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第42話 帝都凱旋?

 撤退の準備や捕虜の交換を行う準備期間の間、私は何度となくローラン王子、シ―ヴィス王女と言葉を交わす時間を設けた。


 不幸にして戦争続きだったカナトス王国と帝国だが、王が変わらざる得ないこの時期に親帝国派となって貰いたいからだ。


 戦争は起こさずとも相互発展は可能だという話とか、戦うだけが軍隊の使い方ではないとか色々と話をした。


 ブルームにはまるで家庭教師になったようだとからかわれたが、トップに近い所にコネを作っておけば、いざという時に役に立つ。


 そう言う訳で、十日ほどそんな時間を設けてカナトスの帝国に対する心証がこれ以上悪くならないように努めた。


 そして、守備隊を残して帝都に兵を引き上げる日には、国境向こうで王子と王女が見送ってくれる程度には親交を深めることが出来た。


 そう言えば、一足先に咎人として帝都に送ったギザイアはどうしただろうか?

 

 死刑にするには今一つ証拠がないが、ほぼほぼ幽閉生活は決まったような物だ。


 そこまで気にする必要はないだろう。


※  ※


 帝都に戻った私に、帝都凱旋式を執り行うようにとお達しが来る。


 何故にかそんな法案が貴族院によって可決されたらしい。


 だが、帝都凱旋式なんてものは相応の戦いに勝った時にやる物だ。


 東の三つの強国を一人で打ち破ったカルーザスの時は十分に納得できたが、今回は聊か大げさすぎる。


 いったい何故かと思えば、今回の戦いでカナトス兵が最も恐れたのがベルシス・ロガであるという風聞が流れていたからだ。


 補給線を封じ込められ、前線に釘づけにされ、じっくりと兵を進めるベルシスの相手こそ最も苦痛であり、戦う気力を削がれたと言うのである。


 まあ、そのつもりでやっていたが、いきなりこんな風聞が帝都に蔓延しているのは少しおかしい。


 誰かが計ったのではないか?


 そんな疑念を覚えながら家に戻れば、留守を任せていたリチャードに来客が来ていた。


 他の使用人に話を聞くと、来客はリチャードと同じ竜人であり、古くからの知己だという。


 挨拶の為に私がリチャードの部屋を訪れると、そこには難しい顔をしたリチャードと同じ竜人ながらリチャードよりはより人間に近い女性が向かい合って話をしていた。


 私に気付けばリチャードはねぎらいの言葉を掛けて、立ち上がろうとした。


「古い知己と聞く、積もる話もあるのではないか?」

「竜の魔女と会話する事はそう多くありませんな」


 竜の魔女? 私が小首をかしげて女性を見やると、彼女は意味深に笑っていた。


「これは、ベルシス将軍。お初にお目に掛かる。我はエルーハ、この古竜とは古い付き合いよ」

「古竜?」

「竜人でもここまで竜の血が濃い者はもう他にはおるまい、いわば生きた化石」

「エルーハ、若に変な事を吹き込むな」

「ははっ、あの古き者リチャードが教育係をやると聞いた時は何事かと思ったがな、今ではなかなか堂に入っておる」

「貴様とて、母親役が堂に入っておるわ」


 その言葉で私は、彼女こそがカルーザスの養母であることに漸く気付いた。


「貴方がエルーハ……。リチャードの知り合いだったのですか? リチャードも、もっと早くに紹介してくれれば」


 私はエルーハへの言葉を改め、その後リチャードに視線を転じて言葉を投げかけた。


「互いに不干渉の立場でしたからな。……今回こやつがここに来たのは」

「ベルシス・ロガ将軍に帝都凱旋式の栄誉にあずかってもらおうと思ってな」


 リチャードが全てを告げる前にエルーハが口を挟む。

 すると、巷で噂になっている風聞を流したのはこのエルーハか? 何故だ?


「何故に帝都凱旋式を?」

「八大将軍筆頭が、ベルシス将軍はもっと早く戦勝式の栄誉を与えられてしかるべきであると言いおってな。方々を駆けずり回って実行したのだ」

「……軽々しく行う物ではありませんよ」

「そうは言うがなぁ。我もカルーザスも何か礼をしたかったのだよ、長年カルーザスを支えてくれた友人に」


 だからって、今回の帝都凱旋式は色々と不味い気がする。


 テンウ、パルド両将軍の功績を全て奪うような形になる事が気掛かりだし、鮮やかに会戦に勝ったわけでもない。


 それに、帝都凱旋式など行ってカナトスの国民感情を下手に突きたくないのだ。


 だが、カルーザスやエルーハの気持ちはありがたい。


 これは、どうしたものか……。


「気持ちはありがたいが、若はお困りになると言ったではないか。それをさっさと根回ししおってからに……」

「リチャード、ご好意をその様に言う物ではない。ただ……カナトスを刺激したくありませんので、少々趣向を変えてもよろしいでしょうか? 先陣を切った二人の手前もありますし」


 私の言葉を聞き、ふむとエルーハは頷く。


「政治はどうも苦手でな。だが、我らの好意でベルシス将軍を窮地に追いやっては意味がない。どのように趣向を変える?」

「祝勝の祭典と言うよりは平和の到来を祝う祭典とでもしておきましょう。三十年毎に選出される三柱神の勇者を選ぶ祭典も近い事ですし、神殿側と協議して合わせて盛大な祭りにしたらいかがかと……」

「ほう、そいつは中々大きく出たな。だが、その位大きい方が面白い!」

「若、また苦労を背負い込まれて……」

「戦で背負い込む苦労に比べれば、こちらの方が華やかだしやりがいもある。予算面は少し考えねばなるまいが……どこを削るか? 凱旋パレード……はやった方が良いよなぁ……兵士の士気が違う。ボーナスも考えないと。しかし、そこまでの戦いではないからなぁ……、そうだ、低所得者向けに食事の用意もしないといけない。何処で賄う? 糧食の一部を融通させるか?」


 ぶつぶつと呟きだした私の言葉を聞き、エルーハは微かに薄赤の瞳を細めてリチャードに問うた。


「お主の教え子はいつもこうか、古竜よ?」

「金勘定と物資の運用には恐ろしい程に考え込まれる」

「当たり前だろう? 民の税なんだから」


 私がそう言い切ると、なるほどと二人の竜人は頷いていた。

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