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ようこそ! カフェオンライン部へ!  作者: 石山 カイリ
姫乃と椎菜、本気を出したらすごいんです♪
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後夜祭

 体育祭の全課程は終わった。

 生徒会、風紀委員、報道部の指揮の下、来賓やら家族、後夜祭に参加しない生徒達を学園から退出させると、後片付けを始めた。

 後夜祭に参加するものは、後片付けを手伝わなければならないというのが、この学園の伝統だ。


 ま、中には姫乃のように隠れて休んでいる人や、守晴のように体育祭に全力を出し付くし、行動不能になるものもいるので、絶対ではない。

 この伝統は、あくまで後片付けせずに帰った者が負い目を感じないように済むために、だとか、後片付けせずに帰った者を恨めしく思わないように済むためだとか。


 様々な諸説はあるものの、今ではこの後夜祭を楽しみにしているものが、大多数を占めている。それも、親の過保護さ故に許可が出なかった生徒達をかわいそうに思うほうが多いので、参加メンバーは、とくに文句も言わずに片付けをしているので、今となっては、この伝統も抗力があってないものなのだが……。


 とはいえ、後片付けも校門回りに飾っている看板やゲートを解体したり、来賓用のテントを片付けたりと、大掛かりのものは以上だ。

 あとは、各教室や廊下などにある細々とした装飾品を外したら良いだけ。


 ゴミの回収は、後夜祭のあとでやる。

 みんなでやれば三十分もかからない。

 むしろ、食器の片付けや、食材のあと片付け、IHコンロを外で使うために伸ばした延長コード、机や椅子。後夜祭の後片付けは、翌日するということもあり、帰るのが億劫な生徒や、家族の送迎が難しい生徒が、宿泊するために――もちろん家族の承諾書が必須――使われた布団の片付け等々……。


 後夜祭のあとの片付けのほうが、骨が折れるのだ。

 さて、気になる騎馬戦の優勝だが、後夜祭の時に、たこ焼きを作っているしおりの高笑いを聞いたら明らかである。


「オーホッホッホッ……! まさか、あのゲームが役に立つだなんて思ってもいませんでしたわ! 人生に無駄なことなんて一つも無いと、良く言いますが、まさか本当だっただなんて思いもしませんでしたわーー!! この調子で椎菜にも勝ちますわよ! 首を洗って待ってなさいな!!」


 しおりが上機嫌に高飛車な物言いを真横のカフェオンライン部のブースにいる椎菜の方へと、宣戦布告をする。

 椎菜が満面の笑みで答える。

「もちろんだよ! ボクも負けないよー」


 騎馬戦の結果は、姫乃の機動力に水泳部の騎馬こそは付いて行けなかったものの、その乗り手、しおりは付いて来れた。

 それは、本人曰く、《KAMAAGE》内で、移動速度を上げる魔法を使うデフォルトキャラ【クシャダ】を使っていたことにより、動体視力が養われたということだった。


 ゲームでの戦闘が、現実で活かされることがあるのか。

 医療用に使われたフルダイブ機を使っていると、から身体の機能が回復したり、歩けなかった患者が歩けるようになったりと、いう症例があるぐらいだ。


 ありえるのだろうと、椎菜と神坂、雪那は分析している。

 そんなわけで、姫乃の機動力を目で追うことの出来たしおりは、椎菜の攻撃をことごとく、裁き、次第に姫乃の体力切れによる敗退、という顛末となった。


 それは、完全勝利とは言いがたいものではあるものの、化物が三人も揃ったカフェオンライン部に、一矢報いたのは、称賛に値すると、体育会系の部活は盛り上がり、しおりもしおりでおこぼれという形ではあるが、因縁の相手、椎菜に勝てたのがよほど嬉しいのか、すこぶる上機嫌だ。


 そんなこんなで、体育祭は幕をおろし、今は後夜祭で、それぞれ思い思いに過ごしている。

 カフェオンライン部は、プチケーキと、汗びっしょりの身体に染み渡る、塩味強めの、コンソメスープにしようと思っていた。


 だが、モカ母こと、美冬が作りおきしていたケーキ類をお客様に出してしまったらしくて、コンソメスープだけとなった。

 このコンソメスープが、となりで焼いているしおりのタコはもちろんのこと、フォアグラやビーフ百パーセントのウインナー、フランスの某有名チーズ店のチーズ等。の高級食材がふんだんに使われたロシアンたこ焼きと相性が良いらしく、二つのブースには絶えず行列が出来ている。


 料理担当のモカは、今も部室でコンソメスープを追加で作っている。

 モカが持ってきた完成したコンソメスープを、注いで出すのが、姫乃と椎菜の交代制でやっている。


 三紅は、姫乃の取り決めにより、三紅、姫乃組の頑張った方達のご褒美としてもみしだかれていた。

「三紅さーん。私頑張ったよ~」

「三紅ちゃん。かぁいいよー」


「一家に一台三紅さん、欲しい!」

「もぉ、やめてーーー!!」

 と、大人気で、当分は解放されないだろう。残る守晴は、未だに歩けないし、手も上手く動かせないらしく、雪那に車イスを押して貰いながら、モカと三紅の食事を確保している。


「先輩、本当にすまない……」

「だから、それは聞き飽きたって……。これで、何度目よ」

「そう、だったな……。すまない」

「だから……」


 と、無限ループのような問答は後夜祭が終わるまで続いていた。

「よっ。椎菜。交代の時間だぜ」

 背後から、呼ばれ満面の笑みで振り替える椎菜。

「あー、姫乃ー。もうそんな時間? ご飯ちゃんと食べた?」


「おー、食った食った。に、してもあれだな。どこも、レベルたけーわ、やっぱ」

「姫乃って、普通にご飯食べれるんだ……」

「食えるわ! オレを何だって思っていやがるんだ!?」


 椎菜の笑声。

「……。いや、ごめんごめん。姫乃いっつもお昼ご飯コーヒーだけだったからさ、もしかしてご飯食べれない病気なのかと思っちゃって……」

 姫乃は、冷静になり、一瞬不思議そうな表情になり、「ん?」と、何かを考え込む。と、しばらくして、バツの悪そうに頭をかきむしりながら答える。


「あー、わり。実はな――」

「――姫乃は昔から消化がゆっくりでさー、朝は六枚切りの食パン一つ、夜にがっつり食べたら良いだけで、あとはお腹すかないんだよねー。その癖栄養が贅肉にならず、成長に使われるんだよねー。まったく、羨ましいよねー」


 と、説明を奪った、全身に脱力感が漂う三紅。

 よほど激しくもみしだかれていたのか、着崩れしにくいことで有名なジャージも、着崩れしており、髪もボサボサになっている。

 そんな三紅を見るや、から笑いしか出来なくなる椎菜と、何事もなかったかのように、いつも通り辛辣に扱う姫乃。


「おー、三紅。ずいぶんと早いご帰還だな」

「ひどいよ!? 姫乃。よくもあたしをいなくなったね!」

「ま、その様子だと元気がまだ有り余ってるようだな。せっかくだ。椎菜と回ってこいよ?」


「言われなくても! 行こ! 椎菜!」

「う、うん……」

 この後、三紅と椎菜は後夜祭を目一杯楽しみ、三紅の機嫌も直ったことは、言うまでもない。

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