《KAMAAGE》エキシビションマッチ~第四幕
青年は【MPゲージ】九割を犠牲にとあるネタ魔法を使う。
「まずは足場を悪くさせて貰うよ。【雪の世界】……!」
青年が発言した瞬間、晴れ渡る空から突如、雪が振り出す。
それを視認した天使は小悪魔めいた笑みで解説を伴った挑発。
「へぇ、なるほどね。あたしの足をスリップさせる作戦なんだぁ……。でも、ざーんねん。あたしはスリップしないよ。もし、あなたが、あの女の子みたいに、魔法特化アバターだったら【死の白金世界】を出せたかも知れないんだけどね……」
「スノォエンドワァルド……? 聞いたことない魔法名だ。なんだい。それは?」
聞き慣れない魔法名にゲーマーとしての心を揺さぶられる青年。問い掛けるものの答えを求めることは期待せずに、踏み込み鋭い、剣撃を繰り出す。
しかし、天使はそれを事前に知っているのでは? 疑いたくなるほど、意図も簡単に、鮮やかな舞いを披露するかのように躱わし続ける。
そんな天使の右手には、いつ取り出したのか、気が付けば扇子が握られていた。
天使の動きは、その動きの後をついていく巫女服の袖と、神社で見せる演舞のような動きのせいもあり、ゆっくりに見えるが機敏。
対し、青年の剣撃は聖剣の足止めをしているはずの少女が力尽きるまでに決着をつけないと行けない。という焦りから鋭さが増す中に、どこか所々抜けている。
そんな二人から繰り出される洗練された剣舞に魅了され、息をするのも忘れるほどに見とれていた。
やはり天使も殺神と同様、普通に喋る余裕があるほど手練れのようだ。
「うん。一応、運営側も開発において、魔法の正式名称とかを決めてあるんだよね。ま、それに拘らなく、遊ぶ人達の命名に委ねるというのが、ツクヨミの方針みたいなんだけど。特に雪や氷。炎や風。あと例外として毒と言った感じの自然系魔法は汎用性が高く、いろいろな魔法が用意されているんだけど、中にはまだ一度も使われていない魔法もあるの」
「なるほど……。さっきのスノゥなんとかって言うのもまだ一度も使われていない魔法なのかい?」
「うん。そうだよ。とくに雪魔法の【エクレア】は、氷魔法の【ジェシー】の下位互換だと決め付けている人が大勢いるからまだまだ発見されていない魔法も多いの――」
ここで不満を漏らすように、呟き声で、爆弾発言をした天使。
「――本当は逆なのに……」
その言葉は、運営側が意図的になかったことにしたのか、後に出てくるこの闘いのリプレイ映像には、乗っていなかった。
だが、その言葉を直に聞いていた青年は、いつか【エクレア】の魔法を全部暴いてやる。と静かに燃えていたのは言うまでもない。
「へぇ……。なるほどね」
降り積もる雪の影響か、仮想の気温は下がっているようで、白い息を吐いているのが、視認こそ出来るものの、青年と天使のからだの熱は奪われない。
いや、むしろその逆。激しい――一方的な――攻防の末、両者の身体は大気と反比例するかのように、熱を帯び、紅潮して行っていた。
その刹那。
天使の舞が完成したようで、最後に追撃されないようにくるりくるりと二回ほどステップを踏むように回転しながら距離を取る。その後に、扇子を勢いよくパタンと鳴らし、その先端を青年へと向ける。と、同時に発言。
「【風の舞】……」
発言と同時に、緑色のエフェクトが扇子の周りを小さく渦巻き出す。
その半秒遅れで、風の刃が円弧状に広がりながら急速に広がる。
それを青年はさすがの動きで慌てる素振りも見せずに屈み回避。
その行動を目の当たりにした天使は驚愕のあまり眼を丸くし、一瞬の停滞を見せる。
それを青年は見逃す筈もなく、一気に決着をつけようと、天使に迫る。
その間、素早く言い放つ。
「前に君は僕にこんなことを言ったね。その言葉そっくりそのまま返すよ。戦場では一瞬の停滞が命取りなんだ」
言い終わると同時に、青年の剣が横に閃き、天使の胴と脚を両断。
……しようとしていたら、おそらく。いや間違いなく青年は退場させられていた事だろう。
青年はそうはせず、剣を咄嗟に防御姿勢で構える。
直後。
「【雷の舞】……」
天使が発言したと同時に、扇子から龍をもした雷が現れ、ゼロ距離で青年を襲う。
が、それを青年は、事前に扇子の周りに小さくパチパチと静電気のようなエフェクトを事前に見つけた事により、剣を間に挟む事に成功。
しかし、荒ぶる雷龍はそれで防ぎきれる筈もなく、剣は雷龍の追突に耐えられず、中程で折れ、剣先は回転しながら、遥か上空に飛び、雷龍は留まることを知らず、青年の頭へと到達。
すると、思えたが、青年が事前に降らした雪で運良く自身の脚が滑り、雷龍の直撃を回避。
一息ついたのも束の間、今度は運悪く、天高く舞い上がった剣先が落下してきて左腕を断たれてしまう。
刹那。青年の身体を吐きそうなほどの不快感が襲う。
も、そんなことは構うことなく、すぐに体勢を整えないとと考え、立ち上がろうと足に力を入れようとするも、それより先に天使が額に閉じたままの扇子をトンと当てられる。
同時に声。
「はーい。終了」
「あぁ、そうだね終わりだ……。にしても驚いたよ。まさか舞を貯められるとはね……」
最後の最後まで青年はキザであろうと笑みを取り作ろうとしていた。
それに天使は本当の天使のような微笑みで応じる。
「でしょー? で、この舞もあと一歩で完成するんだよね」
「ああ、知っているよ? 左に一歩だろ?」
「あ、やっぱり分かってたんだ……」
途端に青年の口から笑いが吹き出す。
「あーあ。それにしても悔しいな……。やっぱり君には僕一人の力では勝てないか……」
その嘆きに穏やかに微笑み励ます天使。
「あなたは強いよ。次闘えば、あたしが負けるかもしれない……。だから自信を持って」
その言葉の終わりに左に移動を開始。
「そう言って貰えたら助かるよ……。ところで、僕がなんで雪を降らせたか分かるかい?」
「へ?」
足を踏んだと同時に、そのような声を漏らし、今度こそ本当の停滞を見せる。
その半秒後。ある推測に到達し、血の気が引く。
バックステップを試みるも、時既に遅く、天使の足元……。いや雪下から氷柱が出現し、天使の半身を穿つ。
それは青年の魔法ではなかった。それは先刻、業火に呑まれた幼女の置き土産だった。
実は、幼女は退場になる直前。残り全ての【MPゲージ】を使い、至るところに氷柱を布石として残していた。
それは、青年や女子に伝える暇などはもちろんなかった。
なのに、なぜこの青年はあると確信し、発動直前に出る魔方陣を隠すように、雪で地面を覆い隠し、あまつさえ位置を的確に見抜くことが出来たのか? それは一重に青年が幼女のライバルだとでしか、言い様がない。
「本当。君のやることは味方なら手に取るように分かるよ……」
そう言い残すと、立ち上がる。
すかさず、自分の【HPゲージ】を確認。
三割ほど減少しており、そこから【出血ダメージ】として、一秒毎に三ドットほど減少していた。
左腕からは絶えず不快感が感じている。
「全損まで何もなかったら二十五秒と言うところか……」
苦笑まじりに呟くと同時に、聖剣の足止めをしていくれている女子のいる方へと急いだ。
――タイムカウント【200】。
【紅の天使】は【ヘカテー】と【W.C.S】により、倒された。
これにより、運営側に勝てるかも? という期待が観客に出てき出し、観客席には凄まじい熱気の渦に包まれた――