アザナの一人目、【紅の天使】
二千三十九年五月二日の月曜日。
午後四時。
カフェオンライン部では今日も大盛況だったのだが、この日は椎菜の対戦スペースの挑戦者は一人もいなかった。
ので、この日は椎菜もホールとして動いていた。
――高坂柚季ブランドで一着、二桁万円は下らない服のおそらくオーダーメイド――藤色のバラを思わずメイド服風のドレスワンピを見に着けた椎菜。
そんな彼女の膝に乗せてあるトレイに、出来上がった料理やコーヒーを乗せて行く姫乃とモカ。
それを椎菜が純白のフレームの車イスを鮮やかに動かし、客の元へ運び、それを取って貰う。
それが可能の接客スタイルだ。
「お待たせしました!」
「わー。ありがとー。椎菜ちゃん」
という具合で椎菜の笑みは同性からしても破壊力が高いようで、これまでクレームが来ることなく、客らも自分から進んで取ってくれている。
「むしろ。椎菜さんの笑顔を間近に堪能したくて、椎菜さんに運んで貰いたかったのに。などという声がちらほら上がってますね」
そう言ったのは、白いブラウスと黒ジーンズの上から左胸に茶色のバラの刺繍が縫ってある、黒エプロンを身に付けているモカ。
このモカの呟きに、左胸のバラの刺繍の色が黄色なこと以外、全く同様の服装の姫乃が、接客に活き活きした目で取り組んでいる椎菜を見やり、
「ああ、だな。椎菜に運んでもらいたくて、客もいつもより大盤振る舞いな感じだし、いっそのこと、一週間に一度、椎菜の接客デーでも作るか」
と、冗談めかしながら言ったアイデアだったが、客からの強い要望で二週間後には、毎週金曜は『椎菜の微笑みデー』と称する椎菜が挑戦者を受け付けずに、接客する日が出来るることは言うまでもない。
ま、そんなこんなで、椎菜の反響もあり、ホールスタッフが一人から三人に増えたにも関わらず、三紅はてんやわんや状態。
「に、しても……」
「白雪姫さん、どうかしましたか?」
「いや、なんでもねえよ……。ただ、ホールの奴ら、みんなバラバラの色なのに、妙に浮かねえなと思ってな……」
短息で締め括る姫乃の言葉を経てモカは今一度、三人を一瞥する。
改めて見ると確かに、マイペースに動く藤色、ちょこまかと動く薄紅色、そして、機敏で無駄の動きがない、薄蒼のバラを思わすドレスワンピが動く様は、一種の絶景だ。また、個個人を見てもとても似合っている。
そのような思考を恵らし終え、再度姫乃の方へと顔を向けるモカは目を仄かに細め、首を僅かに傾ける。
「白雪姫さんにもきっと似合うと思いますよ」
「ば、バカか! オレが着ても似合うわけないだろが……。誰得だよ……」
モカの返答に、顔を赤らめながら反論するも説得力の欠片もない。
「お待たせだゾ☆」
そう言うのは、膝まで伸ばしきった灰髪の前髪をとめているのロゼ色の髪留め。
そして服は薄蒼のバラを思わすドレスワンピを着た人物、守晴・オーロッディーユだ。
守晴は接客を一昨日『天使のボイス』から盗んで、ぶりッこメイドとなった。
普段の素っ気ない態度から打って変わってのギャップが良いらしく、椎菜の接客には負けるがやや受け状態となっていた。
ホールが三人になり、何とか回っている状態で、時刻が午後四時半を回った頃だった。
この日稼働していないはずの《KAMAAGE》のゲーム実況がモニターに写し出されたのは。
何事かと眼を見開に部室の中にいるほとんどがモニターの方へと顔を向けた。
すると、モニターの左端には一人の人物が立っていた。
その人物の容姿は単純に言えば黒で片付けられる。
より具体的に言うと、腰までの黒髪。黒のフリル付きノースリーブに、黒のマチ付きスカート、黒のロングブーツ姿。
「姉ちゃん!?」
椎菜が声を荒げると、その人物は軽く手を挙げ答えた。
「はーい♪ 椎菜。今日も相変わらず可愛いね♪」
「あ、ありがと……。でも、いきなりなにするのさ!?」
挙げた手に持つのは、高坂柚季のスマホケース。それから伸びる白いコードはモニターに繋がっている。
よって、モニターに何かしたのは、誰の目から見てもこの人物、椎菜の姉にして、このカフェオンライン部の顧問であり、この学園の理事長、神坂詩野であることは明白だ。
話しやすくて、誰もがすっかり忘れていたことだが、椎菜はこの得体の知れない理事長の妹なのだ。と、二人のやり取りを見聞きして実感される。
「何って。《KAMAAGE》の製作者、ツクヨミがエキジビションマッチを今から、全国一斉放送するって告知があって、せっかくなら、ここで流したら良いかな~♪ なんてね♪」
「あ、ほんとだ。やってる」
等の声が部のあちらこちらから上がのにも、関わらず椎菜と姫乃は神坂にジト目を送り続けている。と、モニター内に動きがあった。
そこに転送された二人を黙視するや、椎菜はモニターに釘付けとなった。
* * *
空色の髪にキザな顔立ちの中肉中背の青年。名を【ヘカテー】。日本で《KAMAAGE》のトップランカーの一角である青年が今、円形闘技場に降り立った。
その目線の先には、一人の紅髪をふわりボブにした愛らしい見た目の女子。
また、青年が軽鎧に直剣を纏っているのに比べ、女子は紅を基調とした巫女装束と踊り子の服装を掛け合わせたような服を着用し、武器も弓と一本の矢を装備しているのみ。
――この格闘ゲームは本格的で、武器も戦いが終わるまで回復しない。弓にいたっては、射ったら自動至急もない。その為、弓使いはほとんどいない――
その少女の名を【紅の天使】。【アザナの四人】の一つであるデフォルトキャラ【紅蓮の堕天使】の使い手だと自張する名だ。
そんな名を見るや、なんの冗談かと笑みを溢す【ヘカテー】。
「これはいったい、なんの冗談だい? 割り込み対戦が来て承認してみては良いものの、まさか素人だとはね」
紅髪の女子アバターは苦笑の表情を崩すことなく、無言で弓を矢に掛ける――弓用の【話し合いタイム】のスキップモーションに移行した――
無視された青年はなおもキザな口調を崩さずに、
「無言、か……。いいよ。これが運営側が用意したイベントだと信じて、最初から全力で行かせて貰うから、素人だったら恨まないでおくれよ……」
それだけを言い残して、空色の髪を持つ青年を剣に手を掛ける。
――なぜ【ヘカテー】が、【紅の天使】を素人だと思ったのか。理由は三つ。
一つは名を聞いたことないこと。もう一つは武器に弓を選んでいること。通常なら矢筒を背負って転送されるのだが、どういう訳か【紅蓮の堕天使】は手持ちの矢一本のみ。そんな心もとない武器でどうやって勝てよう。
そして、最後の一つは【アザナの四人】の一人を選んでいること。
【アザナの四人】はいずれも特殊なデフォルトキャラで、対戦で買っていくうちに追加されるキャラである他に、容姿変更、体型変更は不可なのだ。
したがって、オリジナルアバターとして変更出来るのは、武器種のみ。
また、いずれも魔法が他のデフォルトキャラと比較すると圧倒的に使いにくいので、今は使う人はまずいない。すべてのデフォルトキャラを使える器用貧乏な【ヘカテー】でさえ使えない。
そしてなぜ、【アザナの四人】と称されているのかというと、その理由は普通のデフォルトキャラが【ジェシー】や【クシャダ】と人の名前なのに、その四人のデフォルトキャラの名はが【紅蓮の堕天使】を初め、【絶対零度の殺神】、【黒の少女】そして【微笑みの狂剣】。
というように、その四人だけ何故か通り名だからだ。
なぜ製作者がこんなキャラを作ったのか、【ヘカテー】を含め、トップランカーの一部では、運営側がイベント用に作ったキャラだと推測している――
【READY FIGHT!!】という文字が【ヘカテー】の視界一面に広がり、緑色と青色のゲージがフルチャージ。
それとほぼ同時、視界の文字が消え【120】のタイムカウントが始まる。
今日はここまでとなります♪
次回は、明日の夜10時になります!
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