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ようこそ! カフェオンライン部へ!  作者: 石山 カイリ
姫乃と椎菜、本気を出したらすごいんです♪
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第一種目徒競走~後編

『大外から、第一コース、我々の試みはこの方から始まったカフェオンライン部の癒し担当、地上に舞い降りた天使、椎菜組こと、蒼組キャプテン、神坂椎菜さん』

 大層な物言いによる紹介で照れ笑いをする椎菜だが、力一杯に手を上げる。


 と、同時に、威勢の良い応答。

「はい!」

『第二コース。カフェオンライン部の私たちの可愛いお人形さん(アイドル)。思わず困らせたく成る程のいじらしさ、姫乃組こと、紅組、副キャプテン、錦織三紅さん』


「ちょっと! 変な風に紹介しないでくださいよ!」

 三紅が頬を膨らませながら反論すると、とたんに生まれる笑声の数々。

 それが落ち着くのを見計らい続くアナウンス。


『第三コースは、自称、運動音痴。ながらも実は凄いポテンシャルを秘めているのではないかと、噂されている、カフェオンライン部の厨房の鉄人。彼女が出す料理に魅了され、足蹴なく通う者は数知れず。今回は、その走りで魅了するのか!? 蒼組副キャプテン、宮坂モカさん』


「やめてくださいよ!? ママを焚き付けるようなことを言うのは!!」

 唐突に突っ込みを入れたので、思わず素が出てしまったモカ。その事で、会場の空気がよりいっそう温まる。


 モカはというと、その事に気が付き、雪肌のように白い顔を赤く染めている。

 その事を気に止めずにアナウンスは続く。

『第四コース。次々と、一年にしてこの学園の運動部の主将に挑み、勝利し、カフェオンライン部に闘いを挑み、その結果敗北。その後、なんだかんだあり、カフェオンライン部に入部した部のカリスマ。普段は無口だけれど、接客の時にはブリっこになる、そのギャップがたまらない。さぁ、この体育祭においても勝利を総なめにするのか? 守晴組こと白組キャプテン、守晴・オーロッディーユさん』



「…………」

 守晴はスタート姿勢のまま、微動駄にせず一言も発さなかった。

 その事で会場の暖まっていた空気が若干冷める。


『続きまして第五コース。カフェオンライン部の暗黒面。腹黒で、何をするにも無気力。しかし、一度、火がついた彼女は凄く優秀。現に彼女の淹れるコーヒーは、美味しい。紅組、キャプテン。白雪姫乃さん』

「誰が腹黒だ。誰が暗黒面だ。殺すぞ」


 凄まじい殺気を放出され、暖まっていた空気が全て無になり、マイナスへと変わる。

 だが、それも姫乃との事前の打ち合わせ通り。姫乃が今の反応をしてくれないと、この順番にした意味がない。


 そして、おそらく事前に相談していないと、姫乃はおそらく苦笑しながら認めただろう。

 そうなっては、大取りがもったいない。せっかく、今最も熱い人物が取りなのにもったいない。


 故に、姫乃は悪役を演じて貰った。

『ヒッ! ……おおっと! これで、カフェオンライン部のメンバー五人の紹介は終わったが、あと一人残ってる。そう、今回の特別ゲスト! としてこの方、最近、自身で見張れ公表しました! 《KAMAAGE》ナンバーツープレイヤー――』


 辺りにある種の緊張感か広がり、空気が固められる。

『――にして、正統派爽やか系王子様【ヘカテー】。その正体は、クールビューティー。先ほどの守晴さんが武のカリスマなら、こっちは知のカリスマ。アバターでもリアルでも女性達を虜にする。さぁ、今宵はいったい何人骨抜きにしてしまうか。乞うご期待! また、素顔を公表した最近では、男性からのファンアタックが増えたという白組副キャプテン、桐谷雪那さん!』


 アナウンスが名前を呼んだ、まさにその時。


 固められた空気が一気に炸散。

 会場からは拍手豪雷。歓声暴雨。それらから産み出された空気の振動が応援の暴風になり、若干名の走者達に力を与える。

 その台風の目となる雪那は、一つの深いため息。


「なるほどね。生徒に家族を説得してもらおうとも、頭にある迷いや戸惑いが消えた訳じゃない。ま、一回真に楽しんだら、そんなことどうでも良くなる。でも、疑心の心を持ったままでは、そこまで持って行くのが大変。そこで、雪を利用した訳ね……」


「おぅ! まぁな!」

「けど、あなたが悪役になる必要なかったんじゃない?」

「んぁ? そうでもねぇんです。椎菜はこの祭りの主役。悪役はちとちげぇし、三紅とモカはそもそも迫力が足りねぇ。残る守晴だが、うちの部に入った理由が理由だかんな」


 守晴は、外国で生活が長かったため、日本語が苦手で、うまく喋れない。故に無口なのだ。それに顔がキツメなので、どことなく近寄りがたい印象が出てしまう。

 なので、日本で友だちが欲しくても、出来なかった。


 しかし、カフェオンライン部に入り接客をする事で、日本語を少しでも学び、それで友だちが欲しい。という想いからホールとして働いている。そんな守晴に悪役を演じて貰うのは少々、酷というものだろう。


 そう思い、姫乃は悪役を引き受けたのだ。

 そういう経緯があるということは知らない雪那だが、これ以上、聞くのは野暮というモノだろう。そのように悟り、雪那が納得する。


「なるほどね……。でも、あなただって、将来喫茶店を開きたいっていう夢があるんじゃない? ここで、不特定多数の前で悪役になっても良かったの?」

「あー、それはお構い無く。元ヤンが更生したってゆうほうが、好感度高いんで。いつの時代も」


「そ、それなら良いけど……」

 ようやく応援という名の台風が去ったらしく、辺りには緊張感が増し、台風一過のように、静寂しきる。

 走者の六人のまわりの空気が一気にひりつく。

 そして……。


『redy...GO!!』

 のアナウンスと共に一斉に走り出す。も、三紅がスタートダッシュを失敗。ウィーリーしてしまい出遅れる。車イスは一気にスピードを上げようとすると、前輪が浮いてしまうことがある。


 なので、普通の徒競走とは違い、徐々に速度を上げていく必要がある。と椎菜は言う。しかし、勝負が始まる瞬間、気持ちが逸ってしまい、出遅れてしまう者も多い。車イスに慣れていないものならなおさらだ。それなのに、三紅しか出遅れていないのはさすがと言える。


 始まった直線百メートルの勝負。

 まず先頭に立ったのは守晴。それをほぼ横一線で追うのは姫乃。その一台差で雪那、椎菜、モカの順。スタートダッシュに失敗した三紅は先頭から大きく遅れている。


 四位を走る優勝本命の椎菜。

 開始早々、一位が激しく揺れ動く。理由は全力疾走のあまり、漕ぐ強さが均等に伝わらなく、守晴が若干の蛇行運転しているからだ。


 そんな訳で、守晴が一気に一位から五位まで陥落。その後トップを走り続ける姫乃。だったが、ここまでは練習とまったく同じ。

 椎菜とモカ、ついでに雪那のレース後半の伸びがえげつない。


 とくに、椎菜に至ってはレース中盤からとラストの二段階、ブーストが掛かる。

 いったいどうなってんのやら……。

 そして、今回もまた例外ではなかった。ラスト十メートルに入る少し前。椎菜がラストスパートに入った時、事件は起こった。


 椎菜はこの時、絶対初戦は、落としたくないと、いう想いからいつもより、若干早めにブーストを掛けた。

 ブーストにはスピードが足りず、前輪がやや浮いてしまう。


 その事で、椎菜の速度が微量に減速。この減速は激しいデッドヒートを繰り広げるこのレースでは命取り。

 それでも、三位でゴールしたのは椎菜の意地だったのだろう……。

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