私立聖ブルーローズ女学園
――私立聖ブルーローズ女学園。
そこは、周囲を山に囲まれた都市にある小中高、そして大。まで連なる一貫校だ。
その為、合格倍率は初等部は六倍、中等部――以降、他校から転入する場合の倍率――は二十四倍、高等部は五倍、大学受験は最も低い二倍と、人気学校。
高等部と、大学受験に関する倍率の低さは一学年に対する受け入れ人数が中等部に比べてほぼ倍になるのと、男性との出会いを求め、近くの共学高校に転入する人が少なからずいるからと考えられる。
また、大学受験に関して言えば、栄えている都市とは言えど、地方の中ではでの考え方なので、四大都市に憧れて上京する者や、より専門知識を求め、他校に転入する者、あるいは、大学には行かず、そのまま就職する者等も多数いるので、倍率は格段に下がるのであろう。
二年前、ここ数年で力をつけてきた大手ベンチャー企業がこの学校を何故か買収。その後、理事長にその企業の役員へと変わり、教員達と一悶着あったそうだが、一ヶ月満たずで終結する。
明くる翌年、理事長の意見で高校から単位制度を導入。
これは全理事長時代からの校訓である『学生の自主性を重んじる』と言う学園方針のため、たいして反発起きはなかった。
そして現在。西暦、二千三十九年四月八日。
聖ブルーローズ女学園、入学式。
理事長の企みが暗躍していると知らず、期待に胸を膨らませながら高等部に転入して来た二名の生徒がいた――
入学式と、その後のホームルームも終わり、凄まじい先輩達の部員観入合戦も「すみません。もう入りたい部決めてるんで」と、丁重に断り続け、なんとか脱出。
高低差が目立つ二人は目的の部活の勧誘をしている先輩達を探していた。
「三紅~。疲れた~。今日は諦めて帰ろうぜ?」
気だるそうに言いながら、腕をだらんと下げながら歩くのは、スラッとした見た目で言うなれば、モデル体型。顔もキレイに整っており、目元が鋭いのが印象的な、腰まで長い栗色の髪を、右で一つに結わえた生徒である。
「こーらっ! 姫乃はまたそうやって面倒事を後回しにして!」
尚も気だるそうにして歩く栗色の髪でモデル体型をした生徒――姫乃――を彼女の左下から可愛らしい声と態度で叱責するのは、姫乃が三紅と呼んだ生徒だ。
三紅は、サラッとした黒髪のふわりとしたボブヘアー。風貌は童顔でくりりと大きな瞳がさらに愛くるしさが増す印象の生徒だ。
また、身長百八十四センチで胸もそこそこある姫乃に対し、三紅は身長、百四十八センチで胸もないと言う、ことごとくまでに幼児体型だ。
それ故、勧誘する先輩も、同じクラスメイトでさえも、「小学生?」と間違われる始末。
本人はやはり、気にしているようで、その度、噛み付きにかかる。
挙げ句の果て、高身長で大人びた体型の姫乃と一緒にいるので、更に幼い印象に見える。
しかし、小学生からの付き合いの三紅と姫乃のバランスは見た目からは逆。
つまり、面倒臭がり屋の姫乃を三紅が引っ張っている――そんな二人の関係も周りから見ては、駄々を捏ねる娘に仕方なく付き合う母親としか思えない――のである。
「でもさ~。まだ初日だし~。それに、先輩達の部員観入も凄まじいぜ……。全く、良く次から次へとうじゃうじゃとゴキブリのように涌いてくるもんだな……」
「そんな例えかたしたら、先輩達に怒られるよ。それに観入されたの姫乃ばっかしだったし……」
三紅は口を尖らせながら言葉を濁すと、姫乃がその光景を思い出し、微笑。
「……。先輩達三紅を小学生だと思ってたな。学生手帳を出して高校生だと説明したら、今度は『飛び級ってできたっけ?』だからな……」
「もう! 失礼しちゃう! 姫乃もその時笑ってたよね!」
「悪い悪い。けど、それは、三紅も悪いと思うぞ」
「な、何で、私が悪いの?」
姫乃がその様に言うので三紅は先輩達に対する対応でなにか、問題があったのか。
と、振り返るも、至って普通の対応をしていた。……と、思い、聞き返すと、姫乃が口角をニヤリと上げる。
同時に声。
「だってさ、三紅はさ。身長低いし――」
「うっ……」
とたん三紅の心に矢が刺さった……、ような気がした。そんなのはお構い無しに姫乃は言葉を続ける。
「――童顔だし、声可愛いし、ぴょこぴょこ動いてて、動きも可愛いし、加えて髪型がそんなんだから幼さが倍増すんだよ。あ、あとオレみたいに胸もないし。いっそ、私は高校です。っていう看板首から、ぶら下げといたらどうだ」
心を親友の言葉の矢が刺さりまくりの三紅。やがて、とうとう堪忍袋の緒が切れたようで声を荒げる。
「もう。知らない! 姫乃の黒歴史大声で張らしてやるんだから!!」
「なっ!?」
「はーい! 皆さん聞いてください! 私の隣にいる。フニャッ!? フニャフニャ」
大声で有言実行をしようとする三紅の口を姫乃が大慌てで塞ぎふ、それでもフニャフニャ言っている三紅に謝る。
「俺が悪かった! だから、な?」
ジト目を送る三紅。数秒後、姫乃の手のひらにため息が当たりながら、頷く。
姫乃はホッと息をつき、三紅の口からヨダレまみれの――もちろん三紅の――手のひらを剥がし、ハンカチで拭いていると、背後から声を掛けられたのである。
「そんなにお姉さんを困らせたらダメよ?」
振り向くと、バスケ部のビラを配る先輩がいた。
例の如く、姫乃にだけ部活のパンフレットを見せ、それを姫乃が首振りだけで断ると、残念そうな笑みを浮かべながらしまう。
「あの、失礼ですが、お姉さんってどういう……?」
三紅の問いにバスケ部の先輩は腰を低くして、目線を合わせる。
「へ? あれ? 違った? 仲が良いからてっきりお姉さんかと。ごめんね。お姉ちゃん勘違いしちゃった」
「高校一年なんですから、子供扱いしないで下さい!!」
「お姉ちゃんは高校二年生だよ?」
未だに、子供扱いするバスケ部の先輩。
三紅は更に頬を膨らませ、声を荒げる。
「私が高校一年なんです!!」
バスケ部の先輩は数秒間、三紅が発した言葉に理解出来なく硬直を見せる。
「へ? マジで?」
屈んだ状態のまますっとんきょうな顔で姫乃の方を見やり確認の声を上げるバスケ部の先輩。
すかさず、姫乃は肯定。
「そうですよ。こいつは、オレと同じく一年です」
「エエーーッ!!?」
「本当にごめん!」
腰をほぼ直角に曲げながら三紅に謝罪した後、気まずくなったのかバスケ部の先輩は颯爽と二人の前を後にした。
二人は未だに目的の部活の先輩と出会えずにいた。なので、仕方ないので不本意ながら強行手段へと移した。
「はーい。と言うことで来ちゃいました! 購買棟一階、食堂横! いやー、部室解ってるんだから、最初から来れば良かったねー」
「本当にな」
購買棟は高等部と、大学の共同の三回建ての建物で、二回の料理場と購買を隔て、一階を高等部の食堂と、三紅と姫乃が入ろうとしている部活の部室が、三階を大学生達の食堂と屋外テラスで構成されている。
《カフェ部》と言う部室札をほぼ同時に発見した三紅と姫乃は視線を見交わし走って行く。
しかし、カフェ部に入ることは敵わなかった。
その理由は端的に言うと部室の入口に《カフェ部は閉店しました》との張り紙があったからだ。
「「えええーーーっ!!?」」
入学式初日。購買棟で聞こえる謎の悲鳴。が、聖ブルーローズ女学園の七不思議に加わったことは言うまでもない。
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