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ようこそ! カフェオンライン部へ!  作者: 石山 カイリ
カフェ部は昨年廃部になりました♪
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理事長の思惑

「へ? そ、それって……」

 ――あなた達三人が全員入学式初日に尋ねて来たら……。

 理事長は確かにそう言った。じゃぁ、もし、宮坂さんが来なかったら……。あるいは、私か姫乃のどちらかが受験に失敗してたら……。もしくは何かしらの要因で一人でも欠けてたらどうなってたの?――以上のような事を三紅は脳内で考えていた。


 次の瞬間。その思考はモカの口から言語化されることとなった。

「ちょっと待ってください!! では、白雪姫さんと錦織さんが来なかったらどうなってたんです!?」

「無論。わたしもそれを聞いた。そして、彼女達はこう答えた。『カフェ部のことは諦めるように説得お願いします』ってね……」


「そ、そんな……」

 モカが何かしらの言葉を発したかったようだが、なかなか、言葉が見つからないようで俯いてしまうのと、同タイミングで姫乃が噛みつきに出る。

「一応、確認だが、裏であんたが糸を引いてるってことはないです?」


 再び、軽くあしらわれるを覚悟していたのだが、眉間にシワを寄せ首を振る。

「残念だけどそれはありえない。だって、わたし、あそこの常連さんだったから。あくまで、彼女達の事情で仕方ないことだった……。期待に添えなくてごめんね。姫乃さん……」


「けっ……! そうかよ。……こっちもすみませんでした。その表情であんたがカフェ部を大切に思っていたのか理解した、です」

 姫乃が会釈し終えると、神坂は生徒達に気を使わせないように、力のない笑みを浮かべる。


「ううん、気にしないで。今のはわたしの悪ふざけが招いた結果だから……。さて、と。今から話すことは全て事実。だけど、カフェ部の元部員達を恨まないし、哀れまない。と、約束して?」

 三人はその問いに寸分の狂いもなく頷いた。それを確認した後、充分に間を開けて神坂は話し出す。


「悲劇は昨年十二月に立て続けに起こった。まず、カフェ部の部員は総勢七名。大学四年生が四名。そして高校三年が三名。順調に行けば、この三名が残り、あなた達と共にカフェ部を引き継いでいた。でも、料理を任せられた子の父親が急遽海外に転勤だと、打診を出され、それに着いていく決断をした。もちろん、父親は強制はしなかった。なんなら残って欲しかったそうよ……」


「だったら、なぜ着いて行ったのです?」

 モカが口を挟んだ。

「彼女はね。幼い頃に母親を病気で亡くし、それ以来、料理や家事が全くダメな父親に変代わり家のことをしていた。料理が上手かったのはおそらくその為。そんな彼女が父親を一人海外に行かすことは出来ない。そうは思わない?」


「はい……」

 モカの肯定を待ち、神坂は言葉を紡ぎ続けた。

「だから、彼女は、最後のわがままと称して、この高校を卒業し、海外で先に暮らしている父親の所へと旅立った――」

「…………」


 そこで、神坂は充分な間を取り、そして、言葉を続ける。

「――続いて、先輩に習いコーヒーの淹れ方を練習していた子は昨年十二月、両親を交通事故で亡くした……」

「「「ッ!!!?」」」


 三人ははっと息を呑んだ。

「彼女にわたしはね。もし、大学進学したいならお金はわたしが出すからって、提案した。しかし、彼女はそれを断った……」

「なぜ……?」

 おそるおそるその理由を聞く姫乃。


「彼女にはね。まだ小学生だった、年の離れた弟がいたの。もちろんわたしはその子の面倒も見るって言ったんだけど、彼女は生真面目だったから『そんな、私ばかりしてもらったらバチが当たります』って言われちゃった。それで進学を諦め彼女は就職っていう訳――」


「……」

 押し黙る姫乃。そんなことを気にする素振りも見せず、神坂は言葉を紡ぎ続ける。

「――そして、最後、ホールスタッフをしていた子は、普通にここの大学に進学した……」

「そ、それなのにどうして……?」

 三紅は思わず言葉を漏らした。


「彼女に関しては気にしすぎと言うしかないかな? 彼女は料理もコーヒーの淹れるのも駄目だった。唯一出来たのが接客。そんな彼女が残っていたとしても、あなた達に気を使わすだけ。そう考え、それならいっそのこと廃部にした方があなた達がのびのび出来るんじゃないかって、ね。それがカフェ部七名の総意だったそうよ」

「そんな、そんなことって……!」


 三紅がその小さな手で拳を作り、なんとか、泣くのを堪えていると、神坂が三紅の想いを代弁する。

「ええ、そんなことバカげてる。その人の気持ちはその人にしか解らない。ましてや、一日しか会ってない人物なら尚更、ね?」


「はい!」

 三紅が声を出し、姫乃とモカが無言で頷くと、神坂が微笑。

「とは言え、過去は変えられない。重要なのは未来。それがわたしのポリシーなんだよね……。だから、ね?」


 神坂は可愛らしく舌を出し、背後から用紙を誇らしげに付き出す。

「それは、いったい何ですか?」

 モカが首をこてんと傾けながら聞くと、神坂の微笑。


「わたしはあなた達三人が来ることを信じていた。だから、唯一進学した彼女に、もし、あなた達がカフェ部を立ち上げると決断したら、部員集めに困るだろうから、責めての罪滅ぼしに幽霊部員でもなんでも良いから、入りなさい! って言い聞かせ、入部届けにサインをさせてあるのよ。どう? わたしやると思わない?」


 自分の功績を謙遜することなく、子供みたいに見せ付ける神坂。だったが……。

「理事長。理事長。誇らしげなとこ申し訳ないんですが、見せるもの間違ってね?」

 姫乃の指摘を受け、手首のみで「ん?」という言葉と共に裏返し確認する。


 その用紙は、確かに間違っていた。その後、落ち着いた素振りで、シュレッダーのとこまで歩き、用紙をシュレッダーにかけ、すたすたと机に戻り、用紙を今度は間違えないように、見て取り、

「これが、わたしの努力の成果!!」


 と、言い直し、用紙を見せ付ける。

「いやいや、ちょっと待て! さっきの高坂柚季の寝顔の写真が載っていた用紙はなんだ……、です!? あれはどう見ても盗撮だろ!?」

「そんなことはない。ちゃんとした合法の写真よ?」


「さっきの写真が合法なら、なぜ、シュレッダーかける!?」

「さぁ?」

 この神坂の『さぁ?』には姫乃の毒気を抜く効果があるようで、姫乃はため息を漏らす。


「……。とりあえずさっきのことは無かったことにして、ありがとうございます。理事長」

「いいえ。どういたしまして……」

 と、本当に神坂は隠滅するらしく、穏やかな笑みを浮かべている。


  三紅とモカも、とりあえずこれに同意したようで、話題を入部届けに切り替えた。

「あの。高校の部活なのに大学生の先輩の名前を借りて良いのですか?」

 顔の前で挙手しながら聞いたのはモカだ。


「いいえ、通常なら出来ない」

「おい、まさか、理事長権限で申請しようとしているのです?」

「ああ。そういう手もあったわね。でも、それは流石に職権乱用でしょ?」


「何をいまさら……」

 舌を出す神坂に、姫乃はその様に毒づいた。

 その数秒後、三紅が「あ!」と声を出したので、モカとほぼ同時に視線を落とす。

「三紅、どうした?」「どうしたのです。錦織さん?」


「どうやら、三紅さんは知っていたみたいだから、他の二人に教えてあげて。わたし、話し過ぎて疲れちゃった」

 三紅は頷いた後に言葉を探しながらゆっくりと口を開く。


「あのね。あの建物は二人も知っている通り、大学との共同の建物なんだ。だからね。先輩達の何代か前の先輩があの建物にある部活だから、高校と大学の共同の部活にすべきと言う、無茶苦茶な理由を学園に通したらしいよ」



「ま、まじか……」

「なるほど。それであの建物ないでやる部活だから、入部届けにも大学生の名前が借りれるって訳ですね」

「おお……。なるほどな」


 三紅の学校見学の時に聞いたことと、それに対するモカの推測で姫乃も納得すると、それを結論付けるように、神坂が肩をすくめながら言った。

「要約すればその通り。カフェ部の先輩に感謝しなさい。新部申請は五人以上でだから、ね」

「てことは、あと一人集まれば新しくカフェ部を作れるね」


「ああ。一人くらいすぐに集まるだろ」

「よぅし、頑張りましょう!」

「「「おー!」」」

 三人が意気込んでいると、神坂が気まずそうに言葉を発した。


「あの。意気込んでいるとこ水を射すようで申し訳ないんだけど、それはなかなか難しいと思う」

「なんだよ。むっちゃ、水を射して来ますね。理事長。で? どこがどのように難しいんです?」


「あなた達も被害を受けたでしょ? この学園名物、新入生狩り。あれで毎年、根こそぎ持ってかれるのよね」

「でも、部活を掛け持ちと称して、幽霊部員を募集したら良いだけの話しではないですか?」


 なおも楽観的主観で代替案を述べたモカだったが、すぐ様、神坂の口によって粉砕されることとなった。


「残念だけど、校則で特別な部活……。つまり、生徒会と風紀委員意外の部活の掛け持ちは禁じられている」

「じゃぁ、帰宅部……」

 三紅の案もまた同じように粉砕されることとなる。


「残念だけど、それも、無理。うちの学園、帰宅部の数はゼロに近い。その代わり幽霊部員の数が多いけど。ま、しつこく勧誘されたら、誰でも何かしらの部活に入部したことを口実に逃げることを思い付くでしょうね。そして、そういう子は転部手続きが面倒だから来ない……」


「くそ……。どうしたらいいんだよ! ここまで来て万策尽きたのか……。いや、全部、理事長の暗躍策だけどさ……」

 肩を落とす三人に神坂がまたしても、なにやら考えていたようで、人差し指を立てて言葉を発する。


「一人だけなら、心当たりがあるんだけど、あってみる?」

「へ? 本当に?」

「ん。本当」

「マジのマジ?」


「ん、マジのマジ」

「本当の本当の本当です?」

「ん。本当の本当の本当」

 三回の肯定を見せたものの、未だに信じられないという顔で三人は視線を見交わした。


 この数秒後、ようやく感情が理解に追い付き、絶叫じみた賞賛声をあげる。

「さすが! 理事長。太っ腹!」

「理事長本当に何から何までありがとうございます!」


「早速で悪いんだが合わせてくれないか!? どこのどいつです!?」

「そう言うと思って、ここに呼んでる」

「え? ここに?」

「それは大丈夫ですか?」


 三紅とモカが今さっき会ったばかりとは思えないほど息の合った疑問をぶつける。

「ん? それ、どういう意味?」

 天然なのか、首をかしげる神坂に姫乃が毒づく。


「この部屋の状態を見て、ひかれでもしてやっぱりやーめたとかになったらどうする気だ? という意味です」

「あぁ、それは、大丈夫。だってわたしの末っ子だから……」

 そう言い切るとほぼ同時に、ドアを叩く音が聞こえてきた。

今回はここまでです♪

次回は夕方5時更新です♪

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