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ようこそ! カフェオンライン部へ!  作者: 石山 カイリ
アザナの四人、ご来店になりました♪
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椎菜VS【ヘカテー】

 これまでの闘いでわかっているとは思うが、デフォルトキャラ【サーバル】の魔法はテレポート。

 脳内で出現ポイントをイメージする事で神出鬼没の機動力がある魔法だ。


 とはいえ、雪那のようにここまで精密に移動出来る使い手は数少ない。

 精密なテレポートになればなるほど正確に出現ポイントをイメージしなければならない。

 闘いの最中、正確に瞬時にイメージするのは困難。


 ましてや移動している相手の近くに移動するのは、より困難に近い。

 それをやすやすやってのけるのはさすが、【アザナの四人】以外、何でも扱えると謡われる雪那。


 片腕を無くし、サファイア騎士の【HPゲージ】は既に五割を切っていた。

 そこからさらにだめ押しで【出血ダメージ】により、みるみるうちに【HPゲージ】が現象していく。その減少速度は三秒で一割、といったところか。


 それに慌てる様子もなく、絶望の表情を浮かべる間もなく、サファイア騎士は、素早く【MPゲージ】を二割減少させ、出血元の右肩を凍らせ、これ以上の【出血ダメージ】を防ぐ。

 サファイア騎士の目論見通り、【HPゲージ】の減少は残り四割半のところで止まった。


 サファイア騎士は更に、【MPゲージ】を二割ほど減少させ、左手に氷の剣を創造する。

 ここまでに掛かった時間は実に三秒。

 その間、栗色の青年は攻撃してこなかった。

 相手は椎菜の二つ先輩なので、さすがに大人気ないと思い、待ってくれたのだろうか。


 答えは否だ。雪那は先輩後輩のような上下関係は、自分が下ならまだしも、自分が上の場合はほぼ皆無だ。

 そもそもゲームの中では、年齢など関係ない。ゲームの中では、貧民だろうが、政治家だろうが全員平等。それが雪那の基本方針。


 では、なぜ攻撃してこなかったのか。

 その理由は簡単。

 初心者に毛が生えた程度なら、この状況になっただけで、勝てないと絶望し、行動を停止するか、自棄になって突っ込んでくるの二択しかないからだ。


 雪那は椎菜のレベルを見るために待ったとも言えて、初心者に毛が生えた程度の強さだと決めつけていたので勝利を確信していた。

 だが、目前のサファイア騎士を操る椎菜は違った。


 椎菜は、出血を自身の魔法で抑えた挙げ句、剣を取りに行かず魔法で剣を創造した。

 これが一瞬で判断し、行動に移すことが出来た椎菜の実力は、中級以上……。否、トップランナーに該当する。


 そういう思いに至り、雪那は改めて気を引き締め直す。

「やるわね……」

 微笑を浮かべ、称賛する栗色の青年の声に、苦笑で返すサファイア騎士。

「それはこっちのセリフですよ。先輩……」


 雪那は、ここまでしても、椎菜が本気になっていないことを見抜いていた。

 それが雪那には不満で堪らなかった。お客と店員の関係なので、ちょっとした接待的な対戦なので、多少力を抜かれるのはしょうがないことである。


 しかし、雪那にはそんなことは関係ない。なんとしても、椎菜の本気を引き出したかった。

 そうトップランナーのゲーマーとしての雪那の……。【ヘカテー】の魂が求めた。

 そして、自分の正体を知ってもファンでいてくれると、言ってくれた一番のファンのためにも。


 本気の椎菜と戦って、【W.C.S】かどうかを見極めないと行けない。

 その衝動が――決意が、期待が――【リアル割れ】のデメリットを遥かに抑えた。

 その数秒後、矢野の筋書きを、書き替える言葉を放ったのだ。

「そういう畏まった喋り方はいいから……。それより、あなた本気で戦ってくれる?」


「ウッ……。これでもボク、全身全霊で戦たたかっ……」

「そんなウソは付かなくてもいいよ。()は君の本気を受け止められる。なぜかって、僕の実力は君より遥かに上だと思うからね……」


 急激に口調と雰囲気が変わったことに、たじろぎを見せるサファイア騎士。

「僕……?」

 青年の一人称の変化に気が付き、変化した一人称を呟くと、青年は、ギザな口調と仕草で言葉を続ける。


「ああ……。僕だよ。不意打ちになってしまって申し訳ないが、僕は【ヘカテー】。このゲームのトップランナーだよ」

 これにより、サファイア騎士は更なる驚愕に包まれた。


 それが相手が【ヘカテー】だと知った絶望なのか、雪那が【リアル割れ】をしたことから来る、単なる驚きなのか。はたまたその両方なのか。それ以外の理由なのか……。

 よく分からないが、そんなことは雪那/【ヘカテー】にはどうでも良く、絶句しているサファイア騎士に、更にこんな言葉を続けた。


「僕はこうして【リアル割れ】をしてまでも、君と本気で戦いたいと思ってる。だから、ね……?」

 栗色の青年の信念に満ちた言葉に、サファイア騎士の迷いや、驚き等らの様々の要因から来る枷を残り一つを除き、全てを外したサファイア騎士。


 無邪気な笑みを浮かべ、答えた。 

「うん。良いよ。ボクの本気を見せて上げる。

「それはありがたいね。それでこそ、僕が【リアル割れ】をした甲斐があるっていうものだ……」


 腰を落とし、左手に持つ氷の剣を中段に構えるサファイア騎士。それに、剣を体の正面に構え、向かって来る相手を迎撃する構えの栗色の青年。

 だが、それ以降、二人は数秒動かなかった。


 両者が示し合わしたかのように、動きを見せたのはタイムカウントが【060】を指した時だった。

「セヤァァァ!!」

 雄叫びを上げ、踏み走り出したサファイア騎士。その行動を予想のはんちゅうだったかのように栗色の青年は、【MPゲージ】を一割減少させ、サファイア騎士の背後にテレポート。


 そのまま無防備なサファイア騎士の背中に振り下ろす。

 だが、その剣擊はそう来るだろうと予想して走り出すとほぼ同時。【MPゲージ】を二割減少させ、創造を開始していた右肩の出血を抑える氷を若干伸ばし、氷盾で防ぐ。


 それを感触で判断した栗色の青年は、即座に次の場所へとテレポート。

 サファイア騎士は、四方を一瞬で見渡すも、どこにもいない。

 と、なると地面に潜れない《KAMAAGE》内では可能性は一つしかない。


 はっ。と上を仰ぎ、そこに見つけた。遥か上空から降り注ぐ栗色の青年。

 その落下速度を乗せた攻撃から回避しようとも考えたが、四方八方どこに逃げようと、跳んだ瞬間、頭上間近にテレポートしてこられて終わる。そう考え、その場で迎え撃つことにしたのだ。


 数秒後、ぶつかり合う二本の剣。

 その衝撃で仮想の大気が震え、大気を焦がす。そんなありもしない感覚が、二人を襲っていた。

 銀剣と氷剣の真っ向勝負。

 強度はこれが面白いことに、銀剣より、魔力により編み上げた氷剣のほうが強いとシステム上ではそう判断している。


 一時の拮抗。

 だが、今回の場合、落下速度を乗せた、栗色の青年の銀剣のほうが強いとシステムが判断したようで、氷剣にヒビが生じる。

 また下肢も衝撃を地面に流しきれずに【過付加ダメージ】により、心許ない【 HPゲージ】がみるみる減少する。


 残り四割を切った直後、氷剣の耐久値が限界を迎えたようで、パキンと甲高い音を上げ、粉々にくだけ散る。

 その後、サファイア騎士は寸分の狂いもなく、バックステップして回避しようと思ったが、間に合わず、頭からの直撃を許してしまう


 この事でサファイア騎士の【HPゲージ】はついに全損。

 刹那、椎菜の視界一杯に【YOU LOSE...】という文字が表示される。


 こうして、椎菜の無敗伝説は幕を下ろした。それと同時に、あまり知られていないが、これが後に《KAMAAGE》初のアイドル系トップランナー誕生の一戦でもある。

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