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第3話 合流を目指して

 結局、私はフィスル殿の提案を採用する事にした。


 各領地を通過するにしても、私が民兵を指揮し表立って通るのとローデンの民兵だけが通るのでは意味合いがだいぶ違う。


 私が指揮した兵士達ならば、手が出なかったので兵力を温存したと言う名目が立つが、民兵だけと言う指導者も曖昧な集団が相手ではそうはいかないだろう。


 そうなると、少数で素早くカナギシュの騎兵や民兵に接触しなくてはいけないが、連れていく人選に困った。


 それと言うのも、極力私が動いたと帝国に知られたくはないからだ。


 少なくとも、合流を果たすまでは知られたくない。


 そうなれば誰か影武者を仕立て上げ、その影武者とリチャードを一緒に行動させる必要性がある。


 私は地味で目立たずリチャードが目立つと言う以前からの状況をかんがみれば、私の顔を知らない間者ならば騙されてくれるだろう。


 或いは、片目を失って以降の私の顔を知らない者であれば、物々しい眼帯でもつけて療養の為とあまり外をほっつき歩かなければどうにかなる。


 内外に動けることを喧伝した後にそうなるのは間抜けだが、まあ、動ける事を誇示して無理をしたと言う設定でも行けるはずだ。


 そして、私がルダイを動かないとなれば三勇者が移動するのもおかしな話。


 そうなると確かに護衛の人選は難しい。


 軍を動かさないとなれば、当然ながらゼスやブルームを連れていく事も出来ない。


 彼らは相応に責任ある立場だ。


 ロガの兵士を与るアントンや統治者たる伯母上が動く訳にはいかないし、ガラルの能力は未知数。


 叔父上は、まあ、あまりこの手の事には当てにできないからなぁ……。


 うーむ……確かにフィスル殿を連れて行くと言う選択肢は妥当かも知れない。


 考えた結果、私は三勇者たちとフィスル殿に相談する事にした。


「そう言う訳で、私もさすがに身の安全は守りたい。フィスル殿に同行願おうと思うのだが」

「良いよ」

「いや、そう簡単に言ってくれるが、君は魔王の特使のような物だろう?」


 開口一番にフィスル殿は快諾したが、本当に連れて行って良い物かと勇者たちを見やる。


「フィスルは強いし、一緒に行けば心強いと思うけど……なんでアタシは駄目なの?」

「さっき将軍が言っただろう、俺たちは嫌でも目立つからな」

「そうですね、私たちが動けば帝国軍に簡単に感づかれます。一方で竜人殿も私達も動かない、軍の幹部も動かないとなれば気付かれにくいでしょう」

「そう言う事だ」


 三者三様の反応が返ってきたが、一番納得いってないのはコーデリア殿だった。


 どうやら一緒に行きたいらしいが、それは駄目だ。


「心配なら誰か一緒に来させれば? 負傷者の治療にあたっている神官たちじゃなくて、暇そうにしている奴いるでしょ?」


 フィスル殿が珍しく微かに笑みを浮かべてコーデリア殿に告げると、おお! とコーデリア殿が声を上げてポンと手を叩いた。


「マークイも連れて行くと良いよ! 剣の腕は確かだよ、うるさいけど」

「彼はうるさいのか……」

「美人を見るといっつも歌を歌うよ」


 結構ナンパな詩人らしいからなぁ。


 それに神官であるドラン殿やアンジェリカ殿は負傷者の治療にあたっているから一緒に来てくれと言うのは気が引けるが、彼ならばあんまり気が引かない。


「そうですね、それならば私の方からはジェストをお付けしましょう」


 シグリッド殿もお仲間から一人護衛に付けてくれるようだ。


 ジェスト殿はたしかあのフードを目深に被ったご老人か。


「剣士に魔術師か。それじゃあ、うちからはリアを護衛に付けよう。俺だけ護衛を出さなかった等と言われるのはシャクだからな」


 リウシス殿はリア殿を付けてくれるらしい。


「すまない、みんな。そしてありがとう」

「将軍に何かあっても困りますから」


 謝辞を告げると三人を代表してシグリッド殿が答えた。

 リウシス殿は片手を振ってそういう事だと肩を竦め、コーデリア殿は付いていきたかったなぁと唇を尖らせている。


「じゃあ、決まり」


 三人の様子を見て、最後にフィスル殿がそう締め括った。


※  ※


 数日後には私は馬を走らせローデンの民兵が進んでいると言うクラー領付近を進んでいた。


 どうも合流するのがクラー家が治めるクラー領地内になりそうなのだ。


 クラー領、伯母上が嫁ぎ母子ともに殺されそうになって刺客を退けながら戻ってきたあのクラー家の領地。


 今の領主とは和解が成立しているが、前領主は伯母上を殺そうとした輩だ。


「間の悪いと言うか、何と言うか……クラー家の領地で合流せねばならんのか」


 私が呟くとコーデリア殿の仲間のマークイ殿が可笑しげに声をかけて来た。


「ヴェリエ様の武勇伝は聞きおよんでましたがねぇ、この距離を子連れで刺客と打ち合いながら戻るとは大した豪傑だ」

「貴族のお嬢様も大変よね、見知らぬ結婚相手がろくでなしの可能性もあるんだから。……でも、この距離を一人で息子を守りながらってのは、正直に感服するわ」


 マークイの言葉を受けてリア殿が肩を竦めながらも伯母上に感嘆する。


「母の愛は強しと言う事でしょうな。最も、ヴェリエ様の強さは今も変わりが無いように思われますが」


 今はフードを外して白髪の髪を晒した老人ジェストが含み笑いを零しながら告げた。


 そして、表情を改めると私に向かって問いかけた。


「今の領主とは和解しているとのことですが、彼は確か実権を握れていない筈では?」

「前領主テランスは第一子のガラルを放逐し、第二子のシメオン、第三子のロジェとも確執が続いている。現領主のエタン殿は二人の息子に与しておりテランスの肩身は狭くなる一方。そこにローデンの民兵がやってきたとなれば、テランスの動向は簡単に計れる」


 ジェストの言葉に頷きを返して、現状を手短に伝える。


 テランスは今は五人目の妻に夢中なようで、その妻に産ませた第六子を領主の座に付けようと画策しているらしい。


 半年ほど前に貰ったエタン殿からの手紙にはそんな事が書かれていた。


「いやはや、今時いますか、そんな奴?」

「あら、詩人の癖に悪党については知らないのね? そんな男は多いわよ」

「おたくの太った勇者様も傍から見れば同じように見られておるぞ?」


 私の言葉に三人は他愛もないやり取りを始めたが、黙って馬を走らせていたフィスル殿がポツリと告げた。


「功に焦っているのね」

「そうだ。それに今の私は帝国に反旗を翻した大罪人、クラー領が全て敵に回ってもおかしくはない」


 私は場を引き締めようと告げやると、リア殿がにんまりと笑みを浮かべて告げた。


「またまた。情報行っているんじゃないの? テランスとエタンやシオメンらの軋轢は決定的よ。貴方の帝都に燻っていた情報網が教えてくれたわよ、将軍」

「既に君に手渡したものだ、私の耳には入っていないが、何かあったのか?」

「テランスが二番目の妻アーヴェを殺したわ」

「……随分と前に放逐したと聞いたが」

「他の男と歩いていたからだって」


 は? 意味が分からない。


 自分で放逐しといて何を言っているんだ?


「そんなくだらない理由で、息子たちだけはクラーの家で面倒見てもらえるようにと理不尽な放逐にも耐えた女を殺したのよ。これには息子達は勿論、今の領主の甥っ子も激怒……ある意味反帝国とか親帝国とかどうでも良いレベルに来ているわ」


 ある程度の裁量を任された領主だが、それだけに家督争いとかこじれると色々と大変だ。

 

 その極端な例がクラー家では今起きている訳だ。


「逆に好機って訳ね」


 フィスル殿がそう呟くと、私は軽く頭を左右に振って。


「それはそれで、いたたまれないんだがな」


 と呟いてしまった。


「将軍は時々生ぬるい事言うよね? でもやってる事は全く手抜かりなしだけど」


 リア殿が呆れたように告げると、ジャスト殿が私を見やって微かに笑って告げる。


「そこに人間臭さが現れておるのでしょうな。……さて、見えてきましたぞ」


 手綱を握りながらも、杖で指し示す方角を見れば、そこには帝国軍が居並んでいた。


 正確には、クラー領の領兵たちが。


 こいつはヤバイかと思ったが、どうも様子がおかしい。


 おかしいを通り過ぎて、二つの陣営に分かれて争っているようだった。

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