で見守る姫乃。
「ど、どうだ?」
「んー、惜しいかな? 三粒ぐらい混ざってる」
「クソッ!」
椎菜の指摘に本気で悔しがる姫乃。
それを聞いた椎菜がすかさずにフォローを入れる。
「でも、一回目に比べたら、だいぶ減ってるよ? この調子この調子!」
「あんがとな。おまえに言われたら、嫌みにしか聞こえねぇけど……」
「グッ! ご、ごめん。って痛っ!」
姫乃は、自分の言葉を真に受け、ショボくれている椎菜に渾身のデコピンを与えた。と、同時に椎菜がさすがの反射神経で、ピクッと跳ね上がり、瞬時におでこを隠す。
その様子を間近で見ていた姫乃はめんどくさそうに微笑を浮かべる。
「バカか、お前は。いちいちオレの軽口を本気で受け止めんな。それに、感謝してんだよ。こっちは。おまえがいなければ、こうして、間違いも見つけられねぇからな……」
「そっか……。うん、そうだね。これからも付き合うよ!」
純粋無垢な笑みで言う椎菜。その三紅臭が漂う笑みについつい姫乃はからかいたくなってしまう。
「ま、正直、なんで、オレに出来なくて、おまえに出来るのは、自身なくすけどな……」
「そ、それは……」
椎菜が言いあぐねていると、その姿を見て満足したのか、気だるげながらも、やる気に満ち溢れた微笑。
「ま、それも、オレが怠けているせいだかんな。気にするな。すぐ追い付いてやるからよ」
「うん!」
「白雪姫さん。あの質問良いですか?」
「ぁん? なんだよ」
機嫌屋の姫乃が、上機嫌に椎菜と話しているのに、空気を読まず横入りしてきたのは、他の誰でもなくモカだ。
モカもモカで、姫乃とは種類は違うが、先輩が残してくれたメニューを見て、学んで、作って新メニュー開発と言う名の特訓をしている。
今はそれが一段落したようで、一息いれているようだ。
そんなモカが、不思議そうにこてんと首を傾けながら姫乃に、問う。
「あの、一つや二つ雑ざっているだけで、そんなに味って変わるものなのでしょうか?」
「はぁ!? あのなぁ、それはお前が作る料理に砂糖と塩を間違えて入れたとしても味って変わるのか? って聞かれてるようなもんだぞ!?」
「なるほど、そんなに味って変わるのですね……。勉強になります」
「いんや、実を言うと、そこまで変わんねぇ。それこそにわかなら気付かねえぐらいのエグミや苦みがあるぐらいだ。だがな……」
「その道のプロや、本当にコーヒー好きなら分かるですか……?」
モカが核心を着くと、姫乃が力なさげに、モカの方へ指を突き立てる。
「それな……。だから、完璧に仕上げねえと客に失礼だろ?」
「確かにそうですね! 無知ですみませんでした」
モカが頭を軽く下げると、姫乃がフォローを入れる。
「いや、良いって。オレも料理のことについては無知だからな」
そんな姫乃のフォローを援護するように、姫乃のことを貶しに来る男声。
「そうそう、姉貴に謝るなんざ時間の無駄だぜ。やめといたほうが良い」
「薄々気になっていたが、なんで、おまえがここにいやがる!? 王子……」
ものすごい剣幕で、しれっとカウンター席に、座っており、モカの新作を優雅に食べている実の弟、王子に突っ掛かる。
この学園は男子禁制だ。それは家族であろうと未成年は例外ではない。それなのになぜ、と。
言うようなニュアンスで突っ掛かった姫乃に、王子は、この前、体育祭に来たときに見事椎菜に勝ち、手に入れたカフェオンライン部の一年間無料券をキザに店ながら声。
「なんかわかんねえけど、これを持ってっとこの部室にならだが、自由に出入りが出きんだと……」
「ま、マジか……」
「え!? じゃ、じゃぁ、これからはスノー様と定期的に……」
「え……。知らない」
三者三様に驚きの声を上げていると、王子が今起こっている最大の問題を口にする。
「で? 姉貴達、どうするわけ?」
「ぁん? そんなこと言われてもなぁ……。起きちまったことはしゃぁねぇし……」と、姫乃。
「そうですね。それに手紙には、必ず戻ってくるって書いてましたし……」と、モカ。
「そうだね! それまで、ボクと三紅がなんとかするよ!」と、椎菜。
カフェオンライン部に起こった最大の問題、それは言うまでもなく、守晴がどこかへ行方をくらませた事だ。
別に、誘拐や家出及び何らかの事件に巻き込まれた訳ではなく、今日部室に来ると置き手紙が置いてあったので、三人とも対して気にはしていない。
そこに書いてあった内容も、大変守晴らしいものだった。
『突然だが、一ヶ月ほど、今、養って貰っているステラ伯母さんと、共に世界を回ってくる。必ず戻ってくるから安心しろ。迷惑掛けてしまいすまない。ステラ伯母さんが何者か知りたくば、理事長にでも聞くと良い』
というような内容だった。
もちろん、三人は他人の家庭事情を詮索するつもりは一切ないので、最後の文は無視した。
これから、怒濤の一ヶ月間が、おそらくはじまることとは、夢にも思いもしなく、守晴の欠員、これを甘く見ていたのは、言うまでもない。
本当に怒濤の一ヶ月がはじまるかどうかは神のみぞ知る……。




