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第45話 順調な旅路

  旅路は思いのほかスムーズに進んだ。


 ナイトランドが用意した船は三本のマストを持つ大型の船だった。


 ロガの港町でその姿を見た船乗りたちは最新鋭の船だと口々に言っていた。


 確かに私の知る船よりも船体が細長く,船首楼や船尾楼は低くなっている。


 こういう形になると速度は出るし荷物は多く詰めるし、横風の影響を受けにくくなるのだそうだ。


 テス商業連合でもまだ多くを揃えていない船を、私の為にナイトランドは用意した事になる。


 ナイトランドの国力を示されたと同時に、私に対する期待のような物を見て取れた。


 高級士官と思われる魔族に迎え入れられ、私とコーディ、それに数名の使節団が船に乗り込むと見送りのラッパが鳴らされて、船は出立した。


 ちなみに、使節団と言う名目だがコーディの仲間たちとフィスル殿と言ういつものメンバーである。


 いや、まあ、フィスル殿はナイトランドの将なんだけども。


 最新鋭の船の旅は快適と言えた。


 馬よりはゆっくり進むが休む必要のない船は一日で距離を大きく進んでくれる。


 それに風を起こせる魔術師がナイトランドの用意した船に乗り込んでおり、無風の時などは彼が風を起こして船を進ませたから、殆ど風待ちで止まる事はなかった。


 確か、記録には異様なまでの順風に恵まれた場合は二十日でナイトランドにたどり着けたと言うのがあった筈だが、それに匹敵するかそれ以上の速度で船は進み、十四日目には乗り換え地点にたどり着く。


 ナイトランドの旗を掲げた船には海賊もゾス帝国の沿岸警備部隊も殆ど近づこうとはしなかった。


 勇気があるのか、無謀な海賊船が迫った事もあったが、接舷されることもなく風を起こしていた魔術師による炎の飛礫や水兵の火矢で帆を焼き払われ、近づくのを断念していた。


 そう言う訳で海路は然程の影響も受けずに当は出来た。


 さて、乗り換え地点は行程の三分の二を過ぎた辺りにあり、このまま海路を行った方が速そうだと思ったのだが、どうやらそこから先の海は天候が読めず、岩礁も多いため魔術をもってしても進むのにはリスクが伴うと言う。


 急ぎ向かうと言うには不向きだそうだ。


 運さえ良ければそれこそ七日かそこらでたどり着けるだろうが、運が悪ければ永遠にたどり着けない航路を選ばざる得ないと言うので素直に陸路を行く事にした。


 魔王の城までは陸路でも二十日はかからないと言うし。


 それに、ロガどころかカナトスを遠く離れた港町リベタでも我々は歓待を受けた。


 勇者一行はこの海域に出没していた怪物を倒したと言う事で皆が恩義を感じているという。


 その話は初耳だったのでコーディに問いかける。


「怪物?」

「サメとイカかタコが混ざった姿の」


 コーディがその怪物の姿を口にした途端、これ以上この話題に触れるのははいけないと私の記憶の奥底から囁きが聞こえた……気がするので、話題を逸らした。


 B級とかC級とか頭に浮かんで消えたが何のことか分からない。


 時々こういう事があるので非常に困る、自分が正気なのか疑わねばならないからだ。


 まあ、実害はないし、精々言葉に詰まるくらいだからまだ良いけれど。


 それはさておき、港町リベタの所有権を持つクネヒ公国は小国ながらナイトランド深い同盟関係にある。


 クネヒ公国にはナイトランド軍の通行許可が常時降りているほどだ。


 まあ、これは小国が生き残るための戦略かも知れないが。


 ともあれ、ここから先はナイトランド軍の護衛付きで馬車の旅だ。


 正直、これでは需要人物がナイトランドに向かう事を内外に示している事になるが、まあそれも仕方ない。


 仕方はないが、帝国の動きが気になるところではある。


 クネヒ公国の牧歌的な風景を眺めながら数日進むと遂にナイトランドとの国境付近に近づく。


 国境警備は厳重なのかと思いきや、それほどの威圧感もなく領民たちはのびのびと行き来していた。


 長い間、戦いがなかった為だろうか。


 それにしては国境警備の兵ですら練度高く、中々良い装備を身につけているように見える。


 たゆまぬ訓練の賜物か。


 これがあるからこそ、国を長く保ってきたのだろう。


 私達一行は丁重に扱われながら、魔王の住まう城へと向かう。


 ナイトランドで暮らす人々の生活は少しだけ変わっていたが、そう大きく違いがある物でもなかった。


 日中であるにも関わらず子供たちはギコチナイ動きの骸骨たちと戯れていたり、ふよふよと彷徨う鬼火を追いかけたりしていたのには驚きはしたが、何せリッチがいる国だしなぁ。


 それに鬼火も骸骨もどこか優しさのような物を感じる動きをしていた。


「死霊術と言う物の印象が変わるな」

「子供が遊んでいるから?」

「死者も嫌々ではないように見受けられる」

「そこに気付くのは流石に慧眼だね」


 フィスル殿はニマリと告げて、それから彼らが子供を残して散った親の霊であると教えてくれた。


 他人の子であろうとも、触れあい、見守る事で死者の未練を薄くさせて天に導くのだそうだ。


 大地に未練が残り、怨恨が蔓延ればとある神の力が増すからとも。


 とある神……言うまでもなく病める大神(ザ シック ゴッド)であろう。


 オルキスグルブが信奉する神でもある。


「古の物語では、神に背くが魔王の役目。ならば、彼の神に背き続けるのが我が魔王様の、そしてナイトランドの役目」


 フィスル殿は歌うような調子でそんな事を告げた。


 三柱神ではなく、堕ちた造物主相手取っての戦いと言う訳だ。


 壮大な話ではあるが、それはそれとしても今を生きる為には今を生きる人々とも戦ったり手を結ぶ必要がある。


 いま語られた壮大な話は、魔王としてある為の、そしてナイトランドとしてある為の矜持の問題であろうと思う。


 その辺を踏み間違えてはいけないという警句かも知れない。


 絶対的揺るがぬ根幹が示されているのは、ありがたい話だ。


 それに、私は絶対に病める大神(ザ シック ゴッド)に与する事は無いという自負がある。


 絶対という言葉がなくとも、絶対にと言い切れるほどに。


 それが何故かはそれこそ分からないが、私の彼の神に対する嫌悪感は凄まじい。


 勝手に作っておきながら、勝手に滅ぼそうとする傲慢さが気に入らないのかも知れない。


 それは、究極的なブラックではないかと思えるからだ。


 ブラックの意味は曖昧なんだけれども。


 そんな事を考えているうちにナイトランドの中枢の街、プールガートリウムにたどり着いた。


 数日、宿に滞在してついに魔王城へと招き入れられる事になった。


 コーディもアンジェリカ殿もいつもとは違う装いで着飾っており、ドラン殿は神官の正装で、マークイすらきっちりした身なりで城へと向かっている。


 私はゾス帝国時代の将軍としての正装であるが、果たしてこれで良いのか良く分からない。


 でも、格式ってのは大事だからなぁ。


 こんな事ならガラルに式典用の服装を作って置いてもらうべきだったなぁと今更ながら後悔している。


 なんせ、忙しくてそんな事に思いもよらなかったから。

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