ゴールデンウィーク初日
二千三十九年五月三日の火曜日
火曜日。それはカフェオンライン部の定休日。
そして、五月三日は学生ならおそらく誰もが楽しみなゴールデンウィーク初日。
五人はいつもなら何もない日の休日には家から出てこない姫乃の提案で遊びに行くことにした。
なぜ、めんどくさがりな姫乃がそんな提案したのかというと、理由は行き場所と、皆の服を見て自ずと分かって来る。
「ということで来ちゃいました~! 『メイプルアーホルン』~!」
アジサイ柄の着物に身を包んだ三紅が年甲斐もなく、『メイプルアーホルン』という名のショッピングモールの前で大声を上げる。
このショッピングモールは最近――と言っても、三年前に――オープンしたばかりの中高生の女子から大人の女性達に人気のブティックが多数構えている場所である。
「オレも三紅も来たことないんだがな……。というより、お前まだそれやってんのかよ?」
三紅は家が古くからの呉服屋ということもあり、幼いころから『私服は着物で』という英才教育を受けていることと、三紅は幼いころに着物の素晴らしさに魅了されたということ。
それら二つの要素が相成って、こういうショッピングモールで売っているような洋服には興味を示さないで過ごして来た。
「えー。読者の方に分かりやすく場所説明するにはこれが一番だと……」
三紅がそんな意味不明なことを言っていると、姫乃がめんどくさくそうに手を振りながら言う。
「いやいや、よくわかんねぇし。それに近所迷惑だからやめろ」
「えー、良いじゃんかー」
三紅が頬を膨らましながら言う。
「だって怪しいだろ? 祭りでもないのに着物姿で歩く子供。挙句の果て突如叫び出すなんて痛すぎんだろ?」
「子供扱いしないでよ!? なげるよ!?」
「それにしても、おっそいなー」
「無視!? いい加減にしないとグレちゃうんだから!! ……。それは、確かに遅いね……」
二人はもうかれこれ三十分近く待っていた。しかし、いくら待とうがあとの三人は来ない。
それもそのはず、待ち合わせは十時。対し、現在の時刻は……。
「それは待ち合わせ時刻の一時間前ですから、誰も来てないのは当たり前ですよ」
等の呆れ声を漏らしながら、待ち合わせ時刻の一時間前、つまり九時に表れた人物、モカは言った。
「あー、それもそうか。私たち楽しみ過ぎて早めに来ちゃったんだ」
「おい! 査証すんな。オレは別に楽しみとかじゃなく、お前の手綱を引くために仕方なくだからな……。ま、忘れてたけど」
小声で囁いた姫乃の最後の言葉は三紅の、
「私、動物扱い!?」
という張り上げた声により、書き消された。そんな二人のコントとも取れる二人のやり取りを受け、クスクス笑っているモカに改めて指を指しながら突っ込む。
「そういう、お前も来てんじゃねぇか……」
モカはスマホを取り出し、慣れた動作で操りながら声。
「あー、その事なんですけど、椎菜さんから
連絡が来まして……」
それと同時に、スマホの画面を見せる。そこには、椎菜とのメッセージでのやり取りが写っていた。
《椎菜〉〉もう三紅と姫乃ついたみたいだよー》
《モカ〉〉え? 早くないですか?》
《椎菜〉〉うん。早いよねー。驚いちゃった》
《椎菜が写真を送信しました》
《モカ〉〉椎菜さんもそこにいるのですか!?》
《椎菜〉〉まあね♪》
《モカ〉〉あたしも行きますから少し待ってください!》
そのメッセージを見た姫乃は思わず声。
「ま、マジか……」
「ほんとだー、でも、椎菜さん見かけないねー。姫乃」
「ああ。そうだな……って、ん?」
姫乃はモカに送られてきた写真の違和感に気が付き、後ろに振り向く。
と、手を振る椎菜がいたのだが、なぜか姫乃は冷ややかな眼を送っている。
「なにやってんだ。あいつ……」
「え? 見つけたんですか!?」
「ん……」
姫乃の指で指し示した場所。それはモールの中だった。そこに椎菜はいた。
姫乃もモカも気付いたようで、一瞬驚愕を見せる。その事に気付いたのは椎菜も同じで満面の笑みとなり、手を振る速度と動きを早めた。
「アレー。イナイナー」
「ハイ。ソウデスネ。イマセン」
が、三紅もモカも咄嗟に他人の降りをすることにして、あからさまに棒読みで辺りをキョロキョロ見渡す。
その事がショックだったのか、涙目となりガラスをドンドンと叩く。
その騒ぎを嗅ぎ付け、警備員やら開店準備をしているテナントの人が駆けつける。
「あ、見つかった……。あ、逃げた……」
椎菜の本気で車椅子を漕ぐスピードが予想以上に早くて、なかなか追い付けないようだった。
しかし、店の人達も数にものを言わす形に切り替える。
「あ、捕まった……。あ、怒られてる……」
モール内で起きている攻防を唯一、傍観しながら実況していた。
「お、出てきた……」
猫を閉め出すように外に出された椎菜。涙目になり、三人に近付きながら怒声。
「なんで無視するのさ!」
どう反応したらいいのか分からずにいる、三紅とモカだったが、次の瞬間、行動に移した姫乃をの言動を真似た。
「おーす。椎菜。お前も随分早いじゃないか」
何事もなかったかのように、手を上げ、近付いて来る椎菜に声を掛けた。
「あれ!? なかったことにされてる!? 三紅とモカはそんなことし……」
椎菜の言葉を遮るように、三紅。
「ウン。ソウダネ。ハヤカッタネ」
「ソウデスネ。ハヤカッタデスネ。シイナサンモ、イテモタッテモ、イラレナクナッタノデスカ?」
「三紅とモカもなかったことにするの!? それになんでカタコトなの!!?」
椎菜の顔が徐々に破顔して行き、本気で泣きそうな雰囲気を漂わせている。
いち早くこのままでは不味いと悟った、姫乃はすかさず、椎菜の頭に手を掛ける。
同時に冗談めかしたような声。
「ジョーダンだよ……。それにしても、お前なんで中にいたわけ?」
姫乃の一言でパーっ。と、一気に表情が晴れる。
――うわーっ。チョれー。もしかしたら三紅よりチョロいんじゃ……? ほんと大丈夫かよ――
「あー。それは。姉ちゃん……。って言っても二番目のほうだけど……。その二番目の姉ちゃんがここにテナントを出すらしくてさ。その手伝いがてら、昨日の夜中から泊まってたんだよね。遅刻したら行けないし……」
「ま、マジか……」
「へー。椎菜のもう一人のお姉さんって、お店を開いてるんだー」
「初耳ですね。どんなお店ですか?」
「んーとね。ナイショ!」
「んー、そっか! ま、内緒なら仕方ないよね!」
「うん。ごめんね。うちの二番目の姉ちゃん家族構成を秘密にしたいらしくてさ……」
表情を曇らせる、椎菜にフォローを入れたのは、親が飲食店を経営しているモカだった。
「そういう経営戦略もありますから、気にしないで良いですよ。それにただでさえ、お姉さんが、大手企業《SMILEY》の役員と来てますから。そのプレッシャーは計り知れないものがあります。その事もあり、家族構成を知られたくないんでしょう」
「モカ……」
「お、たまにはまともなこと言うじゃねえか」
「そうでしょう」
姫乃の皮肉めいた言葉を脳内で勝手に誉め言葉へと改竄するモカ。
姫乃は思わずため息。
「……。まあ、いいや。それにしても――」
姫乃は三人の服装を一瞥する。
「――三紅は着物姿、モカはなんか良くわかんねえキャラのダサティー。椎菜は……。ん、ま、いっか……。まともなのはオレと守晴だけか……」
一時間後。
「すまぬな。またせたか?」
時刻は十時ぴったり。ショッピングモールが開店したタイミングで表れた守晴は申し訳なさそうに言った。
「いんや。俺らが早く来すぎただけだ。気にするな……。ま、マジか……」
フォローを入れた筈の姫乃だったが、その服装を見るや固まる。
それも仕方ない。制服で来ると期待していた守晴の服装が違ったのだから。ましてや、メイド喫茶の時に着てた柔道着でもなかったのだから。
守晴が着てきた服装。それはおそらく本当の私服。彼女が『外に着ていけるものではない』と言っていたそれは、なんの謙遜でもなく事実だったのだから。
守晴は、全身をゴスロリコーデで着てきたのだから。
そんな私服を目の当たりにして、改めて実感し、呟いた。
「ほんとに今日、服を買いに着て、よかったぜ……」
今日はここまでとなります♪
次回は、明日の夜10時になります!
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