騎馬戦優勝は!?
いったい、この結果を誰が予想しただろうか。
群がる大量の騎馬をたった二騎で挑んだ勇猛果敢でバカな乙女達。
誰もが、二騎の騎馬は負ける、そのように確信していた。
だが、結果はどうだ。
その戦場に立っているのは、負けると確信していた二騎の騎馬だった。
乙女達の強さを知っている、生徒達ですら、あの多勢に無勢じゃ、相手に多大な損害はあたえど、勝利するのは難しいと思っていたことだ。
乙女達の強さを知らない、生徒達の親や、来賓のお偉いさん方は、驚きに包まれ、呼吸をするのも忘れている。
この結果を雪那以外の誰が予想していただろう。
「椎菜が守晴のように脳筋なわけないじゃない。もし、守晴のように脳筋なら、雪はとっくに勝ってるわよ? あの子は、正真正銘の化物じみた戦闘センスと、頭の良さ、回転スピード、勘の良さ。すべてを持ってるわ。ま、本人があまりにも闘いを楽しみ過ぎてて、戦闘センスだけが、露見しているみたいだけど、ね。それを見抜けなく、カフェオンライン部の騎馬にあんな少人数を差し向けた時点で、連合の敗北は目に見えてるわ」
雪那は解説じみた独り言を呟き終えると、この闘いに背を向け、一人校舎へと消えていった。
そんな中、文武連合達の騎馬を倒した、しおり率いる水泳部の騎馬と、椎菜率いるカフェオンライン部の騎馬は、互いに見つめ合っている。
一触即発にも似た空気を互いに漂わせながら、周囲を一瞥する。
回りには、文武連合に参加していない本当のアスリート達のいる体育会系の部の騎馬二体は、どちらも疲弊しているようだ。
遠くにいるアナウンス部の騎馬はうまいこと立ち回って、体力をあまり消耗していないらしく、どうやら、美味しいとこを持っていこうと、虎視眈々と狙っているようだ。
そこまでを互いに視認した刹那、椎菜が提案。
「ねぇ? 一つ提案なんだけどさ」
しおりも同じことを思っていたようで、そこで気丈な笑みを取り繕い、頷くと同時に、言葉を奪い取る。
「ええ、皆まで言わなくてもわかっていますわ。ここで闘って、共倒れになりでもしたらもともこもない。そうですわね?」
椎菜が純粋無垢な笑みで頷く。
「うん!」
「それなら、あちらで闘っているバスケ部と、ソフトボール部の騎馬は任せてくださる?」
「オッケー。じゃぁ、ボク達はアナウンス部の騎馬をやっつけてから、それから、決勝戦しようね!」
「もちろんですわ! つまらないところで負けたら承知しませんことよ!?」
「もちろん! そっちも気を付けてね」
そのように再戦を誓い合った後に、別れた。
「じゃ、姫乃、守晴! アナウンス部の騎馬に向けてとっつげーき!」
「へいへい。了解しました。お姫様」
皮肉混じりに了承する姫乃に続く、いつものようになんの抑揚のない守晴の承諾。
「了解した……」
二人の両極端な返答が終えた後に、アナウンス部に向けて疾走する。
そのことに気が付いたアナウンス部の騎馬はというと、焦っていた。
「あれ? これ、ヤバくね?」
「カフェオンライン部がこっちに向かってきている!?」
「どうすんだよ!?」
下にいるアナウンス部員達は、焦りのあまり正常な判断が出来ていなかったが、それでも、疲弊しているとは言え、まともにやりあったら負けるのは目に見えていた。
そんな下の三人の混乱を払うかのように、乗り手が覇気なく指示を出す。
「よーし。全速てったーいー」
「ですね!」
「そうしましょ!」
「おう!」
くるりと、方向転換からの逃走を開始。
「あ、くそっ! 逃げやがった!」
数分間、鬼ごっこが続いた後に事態は動く。
結果的に言おう。守晴の足に力が入らなくなり、その場に倒れたのだ。
椎菜は、事前に姫乃から、
「あいつ、たぶんもう体力ないぜ、長期戦になったら倒れちまうかもな」
と、聞かされていたので、守晴がぐらついたタイミングで、咄嗟の判断で姫乃にしがみつき落馬を免れた。
姫乃も姫乃で、素早く、両手を後ろから抱き付かれている椎菜の腰に手をやり、ずり落ちるのを防ぐ。
昴は走っていたことと、疲れていたこともあり、受け身がまったく取れず、顔面からダイブしてしまう。
それを見ていた椎菜は「守晴!」と、叫んだ。
同時にアナウンス。
『あー、ついに守晴さんが倒れてしまいましたね。カフェオンライン部の騎馬は一人だけとなりますが戦闘続行でよろしいのでしょうか?』
『そうですね。騎馬戦のルール上では、乗り手が地面についた時点で失格になりますので、ま、良いじゃないですかね? ただ、一人て支えるのはそうとう体力消耗するはずでしょうから、早期決着を望みたいところではありますが……』
そんな、ササとモモのアナウンスを聞き、アナウンス部は、チャンスだと思い、話し合いのもとで方向転換しようとした。
しかし、判断を間違った。
確かに、一人で人を一人支えながら、走るのは体力の消耗が激しい。だが、それと同時に誰かと合わせないで良い変わりに、機動力が上がるのだ。
従い、方向転換しようとスピードを緩めた瞬間、姫乃が抜き去る。
その抜き去り様に、椎菜が手を限界まで伸ばし、ハチマキを取る。
その間、僅か一秒。
アナウンス部の騎馬は急に目前に表れた椎菜を背負った姫乃を目の当たりにして、理解が追い付かなかった。
「へ?」
と、情けない声を出ししばらく硬直。
椎菜の右手にハチマキが握られてるのを知覚し、瞬間的に青ざめる四人。おそるおそる頭上に目線をやると、絶叫に似た悲鳴。
「「「「あーーーーーー!!!!」」」」」
その悲鳴に似た絶叫している四人の横を素通りし、倒れたままの守晴のもとへ向かう。
「おい、大丈夫か?」
姫乃がめんどくさそうながらも、労いの言葉をかける。
「面目ない。今立ち上がる……」
守晴がそう言いながら手を地面に突き立てるも、全然立ち上がる素振りを見せない。
どうやら、正真正銘力尽きたようだ。
その様子を見ていた姫乃が盛大にため息をつく。
「はぁ…………。ったく、倒れるなら倒れるで言えよな。こっちにも段取りって言うもんがあるんだ」
「すまない……」
「あぁ、良い良い。謝られてもめんどくせぇだけだからな。お前は少し休んでろ。それと、今日の夜は、炊き出しみてーなのだけだから、休んでろ」
「いや、皆も疲れてるだろう? あたいだけ、休んでるのは申し訳ない……」
もはや、立ち上がる力も残っていないのに、意思だけはいっちょまえの守晴に、やれやれと、言わんばかりの首降りをした後に、強めな口調で姫乃は言葉をかける。
「いいか? お前が今日無理して、明日以降使いもんにならなかったら、それこそ迷惑だ。無理するところと、しなくてもいいとこの区別ぐらいつけやがれ」
「そう、だな」
若干の萎れ気味で守晴の承諾が終えたと、同時にそれを待っていたしおりの高笑い。
「オーホッホッホッホッ……! もうよくって?」
「うん!」
椎菜が純粋無垢な笑みで短く答える。
「それでは、やるとしますか!!」
しおりが意気込み終えると同時に、突進を開始する水泳部の騎馬。
その半秒遅れで、機動力にものを言わせた、姫乃も突貫を開始。