第六種目メドレーリレー
メドレーリレーは、結果的に、三紅モフり隊の活躍で、アンカーの姫乃、守晴、雪那に渡る前に結構な差が付いてしまい、姫乃組がぶっちぎりの一位となった。
二位は、半周遅れと、いう絶望的な差をさすがの技量で埋めた椎菜が率いる椎菜組。
ビリは、奇しくも、アンカーまで半周の差を広げたにも関わらず、ラストアンカーの一周で差を縮められ、僅差で負けた守晴組と、いう結果となった。
四百メートル一直線の勝負なら、守晴も負けなかっただろう。
けれど、やはり、コーナーの全力疾走は難しいものがある。普通に走るだけでも、スピードを落とすことなく、コーナーを曲がるのは難しいのだ。それが慣れていない、車椅子でやるとなると間違いなく無理。
元より、椎菜組は半周程度ならハンデとしてちょうど良い的な、作戦だったらしく、現にその通りになったのだから、椎菜の采配は恐ろしい。
* * *
「さて、と。それじゃ、恵子も先輩らしいことをしますかね……。ま、美冬さんの場合、母親だけど、な」
一人言を呟きながら、恵子はコーヒー豆の、分配方法を確認する。
刹那、微笑。
「やるじゃねぇか……。三つの分配とはな。だが、ちと惜しいな……」
呟きながら、姫乃がクズ豆に仕分けているのを更に二つに再分類する。
その間、恵子は不適な笑みを浮かべる。
「さて、と。これに気が付いたら、大したもんだ」
「美冬サン! オーダー、ナポ二、シフォ一」
クーシーが、居酒屋のような言い方で、美冬に注文を伝える。
「はぁい」
呑気な口調で答えた美冬だが、その手際の良さは、一流。なんの無駄もなく料理を次々、完成させて行く。
「では、これを運びますね」
「あ、お願いします。先生」
美冬が完成させた料理をそそくさと運ぶ神坂。その後ろ姿に、美冬はお礼を言った。
「美冬さん。言ってるように、いちいちお礼は、不要です。と、言いますか、無理を言って手伝って貰ってるのはこちらですから、お礼を言わなきゃならないのは、私のほうなんですから……」
眉を寄せ、困り顔となる神坂。美冬が、おきにならずと、言わんばかりに穏やかに手を横に振る。
同時に声。
「いえいえ、むしろお礼を言うのはこちらですよ。モカちゃんの作るケーキ類を久し振りに食べられて、且つ、弟子候補も見つけられましたから」
「そうですか。そう言って貰えてありがたいです」
「はい」
二人の笑みが、一気に場を和やかにする。
「美冬サン! オーダー、オム一」
しばし、見つめあった二人は、クーシーが注文を伝えると、共にそれぞれの仕事へと戻る。
「はいはい」
一方、カフェオンライン部が開店してから、ロッカールームにかんづめな姫乃の弟、王子はすっかり出るタイミングを逃していた。
ロッカールームのため、外側から除き防止ように、磨りガラスになっているので、良く外が見れない。
ものの、人がいっぱいいるのは分かる。それに、外から聞こえる声は、姉やその友だちの声が一切しない。
よって、今出て行くと、間違いなく警察沙汰になる。カフェオンライン部員達の着替えがある場所から、見ず知らずの男子生徒が出てくる。
事業を知らない者からは、そう見えるから警察を呼ばれるのは当然だ。
「さて、どうしたもんか……」
王子が、呟くと同時。その声が伝わったのかのように、タイミング悪く。
「先生、もう一つコンロってあったりしませんか?」
「ありますよ? 備品庫に。取ってきますね」
「すみません、お願いします」
話し声と共に、歩いてくる顔も性格も分からない先生と呼ばれる人物。
おそらく、顧問だろう。
顧問が、どういう人物かは分からないが、自分の事を知っている、あるいは相当おおらかな人物でないと終わる。
そして、その可能性は低い。
自分が姉に口止めしているし、そもそも姉はめんどくさがりだ。そんな姉が、顧問に話しているはずがない。
それは、他のカフェオンライン部のメンバーと接してみても明らかだ。
身を隠そうにも、ロッカーとショーケースしかないので、ロッカーに入るしかない。が、入ってやり過ごしたとて、その事が後々バレたらアウト。
三紅に嫌われてしまい兼ねない。王子は、警察に捕まるより、三紅に嫌われてしまうことのほうが、何より恐ろしい。
姉である姫乃のロッカーに入ってやり過ごすというのは、セーフと言えばセーフかもだが、生理的に受け付けない。
そうこうしているうちに、ドアが横にスライドして行く。
結局、王子はどうしようもなく、その場に突っ立ったまま。
予備のIHコンロを取りに神坂は、ロッカールーム兼備品庫のドアをスライドすると、突っ立ったままの王子を発見。
するも、それだけだった。
声をあげることも、怒鳴ることも、追い出すこともせずに、ロッカールームに入り、後ろ手でゆっくりドアを閉めると、そそくさIHコンロを探す。
あたかも王子が、ここにいるか当然のように。
そして、IHコンロを取り出した神坂は、何事もなかったかのように、部室内へ戻ろうとした。
その瞬間、王子がたまらず声を掛けた。
「おい。俺がなんでここへいるのか聞かないのか?」
対し、神坂の何をありきたりのことを、と言わんばかりの声。
「姫乃さんの弟、王子さんですからね。あなたの正体がバレたら大変なことになるから、ここに隠れている。そうですよね?」
「あ、姉貴から聞いてたのか?」
「いえ、私はここの理事長ですから、生徒全員の家族情報は頭の中に入っているだけですよ……」
言い返すと、ドアをスライドさせ外に出る神坂。
その空間に一人残された王子は、神坂の不思議か感覚に呆気に取られていたのと、警察沙汰にならずに済んだという、安堵から緊張の糸が緩んだということもあり、しばしの硬直を見せていた。
「な、なんだったんだ……」