武の強者表る
二千三十九年四月二十九日の金曜日。
この日は祝日ということもあり、朝九時から開けていた。
時刻は午後二時。
ランチタイムラッシュがようやく落ち着き、ちょうど一息ついたところである。
「ふぃー、ようやく一段落だよー。もう一歩も動けない。今日はこの辺で閉めない?」
「良いぜ。ランチタイムは椎菜も手伝ってくれたが、これからの時間帯は、椎菜もゲームにかかりっきりになるだろうからな。ホールは三紅しか居なくなるだろうしな」
「ありがとー。じゃ、看板を裏返してくるー……」
三紅は覇気なく言い残し、扉の掛けてある木札をひっくり返しにのし、のしと歩いて行く。
そんな三紅を見ながらおもむろにモカは口を開く。
「やはり、問題はホールですね……」
その粒きに、吐息混じりに言葉を押し出す姫野。
「だな……。調理も手は回ってねぇけど、ホールが潰れちまったら埒が明かなくなるし。かといえ、椎菜はこの店の目玉である。対戦を申し込まれたら断ったら元も子もねえし」
「ごめん……」
椎菜は表情を曇らせ謝罪する。刹那、姫野は微笑を浮かばせながら、椎菜の頭に手を乗せ、キレイな藍色の髪をグシャグシャにする。
「キャッ!!」
椎菜の可愛いらしい奇声のあと、姫野の声。
「前から言ってんだろ。オマエが謝ることなんかないって……。オレが謝って欲しいのはただ一人。うちの顧問だけだ」
「姉ちゃんに?」
「そうですね。あたしと同意見です。あの理事長、顧問のくせに、開部してから一ヶ月弱。姿を見せたのは四度。それも手伝いとかじゃなく、客としてですからね。思わず、タバスコ一瓶入れてやろうかと思いました」
モカは爽やかな笑みで言ってのけた。それに姫野は悪魔の笑みを浮かべ同意。
「お、気が合うな。オレも、思わず三紅用の豆でコーヒー淹れてやろかって、思ったぜ。あ、椎菜、今のことは理事長に内緒にしといてくれ、な?」
「う、うん。もちろんだよ――」
――てか、言えるわけないじゃん。と、心の中で続けると、姫野が思い出したかのように声を上げる。
「そういやぁ、三紅遅いな……」
「ああ、そう言えばそうですね。外で倒れてるんじゃないですかね」
「ああ、かもな……。と、噂をしたら帰って来たみたいだぜ」
チリンチリン……。
ドアベルの音が聞こえ、中にいる全員が振り向く。そこには、疲れきって覇気のない三紅と、もう一人。
「椎菜~。道場破りみたいー、相手よろしくー」
三紅はそう言い終わると、近くの椅子に座り、骨がなくなったかのように、テーブルに雪崩れ込む。
「えーっと……」
《道場破り》という言葉に一同混乱を見せていると、灰色の左前髪にロゼ色の髪留めを着けている細身で筋肉質な生徒の声。
「三紅さんから話しは聞かせてもらったから今回はあたいのワガママだし、あたいが勝っても無料パスは良いよ」
目付きの悪く傷や痣だらけな印象から放たれる甲高い声はなんとも気の抜ける。いや、そんなことらどうたっていい。
「まてまてまて。話が一向に見えて来ない。済まないがもうちょっと詳しく頼む」
姫野は目前の正体不明な人物に怯むことなく、一歩近付き、その様な突っ込みを見せる。と、伸ばしきったように膝まである灰色髪の生徒は――左肘を右手で支え、その左手は顎を支えている。
そんな――体勢になり、しばしなにかを考え、そして、言葉を発する。
「失礼。あたいは、強い者と闘いたくてな。高校入ってから、一週間であらかた運動部系の部長は打ち負かしたから、どうしようかと思っていたところ、偶然《KAMAAGE》の大会のサイトを見つけて、【W.C.S】と【ヘカテー】の動画を見た。それで、これなら楽しめる? と、思い、手始めに、この学園で負け無しの噂の椎菜という生徒と闘ってみようと、おもってな」
「あー、つまり、道場破りさんは、《KAMAAGE》の大会に参加する前に、ここにいる椎菜に勝って、自信を着けたいということか?」
「……。そうなるか? ま、解釈はそれで構わない」
「に、しても、すげぇな。あのですわ先輩に水泳で勝つなんて、あの人確かオリンピック選手を確約されてると、思うんだがな。で、どうするよ? 椎菜」
不意に話を振られた椎菜はどうして良いか分からず、
「ええ!? ぼ、ボク!?」
と、声を荒げる始末。それに姫野はなにを当たり前のことを。という表情で更に声をかけるも、次の瞬間、道場破りに邪魔されることとなる。
「当たり前だろ? おまえの客だ。おま……」
「なにを言っているのかな? 椎菜さん。誤魔化さなくてもいいんだよ?」
「ご、ごまかす……?」
椎菜が問い返すも、道場破りは、何故か姫野を見詰めながら、声。
「大丈夫、大丈夫。あなたが偽物だってことは分かってるから。ね? 椎菜さん」
「あ? なに訳の分からないこと言ってやがる?」
「誤魔化さなくても大丈夫だって、あたいくらいの力量になると、相手がどれくらいの力量を持っているか見るだけでわかるんだから……。さ!」
道場破りは姫野にまで一気に距離を詰め、顔面目掛け回し蹴りを繰り出す。
「白雪姫さん!」「姫野!」
と叫ぶモカと椎菜。
対する姫野は、少々苛つき混じりに声。
「……。っあぶねぇだろ! いきなり何しやがる!」
姫野は回し蹴りを片手で受け止めていた。それには、道場破りもいささか驚きを見せたものの、脚を元の位置に戻しながら、落ち着きのある声。
「寸止めするつもりでいたが、初見で。それも不意打ちの一撃を止められるとは……。確定。あなたが椎菜で間違いないよね? 体付きはともかくその動き、体幹はもはや常人の域をこえている。さぁ、椎菜あなたに闘いを申し込む!」
「だーかーらー! オレは椎菜じゃないって言ってんだろが!!」
言葉の終わりと共にばっと相手の目の前に付き出したのはスマホ。そのスマホの画面にはデジタル学生証が表示されていた。
そこには、自身の写真と『白雪姫野』という文字。そこまでを視認した道場破りは、即座に深々と謝罪。
「すまない! こちらの早とちりだ!」
「まったくだぜ……」
「お詫びに手合わせを……」
「いや、なんでだよ! そして、やだよ! めんどくせえし!」
「そ、そうか――」
道場破りは、少し残念そうに言うと、即座に今度こそ正真正銘、椎菜に勝負を挑む。
「――では、改めて椎菜! 勝負を申し込む!」
椎菜は天使のような笑みで引き受けたのだった。
「うん。望むところだよ!」
と。二人がゲーミングチェアに座ると、姫野が椎菜の耳元で爽やかそうな声で言った。
「椎菜……。絶対勝てよ」
「う、うん。頑張ってみる」
椎菜は姫野のあまりの圧力で冷や汗が流れ出ていた。その後、逃げるように【ハートバディ・ギア】を装着。流れる動作で機器のスイッチを入れた。
* * *
準備ルームに霊体化した状態の、道場破りは呟きながら、デフォルトキャラのデータを読み込んでいた。
「ふーん。なるほど。こんな感じかー。お、この子いいね! あたいにぴったり。この子にしようっとー」
対する椎菜は唸り声を上げながら悩んでいた。
「うーん。どうしようかなー。ここはボクの一番得意なキャラで行くか……。いや、でも大人気ないかな。でもなー、もし負けて戻った時の姫野が怖いし……。よし! きめた」
と言い、キャラを選び終えると、その数秒後、両者同時に【戦闘フィールド】に転送された。
大食漢のあとは!武の強者襲来しました♪
今日はここまでとなります♪
次回は、明日の夜10時になります!
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