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第51話 同盟成立の衝撃

 ナイトランドからロガに戻るには海路は今は駄目だ、風向きが真逆だから。


 だから、馬車を使って陸路で戻るしかなかった。


 数台の馬車とその護衛であるナイトランド騎兵団と言う大掛かりな一団では帰るのに相応の時間はかかった。


 だが、幸いなことにパーレイジ王国が降伏しながらも、まだ戦意の衰えていない諸侯の軍がゾス帝国に抵抗し、それをガザルドレス王国やロガが支援して戦が長引いている。


 例え上層部が降伏しても諸侯が降伏せずにいる間は、ゾス帝国はガザルドレス、或いはロガどちらと戦おうとも背後を突かれる恐れを常に抱き続ける。


 どちらかと戦端を開く前に、後顧の憂いを断つためパーレイジの抵抗勢力と戦うという選択肢が出てくるのは当然だ。


 ロガからの支援は、時間稼ぎのための支援とみるべきだろう。


 パーレイジに暮らす民衆にとっては堪った物ではない話だが、ゾス帝国がパーレイジに釘付けになっている間はロガの安全が確保できる事につながるからだ。


 そう言う訳で抵抗勢力には頑張ってもらおうと言う判断からの支援であるのは明白。


 これを押し進めたのはサンドラか、あるいは別の誰かか。


 ともあれ、その策が功を奏しているうちに私たちは無事にロガ領へと戻ることが出来た。



 私がナイトランド騎兵と共に帰還した事は大きな外交アピールに繋がった。


 ナイトランドと正式な同盟関係になったのだと内外にアピールできたからだ。


 そして、私は続けざまに次の手を打った。


 手を打ったと言うか、挙式を実行した。


 ……挙式を実行しました。


 つまり、コーディとの結婚式を開いた訳である。


 手を出してしまった以上は責任を取らねばと言うのは勿論あったが、それだけが挙式の理由じゃない。


 彼女がかつては守るべき者であり、彼女の家族を守り切れなかった贖罪の為……でもない。


 私は彼女を好きになっていた。


 あそこまで好意を向けられて無視できるはずはないが、何と言うか、彼女といると落ち着けると言うのもある。


 天真爛漫な所や気安いかと思いきや妙に健気な所を見せたりと色々な顔を見せてくれる彼女に惹かれていた。


 うん、まあ、憎からず思っていなければそもそも手を出したりしない。


 そう言う訳で私は彼女を夫人に迎え入れた。


 ゾスの連中はベルシスは何をトチ狂ったかと思った事だろう。


 或いは、パーレイジやガザルドレスの者達も、俺たちが戦っている最中にと感じたに違いない。


 だが、もう一つの私とフィスル……の婚約発表にアッと思った事だろう。


 ――殿が余計なのは分かっているんだが、どうしてもつけてしまいそうになるな……。


 ともあれ、だ。


 フィスルのナイトランド八部衆筆頭と言う肩書の力はすさまじい。


 ベルシス・ロガは婚姻を含んだ強固な同盟をナイトランド……つまりは魔王と結んだことを彼らにも知らしめた形になった。


 そうなると一気に風向きが変わる。


 パーレイジの諸侯どころかガザルドレスまでもが私の元に助力の嘆願を寄越したのである。


 要請ではない、歎願だ。


 彼らは遂に私をゾス帝国の内乱の首謀者から同格の王と認めた事になる。


 それも相応の国力を持った王と。


 西方諸国もこぞって私の元に協力を申し出て来たし、ゾス帝国の反皇帝派の領主たちも親書を一斉に出してきた。


 他の大陸からも祝辞と共に協定や条約の締結を求める声が届き始める。


 これがナイトランドと同盟を結ぶと言う意味かと今更ながらに驚嘆する。


 いかに私がゾスの大軍を退けようとも、ここまでの宣伝効果はなかった。


「ナイトランドの、魔王の力を見せつけられた気分だな」


 私が親書の束を前に一人呟くと傍にいたコーディが魔王さんは凄いからねと笑った。

 

「当然じゃな。盟を結んで正解じゃったろう? ご主人様」


 すました顔で私の侍女になぜか収まっているメルディスもそんな事を言っている。


 フィスルの侍女だった筈なんだが、当たり前のように私の身の回りの世話をしている。


 それについてはコーディもフィスル何も言わない。


 どんな話し合いをしたんだか……。


「だが、ここからだ。ここからだが……テス商業連合の動きが鈍いな」


 各国から私の元に親書が届いているのに、テス商業連合からの親書はまだ届いていなかった。


 叔父上によれば交渉は多少難航したが金銭の融資も受けられているらしいが……。


 そんな事を考えていると、件の叔父上が執務室の扉をノックして声を掛けて来た。


「ベルシス、入るぞ」

「どうぞ」


 私の傍にコーディが居る事に、僅かに双眸を細めたが叔父上はすぐに表情を引き締めて。


「テスの連中、とんでもない要求をしてきたぞ」

「何と言ってきましたか?」

「ルダイ防衛で活躍したアーリーを第三夫人に推挙すると」


 私は思わずコーディを見やると、彼女はだろうねと頷いていた。


 メルディスはまた増えるのかと小さく舌打ちしたが、表面上は澄ましている。


「断るか?」

「それには及ばないですよ、叔父様」


 そう言って扉をあけながらフィスルが入って来る。


 背後にアーリーを伴って。


「バルアド総督のトウラ・ザルガナス卿もアーリー殿を夫人として推すと伝達が届いたよ」


 そしてとんでもない報告まで持ってきた。


 ……そうか。


「アーリー殿は知っているのか? オルキスグルブのまやかし破りの作法とやらを」


 かつてトウラ卿は私に語った。


 ガールム王家に伝わる対オルキスグルブの何某かの存在を。


「トウラのおじさんから聞いていたのですね。俺が知るのは真実の瞳と呼ばれるまじないです。本当にオルキスグルブのまやかしを破れるのかどうかは分かりません」


 トウラ卿はきっとロガとナイトランドの結びつきを対オルキスグルブを見据えた物であると気付いたのだろう。


 だから、アーリーを私の傍に置く様に画策したのか。


「バルアド総督まで推しているのでは、断る訳にはいかんな」

「その様です、叔父上。色々と覚悟を決めねばならなくなりました」

「お前も中々に大変な星の下に生まれた物だな、ベルシス」


 女房が三人もいるのは大変だろうにと言外に語る叔父上の言葉には同情の色が強かった。


 純粋な恋愛なんてできやしないと思っていたけど、コーディ以外の婚約者はものの見事に打算やら何やらが絡まり合っているな。


 確かに、大変な星の下に生まれたかもしれないと私は小さく息を吐き出した。

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