新部員加入!?
二千三十九年四月三十日の土曜日。
朝七時。
「おーっす……。モカ、椎名。昨日は大変だったな――」
例の如く姫乃は家の近くにある二十四時間営業のスーパーで大量に買い物をしてから来た。
「――ってなんでお前がいんだよ」
姫乃は先に部室にいた第三の人物を目で捉え毒気を帯びた声でいう。
「入部した」
その人物は素っ気なく答えた。
「だろうな。だが俺が聞きたいのはそこじゃねえ。お前の入部の理由だ! いったいなんで入部したんだ!!? なぁ、オーロさんよぉ……!」
そう、この部室にいた第三の人物。それは昨日、道場破りと称して、椎菜に勝負を挑み見事返り討ちになった筈の守晴オーロッディーユ。まさにその人である。
守晴はあのあと、すぐに『邪魔した』とだけを言い残し、部室を後にした筈だ。
第一、守晴は強いものと闘うのが生き甲斐であると自分で言っていた。
それなのに、何故彼女はこのガチガチな文化系の部活、カフェオンライン部に入部したのか。
確かに椎菜は強い。が、入部したら当然カフェの手伝いをしないと行けないわけで、そうなれば、椎菜と闘うのが必然的に少なくなる。
守晴がこの部に入っても何の特もないのである。
その事もあり姫乃の疑問は最もである。
その疑問に守晴は左肘を右手で支え、その左手は顎を支える体勢になりしばし考え込んだ後に言葉を続ける。
「理事長と生徒会長並びに風紀委員長に約束したから、とでも言うべきか?」
「約束だぁ……? いったいなんの?」
「ああ、あたいは知っての通り、学園で横暴を繰り返してきた。そんなあたいを生徒会や風紀委員が見過ごす訳がない」
「まあ、そうだわな」
姫乃が苦笑しながら頷くと守晴もつられるようにほんのり苦笑。
「だから、とある約束をさせられてな。もし、負けたらそこの部に入れ。道場破りは部の体験入部として処理すると言ってきてな。それであたいはここで椎菜に負けた」
「あー、なるほどな。つまり、負けたからしゃあなし入るっつー訳か」
「それは違う。ここには椎菜以外に強い者がたくさんいるから」
「な、なんだよそれ……。ああ、もういい。ようはお前は本気で部活に取り組む必要ねえんだな……」
なかなか煮え切らない守晴の返答に姫野はイラつき混じりにまとめる。
「いや、あたいは元がこんな性格で話ベタだ。皆と仲良くなりたいとは思ってるんだが、どうも上手く行かなくてな。だから、ここでホールとして働いて、コミュニケーション能力を鍛えようと思ってる」
姫乃はしばし黙り込み、めんどくさそうに頭をに手をそえながら、ため息をつく。
「だったら、最初からそう言えよな……。ったく、めんどくせぇ」
「済まない……。日本語になれなくてな」
「あー、それは良いが。先にこれだけは言っておくぞ、オレはおまえとはヤらねえからな! めんどくせぇ……。オレは汗をかくのが嫌いなんだよ」
「そうか。わかった。それで良い」
「おーっし、んじゃ、ま。今日は閉店でいいな?」
その姫乃の言葉に、優しく同意するモカ。
「ええ、そう言うと思って今日は仕込みしてません」
天真爛漫に同意する椎菜と続く。
「さんせーい!」
その光景を見た部長代理の姫乃は苦笑混じりに、怒る。
「いや、ダメだろ。それ?」
軽く怒られたモカは微笑を浮かべ、返答を返す。
「あら、長年、一緒にキッチンをやってるなかじゃないですか? 白雪姫さんの考えは手を取るようにわかるのですよ」
「いやいやいや、長年ってまだ一ヶ月も立ってないだろ?」
モカは不思議そうにこてんと首を横に傾けた。
「そうですか?」
「そうだよ。それに、オレの思考を完全に読むとかこわいっつうの……」
すかさず椎菜の相槌。
「だね」
「あー、それはですね。料理の手際……。いえ、白雪姫さんの場合は入れ方の手際ですね。それを見てたらだいたい、こういう時はこうするのですかね? なんてことはだいたいわかるのですよね」
「いや、だから、こわいっつぅの。ま、それがもし本当なら、お前心理学的なあれに進んだら良いんじゃねえの?」
モカは笑いながら、
「あたしは将来、家族のケーキ屋を手伝う予定ですから
と、言われてはこの会話はここで終わるしかない。
そのノリについていけなく、呆然と立ち尽くしていた、守晴はようやく声をあげた。
「そんな、簡単に決めて良いのか?」
「ああ、良いって、良いって。一応定休日はあるが、もともとは不定期オープンの喫茶店だからな。それに、まずはお互いのこと知らないと、連携が上手く行かないだろ」
守晴は再度、左肘を右手で支え、その左手は顎を支えなから考え込んだ。
どうやら、これが守晴の考える時のクセなようだ。
「ふむ。一理あるな。確かにあたいも見ず知らずの人に背中は預けられないからな」
「なーんか、それとこれとは違う気がするんだが、まぁ、めんどくせぇし、それで良いか。それで三紅が来たら、質問責めだからな覚悟しとけよ!」
* * *
その一時間半後。時刻は九時の少し前。
オープンが九時なので、ギリギリにやって来た三紅は昨日の疲労も残っているのか、足取りが重かった。
そんなことはお構い無しに姫野は三紅を叱咤する。
「三紅! お前またギリギリじゃんか!」
いつもなら頬を膨らませて言い返してくるのだが、この日は本当に疲れてたようで、三紅は覇気なく言った。
「だってさー、皆は知らないだろうけどさ。守晴さんが椎菜のこと殺気プンプンで聞いてきて、守らなくちゃ、と思って満身創痍のなか闘ったんだよね~。ま、結局負けたうえ、勘違いだってわかったんだけど。おかげで全身筋肉痛だよ」
「って、三紅とも闘ってたのかおまえ」
姫野が呆れ声で言うと、守晴が表情を変えずに頷く。そこでようやく三紅は、守晴がいることに気がつく。
「あれ! 守晴さん、なんでここに!? い、いまのは違うんですよ!! 悪口とかそういうのではなくてですね」
三紅が慌てふためき身振り手振りを付け加え、声を荒げる。
その一つ一つの動作を切り取って見ても本当にかわいい。
対する守晴はというと、落ち着いた大人の対応を見せた。
「ああ、わかってる」
同じ年でもこうも、違って見えるのか。錦織さん可愛そうに。三紅、後でよしよししてあげるかるね。
等と姫乃、モカ、椎菜は三紅に同情していた。
そんなことは知るよしもない三紅は指を唇にうっすらと当てながら、こてんと首を倒し、この状況について聞いてきた。
「ところで、なんで守晴さんがここに?」
「喜べ。三紅。この守晴。ここに入部するってよ。しかも、ホールとして」
姫野が微笑しながら言うと、三紅はしばしの沈黙。
そして、
「え!? 本当に!?」
子供のように飛び回る三紅に表情を変えずに「ああ」と、頷く守晴。
三紅はその返答を聞きさらに飛び回る。その数秒後、姫野がその首根っこを掴み落ち着かそうと声。
「こら、暴れるな! 落ちつけ」
「うう、わかったよ……」
この時、三紅の姿はまるで小動物のようだった。
三紅が落ちつきを取り戻したのを確認し、姫野は服から手を放し、ようやく本題に入る。
「それでだな。今日は店を開かなくて、皆で親睦を深めようぜって……」
「だったらさ。ついでにどこかへ行こうよ」
「って、聞けよ!? ってかやだよ。めんどくせぇ……」
「えー。行こうよー!」
「やだって!」
「そうですね。せっかくなら行きましょうか」
「モカ! てめぇ。裏切るのか!?」
「裏切る? さて、なんのことでしょうね? 椎菜さん」
「うん、そうだね、せっかくだし、行こうよ!」
「くっ! 椎菜まで……! そうだ。守晴! お前が決めろ」
守晴はお得意の考える仕草を取ったのちに、ゆっくりと言い放った。
「あたいは別にどっちでも良いが、この近くに新しく喫茶店が出来たそうだ。噂では、そこの接客が良いらしく、コーヒーも中々だそうだ。敵情視察も兼ねて行ってみても悪くはないんじゃないか?」
「ま、マジか! そこ行こう! すぐ行こう!」
という姫野のあっさりと手のひらを返しに、今度は三紅がやれやれと首を振りながらの呆れ声。
「本当に、姫野はコーヒーに目がないんだから……。でも、この近くに喫茶店ってオープンしてたっけ?」
三紅が頬に指を当てそんな疑問を口にすると、椎菜、モカの順に、
「う、うん。オープンしてたよ」
「そうですね……。確かにオープンしてましたけど、あそこは……」
意味深に答えた。
今日はここまでとなります♪
次回は、明日の夜10時になります!
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