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魔王城に近い町  作者: やまもと蜜香
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第3話 勇者殺し

 キビットが生気の無い顔を上げると、両腰に剣を吊った男が立っていた。キビットはこの男を知っている。幼年学校から同級生であったブルックだ。キビットとは特に仲が良かったわけでも悪かったわけでもない。


「ブルックか……何か用か?」


「知った奴が目の前にいたんだ。用が無くても声くらいはかけるだろう」


 キビットの素っ気ない言葉に、ブルックは声をかけたことを少し後悔したが、めげずに話を続ける。


「お前、魔王城襲撃のメンバーに入れたんだろう? それなのにシケた面をしてんじゃねぇよ」


「君に僕の気持ちは分からないよ」


 キビットを除くハイブリッドたちにとって、魔王城襲撃のメンバーに選抜されることは名誉なことなのだ。


「俺は選抜メンバーから外れた。正直悔しいよ。なのにメンバーに選ばれたお前がそんなに嫌そうなのが気に入らねぇんだよ」


「僕を選んだのは嫌がらせだよ。僕が嫌がるのを知っていて、わざとやっているのさ」


「親父さんの件で嫌がらせされてるってんなら、なおさらその汚名はお前がそそぐべきだろう」


 父親のことを言われたキビットはキッとブルックを睨み──


「親父に汚名なんて無いよ!」


「ふん、やはりお前も父親と同じか…… ならもう何も言うことはねぇよ」


 そう吐き捨てるようにブルックは去って行った。

 ブルックが視界から消えるのを見届けて、キビットも腰を上げる。朝から委員会の呼び出しを受けて、キビットは襲撃メンバーに選ばれたことを告げられた。そして、具体的な予定や注意事項のレクチャーを受けた。ただそれだけなのに、ひどく疲れた気がする。それでも、このまま家に帰る気にはならなかった。この町のどこにいたところで気晴らしにはならないのは分かっているキビットだったが、その足は資料館の方へと向かっていた。




 ── 2時間ほど後


 ブルックは平原にいた。

 先ほどキビットに対した時に吊っていた両腰の剣はもう帯びていない。その替わりに今は、大剣を背負っていた。


「クソっ……キビットの野郎。何でアイツが選ばれて俺が……… まったくムカつくぜ」


 ブルックは魔王城侵攻部隊への選抜からもれた悔しさから苛々していた。そんな熱を冷やそうと外の空気を吸いに出たのだったが、その時に偶然キビットを見かけたのだった。そして、自分とは逆に選抜されたことに落ち込むキビットの態度にブルックのストレスは更に増した。

 ブルックは帰宅して武器を大剣に替えると、町の外へと飛び出したのだ。そして町の東、魔人領の方へと踏み入ってゆく。

 そこは遮蔽物の無い見晴らしの良い草原、これなら魔人の一人や二人遭遇するだろうと堂々と進む。

 このまま魔人と出くわさないのなら、いっそ一人で魔王城に乗り込んでやろうかなどと考えたそのとき、ブルックは正面に魔人の姿を捉えた。


「あれは……ケノミ族か。丁度いい」


 ケノミ族と呼ばれた魔人は片手に剣を持ち、もう片手は肩に担ぐ大きく膨らんだ袋の口を握っていた。


「ぬ? 何だかよく分からぬが、今日は獲物の方から次々と、我の前に姿を現しおる」


 見つけてくれと言わんばかりに目の前に現れたブルックにそう呟くと、ケノミ族の男は中身の詰まった袋をその場に置き、銀色に輝く剣を握り直す。


「その剣には見覚えがある。アントバニアへやって来た勇者を昨日見たが、奴が持っていた物だ。さてはお前、勇者たちを殺ったな。大方その袋にも勇者たちから剥いだ装備が入っているのだろう」


「勇者ぁ? ……そうか、装備だけは豪勢だから何処ぞの金持ちかと思ったが、普通の人間だったのか」


「ふん、俺も人間だぜ」


「化け物のハイブリッドが人間のフリをするな。そんな大剣を振り回す人間がどこにいる」


 そう言うと、ケノミ族の男はブルックに斬り掛かった。ケノミ族の男は胸と肩そして関節を部分的に護る身軽さを重視した鎧を身に着けている。その身軽さと身体能力を活かし、立て続けに剣を振っていった。

 それに対しブルックは冷静に大剣を抜いて構えると、連続で打ち込まれる攻撃を、まるで大剣に重さが無いかのように全てを受けきる。


「やはり化け物じゃねぇかよ……この世の害悪ハイブリッドは、一人でも減らさないとなぁ」


「誰か害悪だっ!」


 そう言い合いながら二人は数合、剣をぶつけ合った。


「魔人の強さと人間の醜さを合わせたのがキサマらハイブリッドだろうが!」


「何だと!」


 腹立ち紛れにブルックは大剣を横凪ぎに振るう。ケノミ族の男はこれをバックジャンプで回避する。


「どうせキサマも、遊び半分に魔人を殺しに出てきたのだろう。そんなものは、普段は強い者に怯えているくせに、『レベル上げ』などと称して自分より弱い魔人には強気に殺して回る人間どもと同類さ」


 そんな指摘と共に、ケノミ族の男は剣を持たない方の手で腰に仕込んだナイフを投げた。

 不意を突かれた上に足元へ飛んできたナイフは、ブルックの右足を傷付けながらかすめていった。


 ── 痛てっ


 思わず片膝を着いたブルック、それを見越したように、ケノミ族の男は大きく跳躍していた。


『これでハイブリッドの視界から外れた。このまま叩き斬る』そう考えていた男に向けて、尖った鉄の塊が迫ってきた。それは空中で剣を振りかぶる男には回避不能な絶望的な一撃。

 ブルックが上に向けて突き上げた大剣によって、ケノミ族の男の体は上半身と下半身が分かれていた。



 立ち上がり、もはやハイブリッドを罵ることはない男の亡骸を見下すブルック。


「クソっ! 胸くそ悪い、これではストレスの発散にもならん…… 帰るか」


 ブルックは魔人領に背を向けて、とぼとぼとアントバニアへと戻っていった。


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