第四種目障害物競争・第五種目二人三脚~前編
今年の障害物競争のコースは、四百メートルトラックの二百メートルを使ったものだ。
平均台を渡って、ブルーシートを敷いた上に水を含んだ土を敷き詰め、即席の十メートルの泥んこコース。
その後、ハードルの下を三回くぐり抜け、ハードルの上を二回飛び越え、麻袋を掃いてジャンプ。最後はぐるぐるバットを五回回って、パンを口で取ってからの五十メートルダッシュ。
まったく、どこのアイドルの運動会だよ。という突っ込みが、毎年上がるとか、上がらないとか……。
とはいえ、今言ったコースを車椅子で行くのは、なかなかに厳しい。
なので、今回は、残りの半周を使い、特別コースを用意。
スタートして、まず車幅ギリギリの段ボールで作った一本道を一メートルほど進み、砂利道を十メートル。
その後は段差昇降からの、スロープ昇降。ぬかるみを十メートル進んだら、その場で十回転し、パンを口で取り、あとは五十メートル早歩きでゴール。
因みにこの間、車椅子に乗っている人は、自力で操作していいのは、その場で十回転する時と、身の危険を感じたときにブレーキをかける行為のみ。
あとは、全部押し手に委ねる――ただし、アドバイスや、ギャーギャー騒ぐのはあり――である。
そう、この競技は、障害物競争と二人三脚を掛け合わせた、まったく新しい(?)競技である。
『――えー、と言うわけで押し手の皆さんは、勝負に勝つことより、乗り手の皆さんを気遣ってあげてください。走るのではなく、早歩きで御願いします。因みに乗り手が車椅子から転落した時点め即失格となりますので、ご注意ください。この競技は、車椅子を押すことがどれだけ困難なのかと、押される側の恐怖感を味わうための競技となります――』
例の如く、アナウンスが紅組が、頑張りすぎのために、巻きに巻いた時間を調整するための、長尺説明をしているので、各組の乗り手押し手をここで紹介しよう。
紅組、押し手姫乃、乗り手三紅。
「三紅疲れただろ? 乗って休憩しとけ」
「ひ、姫乃が優しい……。ありがと!」
三紅がなんの疑いもなく、感謝の言葉を口にすると、対する姫乃は、苦笑混じりに答える。
「良いって良いって――」
――それに、三紅が押すと、オレの座高で前見えんだろうし……。
姫乃が心の中で呟き終わると、咄嗟に三紅が車椅子から横に身を乗りだし、顔のみで姫乃へと振り替える。
「なんか言った?」
睨んでいるのか、可愛さを上乗せしているのかわからない表情の三紅に、姫乃は再び苦笑。
「いや、なんでもねぇよ……」
白組、押し手雪那、乗り手守晴。
「本当に良いのか? 先輩」
口では引きを見せているが、車椅子に座る様はふてぶてしい守晴。また口調も抑揚がないので、彼女の本当の気持ちは、悪いとは思っていないのではと、誤解されがちだが、雪那はそうではないことを知っている。
そんな報われない気質と体質の守晴に思わず雪那は、ため息混じりに反応を見せる。
「あなたねぇ……。そんなんだと、誤解されっぱなしよ」
「む、そうか……。で、本当に、あたいが乗り手で良かったのか? 先輩」
「良いわよ。あなたはそんなに体力がない。疲れても気力で身体を動かしてる。違う?」
「さて、なんのことだか?」
「強がりはよしなさいよね。現に全身の筋肉が震えているじゃない……」
「ああ、これは、暖まった筋肉を冷まさないように運動しているだけだ」
「どうだか? ま、信じるけど……。あなた達二人の規格外さは半端ないから……。いえ、性格には三人、だけど……」
「いや、あたいから言わせてもらうに、四人なのだがな」
雪那の自嘲の笑い。
「あら、雪もその規格外メンバーにいれてくれるの? いっとくけど、雪はあなた達に勝てる気はしないわよ」
今度は守晴が自嘲の笑いを漏らす。
「……。いや、あたいも先輩には、決められたスポーツの勝負の中では負けないとは思うぞ?」
負けず嫌いの雪那は形のいい眉をひくひくと動かす。
「い、いうじゃない……」
守晴はそんな雪那の反応を気にすることなく言葉を続ける。
「だが、それまでだ。なんでもありのバトルになったら、先輩が何をしてくるかわからないから、初動は先輩の動きを見てからとなる。そして、それを見て動いて勝つほどあたいは強くない。まったく、全ての武をある程度極めた相手というのは厄介だな……」
と、遠いところに、視線を送る守晴に、雪那は呆れたと言わんばかりに、ため息混じりのフォローをいれる。
「それは、こっちだってお……」
そのタイミングで、守晴が若干、感情を表に出すようにして、遮る。
「それは違う」
「何が違うって言うのよ?」
雪那がフスッと、瞳の奥に力を込めるようにして問うと、守晴は元の感情が込められてないような口調に戻り、答えた。
「あたいはそうだな、それぞれのことをそれぞれで極めてはいるが、先輩のように、それを戦況に応じて組み合わせて使うとなると、やはりまだ未熟だ」
「なるほどね……、それを感覚でやれてしまうのだから、天才はいやよね」
雪那も、どこか遠くを見ながら、そう締め括る。
「まったくだ。なぁ、先輩……」
「ん?」
「あの二人、本気を出したらどちらが強いと思う?」
「フッ! そんなの決まってるじゃない強いのは――――」
青組、押し手モカ、乗り手椎菜。
「ごめんね。モカ……」
いつになく塩らしい態度の椎菜の後ろ姿を不思議そうに見つめるモカ。
「何がです? 椎菜さん」
アホ毛をびょこんと揺らし、なんの駆け引きもなく、本当に何がごめんなのかがわかっていないモカに、椎菜は申し訳なさそうに尖らせながら、口をモゴモゴ動かす。
「だって、モカも疲れてるでしょ? それなのに、ボクだけ楽して……」
「ああ、そのことですか! それなら、ご心配なく、絶え間なく走っている錦織さんとは違い、私は椅子に腰をかけながら料理が出来ますから」
モカの言ったことは全て本心である。だが、それでも椎菜は食い下がろうとしなかった。
「で、でも……」
それと、同時にモカの話も終わりではなく「それに――」という形で、椎菜の言葉を天然に遮る。
「――私、今絶好調なんですよ! 今日、初めてま……、仕事モードの母に『美味しい』と言わしました!」
モカが嬉しそうに、誇らしげに話すのを聞いていた、椎菜の愛想笑い。
「そ、そうなんだ……」
「それに、ですよ! 椎菜さんは最後に大役があるじゃないですか? どうしてもどうしてもどーしーても、私に引け目を感じるのであれば、最後優勝を飾ってください!」
そんなフォローに椎菜はいつもの純粋無垢な笑みに戻り、力強く頷く。
「うん!」




