W.C.S
第二章スタート♪
ここはイタリア、ローマにあるコロッセオ……。に似せた円形闘技場。
そこに、転送されるのは二名の戦士。
一方は、黒髪の可愛らしい服装の短剣を携えた幼女。一方は、空色の小生意気そうな顔立ちの青年。
戦い直前の三十秒間の【話し合いタイム】――両者の同意があればスキップ出来る――が始まり、まず、両者同時に頭上に浮かぶプレイヤー名を確認する。
――それによると、幼女のプレイヤー名が【W.C.S】で、青年のプレイヤー名が【ヘカテー】という名前らしい――二人が話し合い、もとい、心理戦を始める。
「やはり、君が勝ち上がって来たね。【W.C.S】……。ここがあったが百年目だ。今日こそ君を倒して見せる」
キザな青年プレイヤー【ヘカテー】は、これまたキザな口調や、手振りで煽りを入れる。
対し、幼女プレイヤーの【W.C.S】はこれまた、いたいけな笑みを浮かべ、答える
「そっちのブロックはやっぱりキミが残ったんだね。いいよ。楽しもうね」
「楽しむ? ふふっ。それは万年勝者の特権だよ? 常に挑戦者である僕にそんな余裕はないさ……」
そう、これはとある店が開催している大会。この《KAMAAGE》というゲームの大会は、ネット環境があれば、誰でも、どこからでもエントリー出来るというのが一般的になっている。その為、プレイヤー本人の身バレを防いでいると共に、交通費が浮き、予定が合えさえすれば、北海道の大会に出場したあと、翌日に沖縄の大会に出場することも出来得る。
その中でも、【W.C.S】と【ヘカテー】という二名は大会上良く見る名前で、良く見る対戦カードなのだ。
また、優勝回数からで言うと【ヘカテー】のほうが多いのだが、この【ヘカテー】という人物。未だに【W.C.S】と共に出場している大会では、優勝経験がない。
「そう? これはゲームなんだし、楽しんだほうが良いと思うんだけど?」
「ふふっ。やはり君には心理戦は通用しないようだね」
青年は腰に携えている剣の柄に手を掛ける――システム上の準備完了の合図――のを見た、幼女もそれに習い、腰に携えている短剣へと手を掛けた。
刹那、両者の視界いっぱいに、青く燃え盛る【READY FIGHT!!】という文字が現れ、消滅。
同時に両者の視界上部、左右に緑ゲージが二本出現し、その下の小さい青ゲージがフルチャージされる。
百二十秒間の短い二人の戦士の戦いが幕を開けた。
初擊を浴びせたのは、幼女だった。幼女は黒髪を靡かせながら、五メートル離れた青年に向かい勢い良く踏み込み、一気に距離を詰める。
そして、短剣を閃かせ青年の左腕を斬りつけた。は良いものの青年もさすがの凄まじい反応速度で、腕を後ろに引き、かすり傷程度で済ませた。
青年は自身のゲージが一ドット減っているのを視界端で確認しつつ、剣を振り下ろす。
幼女はそれをバックステップで回避。
青年は幼女に追撃。
「シッ!」
剣を引き戻し、短く吠えながら、青年の渾身の刺突が幼女の首に襲い掛かる。
幼女は首を精一杯右に傾けそれを避けるも、首に掠めてしまい、ゲージを一割持ってかれる。
再度、バックステップで距離を取る幼女。これに更なる追い討ちを掛けようと飛び掛かろうとする青年だったが、脚がまるで地面にくっついたかのように動かない。
事実。青年の足は氷によって、地面と固定されているのだ。
気付くと、幼女側の青いゲージが僅かに減少しており、じわじわと自分の体力ゲージが、【凍結ダメージ】による減少している。
それを確認すると、すぐさま、足に力を込め、無理やり動かす。氷から逃れるまでに、青年のゲージは一割ほど減少していた。
そのことで止まっている余裕など青年にはなく、お返しと言わんばかりの幼女の連擊。それを剣で捌くも、全ては捌ききれず、掠りダメージが蓄積。
一撃、一撃は大したことないものの、ちりも積もれば山となる戦法で、青年のゲージを三割持っていく。
残り六割、五割を切ったタイミングで両者の【HPバー】を隔てるように配置されたタイムカウントが【090】を表示されていた。
このままだとジリ貧だと感じたのか、青年は守りを大ダメージが入るところ――頸動脈や頭、心臓、大腿動脈などのウイークポイント(人体的弱点)――以外を捨て攻撃に転じる。
右腕に短剣が突き刺さる、残り四割。
そんなことはお構い無しに、青年は剣を引き絞る。
心臓を穿とうとする短剣は、サイドステップで突き刺さる部位を意図的にずらし、残り三割。更に深く突き刺さり、僅かにゲージを減少させる。
そのタイミングで、幼女の腹に蹴りを思い切り入れる。
小柄な幼女はそれに逆らう統べなく、後方へと飛ばされる。その衝撃でゲージ、その一割がふっ飛んだ。残り八割。
青年は左胸に刺さりっぱなしの――幼女が手を離してしまった――短剣を無理やり抜き、その場に乱雑に投げ捨てる。
このとき残りゲージは三割を僅かに切る。
青年はなんの躊躇いもなく、未だ、地面に足をつくことが出来ずに、後方に飛んでいる幼女目掛け、踏み込み一気に距離を詰める。
限界まで、引き絞り、照準を顔に合わせる。そして……。
「これで終わり、だー!」
叫びと共に刺突。
しかし、青年のそれはまたしても、届かなかった。
幼女の青ゲージが見る見る減り始め、刹那。地面から伸びる氷柱が、右肘辺りを貫通する。
体力ゲージが残り一割以下になるのにも関わらず、青年に焦りの表情はない。
――この《KAMAAGE》はデフォルトキャラを自分好みにカスタマイズ出来るのが売りだ。しかし、体型によって、アドバンテージが異なるので、大半は【ヘカテー】のような中肉中背のバランスタイプを使うのが多い。
対する、【W.C.S】のアバターはスピードタイプに属される。スピードタイプは、速く行動する為に【HPパラメーター】と【筋力パラメーター】を犠牲にした代物物だ。その為、防具も付けれないし、高火力の武器も装備できない。高難易度操作キャラだ。
中でも【W.C.S】のキャラは極限まで速さを追求したキャラである。
しかし、ただの蹴りでゲージが一割ぶっ飛ぶ、そんなことはあり得ない。
では何故か。その要因として、この幼女は魔力型を追求したキャラでもあるからという他ない。魔力型はその名の通り【MPステータス】を上げたキャラでその代償として、【HPステータス】が減る。
つまり、幼女はHPを犠牲にした、魔力スピード型で剣で一太刀すれば、当たりどころによると、一気に全損もあり得るということである。
またデフォルトキャラがあるのは、キャラメイクが苦手な人と、魔法を選ぶことの二つの為なのだ――
そんなことを考えながら、青年は体力ゲージがゼロになるのを待った。刹那、ゲージがゼロとなり、魔法ゲージが一気にふっ飛び、体力ゲージが半分回復。
その現象と同時に、氷柱が消える。
そこまでが、青年の下となったデフォルトキャラの魔法。名を〝二頭〟。体力ゲージがゼロになっても、一度だけ半分回復し、掛かっている魔法を無効化するだけの魔法。
しかし、この魔法で形勢逆転したケースも多い。それも、この幼女を除けばの話ではあるが……。
「よし! 抜けた!」
「甘いよっ!」
「っ!」
幼女の魔法ゲージが見る見る減少をして、四肢を貫く。残りゲージ二割で止まるも、こうなってはどうすることも出来ないと、判断し、抵抗を辞め、【凍傷ダメージ】による全損まで話すことにした。
「いやはや、恐れ入ったよ……。ほんと、すごいね。君」
「そう?」
「そうだよ。普通、対策されるから違う魔法のキャラも作るのに、君はそのアバターしか見ていないじゃないか」
「それを言ったらキミのほうがすごいよ。キミはホント、何でも使いこなせるんだからさ。ボクはこの魔法しか向いてないだけだから。アハハ……」
「いや、僕だって使えないキャラがある」
「あー、【アザナの四人】?」
「ああ、そうだとも……。まったく、運営はどうしてアレ等を作ったんだろうね?」
「だねー。発売当初は、何か特殊なギミックが隠されている。だとか、色々調べ回ったんだけど、結局なんも見つからなかったし……。扱いにくいだけの魔法だったし」
「本当に、そうだね。ただあの四つのキャラは後に運営側から……」
そこで、空色の青年のゲージが全損し、刹那、幼女の視界いっぱいに【YOU WIN!!】という表示と共に盛大なファンファーレが吹き荒れた。
* * *
「ふーん。《KAMAAGE》、ね。少しは暇潰しに楽しめる? 運動部のキャプテン、全員負かしちゃったからなー。どうしようかと思ってたんだよねー。でも、うちの学園にはカフェオンライン部っていうのが出来たみたいだしー。そこで《KAMAAGE》試してみよー」
今日はここまでとなります♪
次回は、明日の夜10時になります!
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