表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/125

第24話 隻眼の王

 私がその意を固めれば、あとは話は早い。


 王になるとロガの地に布告して、戴冠の儀を行ってしまえば話はそれで終わりだ。


 実の所、王を名乗るだけならば軍事力さえあれば誰でもできる。


 その軍事力を持つことが難しいのだが、それ以上に王として認められとどまり続ける事の方が難しい。


 この認められること、留まる事と言うのが至難の技なのだ。


 兵力が強いだけでろくに政治を行わなければ、民衆は言う事を聞かない。


 そうなれば兵力を維持する事もままならない。


 これに対して自前の兵力を動員して民衆に従うよう強制しても綻びが出る。


 最悪は他国の介入を招いて滅びの道を一直線だ。


 では、民衆受けする政治だけやっていれば良いのかと言えばそうでもない。


 他国と歩調を合わせる必要性は出てくるし、兵力維持の為に税は徴収せねばならない。


 そうしなければ他国の介入を招くし、今度は基盤である兵力が言う事を聞かなくなる。


 新興国ともなれば難しいかじ取りを行ていかねばならない。


 果たしてそれが私に可能だろうかという不安は付きまとう。


 だが、今のままでは結局は同じことなのだ。


 舵取りを誤れば死ぬ、それは王を名乗ろうと名乗るまいと変わりはない。


 ならば状況に変化が現れるだろう選択を選ぶことも必要になるだろう。


 そして、私の予想通り王を名乗ったことで周囲が動き始める。


 テス商業連合や西方諸国の使者がこぞって私の元にやって来る。


 二度も大兵力の軍隊を退けた私がゾス帝国と言う巨大な壁に穴が開く事を願ってすり寄って来る。


 彼らにとっては投資の一環であり、私にとっては物資や金銭が得られるチャンスでもある。


 無論、それを当てにし過ぎると碌な事はないが、適度に使えば有用なのは間違いはない。


 間違いはないのだが……ここで思わぬ攻勢が始まった。


 私に妃がいないという状況を知った彼らが、幾つも縁談話を持ってくるという事態に陥った。


 正直、事は半ばで妻を娶るなど考えた事はない。


 帝国との戦いで死ぬかもしれないのだ、進んで後家を作ろうとは思わない。


 そう説明はすれども、なればこそ必勝を期すために双方の繋がりを強くするべきですと縁談を一層勧められるのである。


 帝国と渡り合える軍事的才を彼らがより強く欲していると言う事でもあるのだが、こいつは中々面倒な話だ。


 だが、私が今一番頭を悩ませているのはそれではない。


 ローデンやその他帝国領から貢物のが届いた事だ。


※  ※


 北西部のローデンはとてもではないが豊かな土地とは言えない。


 義勇兵をこちらに送っているだけでも大きな負担である筈なのに、先の大火からの復興もまだなのに、私が王を名乗ると彼らはさらに祝いの品を届けて来た。


 ただでさえ私を支援しているから帝国に目を付けられているだろうに、祝いの品まで送ったとあっては蹂躙されかねない。


 何故そこまで私に尽力するのか、なぜ自分たちの生活を顧みないのか。


 昔、カナギシュ族との戦いの折にも牝馬を貸し出してくれたのは覚えている。


 大事な労働力、出し渋る者もいたが何事かを告げられると彼らは手のひらを返して私を支援してくれた事も。


 彼らは、私に何を見出しているのだろうか。


 ここまで来ると分からないで押し通して良い問題ではなくなっていると思える。


 私がガレント殿からローデンの統治権を譲渡されたからだとばかり言える状況ではない。


 それだけにしては度過ぎている。


「一体、ロガ王はローデンで何をしたの? あの規模の領地が単なるお祝いでこれだけの物資を送る?」


 届いた物資を三勇者やその仲間たちと確認していると、リウシス殿の裏方担当とでも言うべきリア殿が問いかけを放つ。


「ジャックが言ってたのはこういうことだったんだね」


 いつもは感情の薄い喋り方をするフィスル殿も並ぶ物資に感嘆の声を上げる。


 ナイトランド八部衆の一人、魂語りのジャックは言っていた。


 そこには保存の効く糧食や馬の餌である飼葉、北西部でとれる鉱石など金銀財宝とはかけ離れた、それだけに彼らの生活や糧に密着した物資が並んでいた。


「これほど送り付けて……彼らは冬を越せるのか……」


 私が眩暈にも似たものを感じながら呆然と呟くと物資を運びこんできた領兵の隊長が口を開いた。


「無論です、陛下。しかし、出来る限りこちらに運んできたのは事実」

「何故、そこまでする?」

「陛下が我らの希望だからです」

「復活の道を通ったから?」

「それは切っ掛けに過ぎません。その後の行動いかんでは所詮は迷信だったと話は終わったでしょう」


 そこで領兵の隊長は言葉を切った。

 

 そして、私をまっすぐに見据えたまま再び言葉を放つ。


「ですが、陛下は今は亡き神官たちが語った通りのご活躍をなさっておられる」

「諸々の協力があってのことだ」

「それに……陛下は隻眼になられた」


 その言葉に私はローデンで出会った謎めいた少女の言葉を思い出す。


 隻眼のウォーロードと。


 その存在についてはローデンの神官たちにも告げていない、|輝ける大君主《シャイニング グレート モナーク》の化身が不浄を焼き払うと聞いたとだけしか話していない筈。


 ならば、彼らの信仰に語られているのだろう隻眼のウォーロードと呼ばれる存在が。


「それに、期待しているのは我らだけではない様子」


 ローデンの領兵が語る言葉に私は天を仰いだ。


 王を名乗った際に帝国領からも貢物が届いてしまった。


 コルサーバル領、トルゥド領、そしてクラー領。


 クラー領からの物資には祝いの言葉以外にも、前領主を討つためにも力添えを願っているとまで書き記されていた。


 これは、下手をすれば帝国を見限ってこちらに着く事の証左とされるだろう危険な行為。


 帝国にそう受け取られようとも現領主エタン殿は前領主テランスを討ちたいと思っているのか。


 この話をアネスタやガラルにしたらどんな反応が返って来るだろう。


 或いは、伯母上にしたら……。


「大樹となれば人は頼るものです。ましてやもう一本の巨木が立ち枯れを始めていたら、多少細くとも若い木を頼りたくなるものです」


 アンジェリカ殿の言葉が妙に胸に残る。


「少なくともローデンやその他の貢物を送ってきた帝国領に接触を持つ必要がある。そして、帝国軍の動向を見極めて、場合によってはクラー領のテランスを打ち倒しておかねば」


 帝国は私との二度の戦いに敗れ多数の兵士を失い挙句に東方諸国の侵攻が活発化している。


 今ならば接触を持つことは難しくない筈。


 私がその様に意を固め、指示を出せば話はとんとんと進み二週間後にはクラー領に兵を派遣する事になった。


 防衛だけではなく、同盟者を守る戦いにも兵力を割く必要が出て来た。


 だが、兵力不足はどうにか免れそうである。


 他国の使者が訪れている状況ともなれば人の流れは多い。


 そうなれば傭兵の流入も一気に増えた。


 傭兵を美味く用いて兵力不足を補わねば。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ