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第57話 カルーザスの思惑

 軍議を行うと招集を掛ければ、さほど時間を置かずともロガ軍の幹部とでも呼ぶべき者達が居並んだ。


 私は彼らを前に口を開く。


「カルーザスの布陣を見ればその目的は明白だ。君達も分かっていると思うが」

「圧倒的な数の騎兵を用いた包囲殲滅か?」

「そうだ」


 私が口を開くとリウシス殿が答える。


 彼は兵法について興味があるのか、元からの素養かは知らないが中々の戦術眼の持ち主だ。


 彼ならば当然思い至るだろうとは思っていたが、より早く口を開くと思われた人物に私は視線を向ける。


「何か引っかかるかね?」

「そう、ですね」


 言葉少なにサンドラが自身のトレードマークと化している羽扇子で口元を隠して告げる。


 彼女が何かを感じているのは明白だ。


「サンドラは何が引っ掛かる? 私も何かが引っ掛かるのだがそれが何か分からない」

「有体に言えば違和感、でしょうか。ゴルゼイ先生に言われてカルーザス卿の戦い方を調べておりましたが、今回の布陣、彼の好む戦法とは思えません。ただ……有効であれば何でもやりかねない方ではありますので」


 らしさが無いと言いたいのだろう。


 言わんとするところは理解できた、私も感じている事だからだ。


「確かに奴らしからない派手な戦法だな」

「ええ、華美が過ぎます。あれほどの数の騎馬を揃えるには、かなり無理をしている筈です。それに馬に食わせる飼葉を集めるにも運搬するにもかなりの労力を割いている筈。カルーザス卿がそこまでするメリットが思いつきません」


 カルーザスならばこちらと同数の騎兵を揃えるだけで優位に立てるだろうと言う目測で彼女は語っているし、それはたぶん間違いではない。


 コンハーラかザイツが全面協力を申し出る代わりにこの作戦で行くようにとでも伝えたのかも知れない。


「敵の目的が明白なのにカルーザス将軍の印象に合う合わないがそんなに大事か?」


 リウシス殿がそう問いかける。


 これが並みの将ならば彼の疑問も最もだが、相手はカルーザスだ。


「これが絶対の作戦であると信じているのならば良いのです。ただ嫌々やっている作戦であるならば、カルーザス卿ならばもう一矢備えているのではないかと思いまして」

「そうは言うが、まずは圧倒的な騎兵戦力を」

「無力化は難しくありません」


 サンドラはさらりと言ってのけた。


「帝国軍は右翼に騎兵を置いています、そこで我らも右翼に騎兵を全て置くことにするべきです。ええ、川沿いの右翼に」

「軍師殿は地形の不利を承知で突撃させるつもりか?」


 アーリーが意外そうに口を開く。


 サンドラは微かに笑ってそっと首を左右に振り。


「いえ、騎兵部隊は敵陣に突撃するかと思わせながら敵の眼前を横切り、こちらの左翼に食らい付いているであろう敵騎兵の横っ面を叩くのです」

「何?」

「敵前横断?!」


 驚きの声が上がる。


 まあ、驚くよな……私も驚いた。


「全騎兵で行わなければ意味がありません。後は騎兵の皆様にそれが可能か否か……」


 サンドラの言葉にこの場でまだ口を開いていない四人の人物に視線を投げかけた。


 カナギシュ族のウォラン、騎兵隊長のゼス、三勇者の一人であるシグリッド殿、そして私の妻の一人フィスル。


「不可能ではないですな」


 まずはゼスが口を開く。


「横断の最中、敵を怯ませるのに矢も射掛けるか?」


 不敵な事をウォランが口にする。


「この作戦、騎兵は無論ですが、それ意外も危険なのは……」

「承知しております。左翼は騎兵の突撃を一時でも堪えられるように精鋭を揃えねばならないでしょうし、そうなれば残りの兵で帝国軍の本隊を迎え撃たねばなりません」


 シグリッド殿が伺うように問いかけ、サンドラが答える。


 続けてサンドラはカルーザスが取ろうとしている戦法には大きな穴があると言った。 


「騎兵の数は負けていますが、それ故に騎兵さえ封じ込めれば……」

「なるほど。騎兵に比重を置く布陣だからこそ脅威なのだが、その騎兵さえ無力化できれば勝てる」


 私がサンドラの言葉を継いで意見を述べると、確かにとシグリッド殿も頷き……。


「敵前横断、やって見せましょう」


 と、力強く返答を返した。


 フィスルはそれらの言葉を目を閉じて聞いていたが、瞼を開き私を見やると。


「陛下に勝利を」


 そうも短く告げる。


 これで騎兵に関しては大丈夫だろうが、問題は……。


「後は騎兵を受け止める左翼の指揮と、中央と右翼の指揮をどうするかだな」

「騎兵の大軍を受け止める左翼の指揮は私とブルーナが執るべきだろう」


 私がそう発言するとコーデリアとアーリー、それにフィスルが不安そうな顔を一瞬した。


「驚いたな、王自ら死地に立つのか?」


 リウシス殿が双眸を細めて問いかける。


「この作戦の成否がかかる騎兵の指揮が出来れば騎兵を率いたかったがね、そうでなければ最も危険な左翼の指揮だ」

「ロガ王、今回の作戦で最も危険なのは中央の陣です」


 少し考えこんでいたサンドラが何かに思い至ったように顔を上げて告げる。


「何?」

「騎兵を用いた大規模な殲滅作戦のみならば、さほど驚くに値しません。ですが、この策自体カルーザス卿の発案ではないとすれば……。カルーザス卿が正しくロガ王を評価していた場合、必ず二の矢、三の矢を放ちます。そうなれば、まず一つの可能性として中央突破を計り右翼の部隊を包囲殲滅するのではないかと……」


 まさか、あれほどの騎兵戦力を囮に使う?


 いや、その方がカルーザスらしい。


「とは言え、私が今申し上げた策は言わば戦術の一般論。カルーザス卿は思いもよらない策を実行してくる場合があります」

「つまりは、どこも安全ではないし、何処でも危険と言う訳だな」


 リウシス殿が肩を竦めて告げる。


「どうする、ロガ王。左翼か中央か、或いは右翼の歩兵連中を指揮するか」


 リウシス殿がそう問いかける。


 私は暫し逡巡して、サンドラを一度見やり、その後に三人の妻を見やった。


 三人とも私が何を告げるのかをじっと待っている。


 カルーザスならばどう攻めてくるか。


 私は三人から視線を外して意を決して告げる。


「サンドラの意見を採用し、私は中央の陣を指揮する。左翼は激戦が予想されるためにブルームとサンドラ、それにアーリーに指揮を任せる。右翼はリウシス殿に指揮を願いたい」

「アタシは?」

「コーデリアは私の補佐を頼む」


 士気を上げるのが得意なコーディが傍にいてくれるのはありがたい。


 リチャードはもう傍にいない、ならば守ってもらうと言う意味でも彼女は適任だしな。

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