第七種目騎馬戦~後編
「あなた達! 一変に攻めてきて、恥ずかしくないのですの!?」
しおりが回りを取り囲む十数の騎馬に説教じみた声を上げる。
それに、答えたのはしおりの真後ろにいる、この文化同盟の参謀を担うことが多いゲーム部の騎馬だ。
状況からするに、今期の参謀役も、この騎馬なのだろう。
「恥ずかしい? 何がです? 私達は知略で戦っているのです。単一の武力では、あなた達のようなボス級エネミーを倒すのにはレイドパーティーで行くしかないのです。それとも、あれですか? あなたは死地に敵が一人だから一人で向かえとでも、仲間に命令するのですか?」
のらりくらりと、正論に似た要点のすり替えに気付かずにはまってしまったしおりは、唸り返すことしか出来なかった。
「グッ……! これだから、文化同盟は……」
その皮肉を待っていたかのように、ねっとりした笑い混じりに答える。ゲーム部。
「文化同盟? そんなのとは一緒にしないで欲しいな」
温厚なしおりが珍しくイラついたようで、眼を鋭くさせる。
「何が言いたいんですの? ッ!」
ため息混じりに言いきったと、同時に取り囲む騎馬の面々にあることに気づき息を飲む。それと同時に、川が氾濫したかのように怒りの感情が流れ出る。
「どうやら、気づいたようだね。そう、今回のレイドパーティーは、文化部だけじゃなく、ここ二年連続あなたに騎馬戦勝利を奪われていることを面白くないと思っているのと春の体力テストでカフェオンライン部の面々に負けてプライドが許さない体育会系の部員達が参加してる。文武連合と言ったところかな?」
長々と説明をしているゲーム部の話しが終わるのを待てるほどには、しおりは冷静さを欠いていないらしい。
「あなた達! それでも、アスリートですの!? スポーツマンシップはどこにいったんですの!?」
しおりの憤慨に自嘲混じりに答えたのは、ラクロス部の部長。
「しおりさん。あなたは確かにアスリートです。が、体育会系の部に入っているその誰もが、アスリートだと思わないでください」
「ど、どういうことですの?」
「高校の部活は、高校が終われば、そこで終了だと言う方が多いということです」
「で、ですが、皆さん、インターハイとかを目指しているじゃありませんこと!?」
力なさげに首を横に振るラクロス部長。
「それは、単なる思いで作りですよ。ほとんどがあなたのようには全力でやっていない。現に私たちの部はお遊びの延長戦なんです。それなのに、あなたと来たら全力で頑張るじゃないですか?」
しおりが眉間にシワを寄せ、真摯に受け止める。自分は知らず知らずのうちに人を傷付けたのだと……。もしかしたら、それは、水泳部員の誰かも思っていることかも知れない。そう思えたから……。
しかし、その心配は数秒後には無駄に終わるのだが……。
「だから、抑圧されちゃってさ。私たちも本気でやったら良いとこまでやれてたかなってさ。でも、今からどんなに頑張っても私たちの代じゃ無理。だから、さ。後輩のためにも、今年は合宿とか遠征とかたくさん行きたいわけよ? だから、なんとしても部費が欲しい。かといって、あなた方本物とまともに闘っても勝てやしない。だからのったわけです。たとえ、卑怯だと言われようとも、私はあなたを倒し部費を手にいれて見せます!」
しおりの迷いは今の言葉で吹っ切れ、穏やかな苦笑を浮かべる。
「なるほどですわ。良くってよ。あなた達の覚悟はきちんと伝わりました。全力でかかって来なさいな! 返り討ちにしてあげますわ!!」
気付けば回りには、この騎馬戦参加しているほぼ半数の騎馬がしおりの騎馬を包囲していた。
そんなことはどこ吹く風と、言わんばかりに意気込むように嘯くと同時に、その集団から飛び出したのは体育会系の部の騎馬、五体。
どうやら、体育会系の部が先に飛び出して、ワタクシ達の体力を削り、弱りきったところを一斉攻撃、と言ったところですわね。つまり、捨て石。
文化同盟は、目的が達せられるまでは協力関係ですが、それ以降は敵対。最後に残った部の騎馬が部費をそう取りする権利を与えられる。
「まったく、なにが卑怯だ、ですの。あなた達も充分危険な橋を渡っているじゃないですの……」
しおりが、走っている騎馬の上で呟く。
少しはてこずりはすれど、次々としおりは撃退する。
その様子を目の当たりにして、ゲーム部は呆気にとられ乾いた笑い。
「ははは……。やはり、すごいね。だが、それもいつま……」
「「きゃーーー!!」」
突如、包囲網の左側から起こる悲鳴の数々。いったいなにが、と言わんばかりに振り向く、包囲網の騎馬達。
その一瞬の隙を見逃す筈もなく、水泳部員の騎馬達は静かに滑走。乗っていたしおりもその隙にじょうじハチマキを奪い取る。
やれ、正々堂々だ。やれ、卑怯だと言っていたしおりもさすがに体力の限界が近いらしく、なりふり構っていられなくなっているようだ。
近場の騎馬のハチマキを取り終えた頃、しおりを含む、水泳部の騎馬達も遅蒔きにではあるが、そちらに視線を向ける。
と、眼を丸くさせ、絶句した。
なぜなら、ほんの数秒前までそこにあった完璧なまでの包囲網が、瓦解していた。たったいったいの騎馬によって。
ゲーム部が唸り声をあげる。
「ば、ばかな……! カフェオンライン部の騎馬は。予想通り、椎菜が乗っているし、指揮も執っている! ステータスも多少の誤差はあるが、申し分ない。よって、あの人数だけで充分なはず……! それなのにどうして!」
と、動揺を隠せないゲーム部。しおりもしおりでなぜ、彼女達がここに来ているのか理解出来なかった。いや、本当はわかっていた。でも、敵に塩を送るような行為事態に理解出来なかったのだ。
故に叫んだ。
「あなた達! なぜ。ここにいるのですの!?」
椎菜が相手のハチマキを奪い取りながらとは、思えないほどの能天気な声でいる。
「あ、しおりさん。良かったら共闘しない?」
唇を噛み締めると、しおりは気丈な態度でそれを否定する。
「共闘? 冗談じゃねーですわ! 第一、あなた達になんのメリットがあるっていうんですの!」
しおりが上でギャーギャー暴れていると、騎馬となっている、水泳部の三年生からご指摘が入る。
「しおりん、しおりん。まじで、暴れないでくれる? 余力がギリだから……」
「も、申し訳ありませんわ……」
しおれたしおりに続けざまに、姫乃の怒声に似た指摘。
「あぁ! もうめんどくせぇな! オレ達にメリットがないとかと言ってるが、大ありだっつーの。この軍勢、お前を倒したら次、どこへ行くと思ってやがる!?」
「ぁ……」
姫乃がそこまで言うと、ようやく彼女達のメリットに気付いたしおり。
それを踏まえ、もう一度誘う椎菜。
「うん。そ。次の標的はボク達。さすがに一部隊だけでは、いくらポテンシャルが高くても、さすがに難しい。死角からのアタックには、ね。だからね――」
――死角をなくすように、協力し合おう?
椎菜はそう言葉を続けるつもりだった。
しかし、それより先に、しおりが返事をした。
「ええ、わかりましたわ!」
ゲーム部の言葉を借りるとすると、二大レイドボスを同時に相手しなければ鳴らなくなったのだ。
その絶望感は半端ないことだろう。
絶望に飲み込まれないように、大声で合図を出した。
「かかれーー!!」
もう作戦もあったもんじゃなかった……。