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ようこそ! カフェオンライン部へ!  作者: 石山 カイリ
アザナの四人、ご来店になりました♪
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【W.C.S】VS【微笑みの聖剣】

 自信のスピードで限界まで加速する、幼女と、四枚の藤色の翅を震わせ、推進力で限界まで加速する女子。

 それは二人の中間点より、やや女子の方よりで衝突する。


 短剣と、桃紫色の妖しく輝く長剣の激突。

 仮想の衝撃波が伝わり、見てるものの過半数に鳥肌が立つ。

 仮想の大気を焦がす。

 二刀の剣のぶつかり合いで産まれた、幾百の火花が両者の顔を淡く照らし、近くの身体からは仄かな熱を感じる。


  だが、その責めぎ合いは、一秒もしないうちに終わりを向かえる。

 理由はもちろん、【W.C.S】の【筋力パラメーター】が最弱だからというシステム上の理由に他ならない。


 こればかりは、ゲームだから筋力を鍛えたくても鍛えられないので、仕方無いことだ。

 そう、仕方無いことである。

 故に、【W.C.S】はそれも折り込み済みで、押され出したのが分かると、即座に短剣に掛ける力を抜き、後ろ上方に跳ぶ。


 軽い幼女体型のアバターは意図も簡単に上空に飛ばされる。

 それが、藤色の髪アバター操る【微笑みの聖剣】の狙い通りなのか、幼女の狙い通りなのかは、わからない。


 わからないほどに、幼女の体は遥か上空に飛ばされた。

 わからないほどに、両者はそれがあたかも自分の狙い通りかのように、コンマ一秒の硬直もなく、次なる行動に移した。


 追撃を加えるべく、翅で急上昇する女子と見事なバランスで身を反転させ、【MPゲージ】を零コンマ半割消費し、空中に氷の足場を作成。

 出来たばかりの冷たい氷の足場を踏み抜き、再度一直線に迎え撃つ。


 そのまま二人は一直線に相手のほうへと向かい、今度は中間点より、やや幼女のほうで空中でもう一閃……。交え合うかと思えたその刹那。

 幼女が左手を前に出し、幼女の体を隠すほどの大きな氷の盾を女子との間に作り出す。


 女子はその事に一瞬、目を大きく見開くも、思考は止めず、すぐさま天真爛漫な笑みで、氷の盾を剣で一太刀。

 氷の大盾は豆腐のように簡単に真っ二つに斬れる。その後、切り返して後ろに隠れているであろう幼女を斬ろうとした。


「!?」

 しかし、そこに幼女の姿はなかった。

 女子は上空でホバリングをし、辺りを素早く一瞥。

 そして見つけた。


 落下して行っている氷の方足が乗る程度の二つの氷の存在を……。

 それは、間違いなく足場だ。

 そう直感した女子は足場を延長線上に結び、眼で追うこと、計五つ。


 女子が最後に真下を向くと、そこには、足場を踏み抜いたであろう、幼女の姿が間近に迫っていた。

 回避も防御も諦め、女子は幼女の短剣を脚に突き立てる事を許す。


「ん……」

 幼女が左足に突き立てた瞬間、短く喘ぐ女子。この《KAMAAGE》というゲームも『ノージーボ効果』を懸念して、痛みはや熱、冷気等は感じない使用になっている。

 しかし、風圧や剣の重みなどの重力系統を感じる提督の触覚は、ないと歩くことはままならないし、戦闘も面白くない。


 なのに、この女子は、短剣を突き立てられて、喘いだのだ。そこから、【W.C.S】は、先ほどから感じていた微か違和感の正体に気が付く。

 と、まぁそんなことはおいといて、ひとまず目の前の闘いに意識を集中させる。


 【微笑みの狂剣】は、うん。ボクも一回試して見たんだけど、飛ぶことも難しかったんだよね。それにあの翅の切り離し!

 あれって、切り離した瞬間、視界が五分割されて、気持ち悪いんだよね。それに、どう動かすか、一個一個命令しないと行けないから結構疲れるし……。


 そのように考えていると、幼女の重みで、短剣が突き立てた短剣が、女子の脚を抉り裂いている。

 この時、【微笑みの聖剣】の【HPゲージ】は二割、【MPゲージ】は三割減少していた。


 このままだと、時間も体力も勿体ないので、下降するしかないと観客のほぼ全員がそう思った。

 が、対戦している両者と、少なくとも【ヘカテー】はそうは思ってなかった。


 【微笑みの聖剣】は短剣に更なる傷を付けられるのもお構い無しに、幼女ごと空中で宙返りを何度も何度も繰り返す。

 次第にその速度が上がり、遠心力で更に傷が抉り裂かれるも、それと同時に、幼女の【筋力パラメーター】が限界値に到達してしまったようで、【過負荷ダメージ】が、腕に痛みが、徐々に生まれる。


 その減少速度は、当然【体力ステータス】を限界まで犠牲にした幼女のほうが圧倒的に早い。

 このままだと、先に【HPゲージ】が尽きるのは幼女のほう……。


 幼女がタイミングよく、地面に最短距離で到達出来る角度で短剣から手を放つと、その半秒遅れで女子も追撃を加えんとそれに続く。

 三秒後。幼女は地面に着弾。

 同時に、背中につったような痛みのような不快感のような、なんとも言えないものが走る。

「カハッ……!」


 ()()以上の不快感に、思わず声をあげてしまう幼女。

 しかきそのうめき声は鋭い爆音と、ものすごい爆風に呑まれ、観客席には届かない。

 幼女の【HPゲージ】が見る見る減少していく。


 それに、だめ押しで女子が降下速度を伴った全身全霊の刺突の姿勢で、未だに広がりを見せつつある衝突で巻き起こった土煙の中に入る。


「終わったな……」

 それを見ていた【ヘカテー】が呟くと同時に、誰もが【W.C.S】の敗北を確信していた。

 だが、その刹那。


 土煙が中心からたちまち凍り付くのを見ると、【ヘカテー】以外の全員の口から歓声が上がる。

 その最中、【ヘカテー】は一人静かに【W.C.S】の残りゲージ残量を視認。そして、苦笑。


「おいおい。体力は一割切っている。ギリギリじゃないか。賭けに出るにしろ、程があるぞ。ま、れでこそ、僕の永遠のライバルというわけだがね。それに、彼女の魔法残量は五割以上、残っているから……ッ!?」


 【ヘカテー】は永遠のライバル【W.C.S】の闘いぶりをキザに称賛していると、とあることに気が付き表情が強張る。

 その変化に【W.C.S】が気が付いたのは、この数秒後、もう、どうしようもならない時である。


 氷のキレイなオブジェのような造形に誰もが魅力される。

 その一番高いところには、藤色の翅を持つ女子が幾千もの、線状の氷に絡められ、身動きが取れなくなっている。


 そんな女子に、近付き確実に留めをさそうとするべく幼女が登っていく。

「さっむ……強いね! キミ。ボクの負けだよ」

「うん。ありがと! ヘクチッ……!」

 と、二人が【ハートバディギア】内部では、あまり聞き慣れない反応をしたところで、一部の観客が違和感に気が付く。


 このゲーム以外にも、いかなるフルダイブゲームにおいて、痛み、冷気、熱さなど、精神的苦痛と思われる感覚は遮断されている。

 のにも、関わらず、二人は寒いやら、くしゃみやらあり得ない反応を見せたのだ。


 なかには、ネタでその様な反応をわざとする者はいるが、【W.C.S】がその様なネタをしたことは一度もない。

 故に、観客達は不思議に思う。

 なぜ、幼女はくしゃみをしたのか。


 その理由は、当事者の二人にしてみれば簡単だった。なんせ、二人の体感は今、冷蔵庫の中にいる温度なのだから……。

 【微笑みの聖剣】が嘘偽りのない笑顔で称賛する。幼女は右手に氷の短剣を創造し、ひんやり冷たい感覚を味わいながら、笑みを返す。


 と、女子は眉間にシワを寄せ、申し訳なさそうな笑みになり、言葉を続ける。 

「……でも、ゴメンね。姉ちゃんから絶対負けるなって言われてるんだ。本当はこんな姑息な手を使いたくはないんだけど、さ……。予防を張らせて貰ってたんだ……」


「予防? ……ッ!?」

 幼女はここでようやく、女子の変化に気が付いた。

 藤色の翅が背中に三枚しかなかったことに。

 そのことに気がついた瞬間、背中から身体の内へと、まるで、内臓が痺れたような強烈な不快感がに陥る。


 幼女がその不快感を堪え、自身の背中に視線を向けると、そこには藤色の翅が突き刺さっていた。

 それを視認するのとほぼ同時、最後に残っていた幼女の乏しい【HPゲージ】を全て刈り取られる。


 刹那。幼女の視界いっぱいに、【YOU LOSE…】という文字が浮かび上がる。


  * * *


 この闘いはそこで終わりではなかった。

 闘いが終わり、歓客がまばらになった頃。それは唐突に告げられた。

 【W.C.S】が一向に、【対戦場から退出しますか?】という表示が出てこなく、バグかな? などと思っていた。


 その次の瞬間。

「というわけで、これにて、イベントは終了になりまーす。でも、このイベントはトップランカーしかお楽しみ頂けませんでした。さぞ、それ以外の方はフラストレーションが溜まったことでしょう――」


 【微笑みの聖剣】が、そう熱を上げるように、唐突に言い出した。

 あ、これはまさか……。と、眼を輝かせながら聞き入る【W.C.S】と、【微笑みの聖剣】の言う事を先読みしたのか、メッセージを飛ばそうとする【ヘカテー】。


「――時に、今日の明朝に大型アップデートがされたと思いますが、解放されたのは、観客席だけじゃありません。新たに【チーム戦】が追加されました。【チーム戦】はその名の通り、二人から五人までのチームで、闘いうものです。これにより、連携が出来るようになり、闘い方次第では、トップランカーのみで編成されているチームに勝てる事が出来ると、予測されます……」


 【微笑みの聖剣】はそこで一旦言葉を切り、天真爛漫の笑みで言い切る。

「ということで、続いてはそのデモンストレーションっていうことで、【W.C.S】さんに、三対三の勝負を申し込みたいんだけど、良いかな?」


「うん。それは良いけど、あと二人どうしよう?」

 そんな言葉を言うと刹那。チャットが二通届いた。

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