第2話 ハイブリッド
キビットはハイブリッドを憎んでいた。自身がハイブリッドであるにも関わらずだ。
キビットは一人、公園のベンチに座っていた。
まだ陽の高い時刻、爽やかな今の季節の淡い青空が広がっている。優しく吹き抜ける風が、まばらに浮かぶ雲をゆっくりと動かしている。ただ顔を起こして見上げるだけでそのような美しい景色が見えるというのに、陰鬱にうつむくキビットの視界には足下の砂や草しか入っていなかった。
キビットは今日、自分が魔王城襲撃のメンバーに選抜されたことを知らされた。
「ハイブリッドによる魔王城の攻略」アントバニアでそんな話が聞こえ出したのは半年ほど前のことだった。
もはや自分たちより強い者はいない、自分たちこそがこの世界で権勢を誇るべき優位種である、そんなハイブリッドの慢心・増長もここに極まれりという現状に絶望し、心底うんざりしていたのがキビットなのだ。それなのに、ここへきて侵攻部隊へ選出されたのでは、そんなハイブリッドの暴走行為の片棒を担ぐことになってしまう。
今のキビットには、空を見て美しさを確認するような心の余裕などなかった。
さて、ハイブリッドというのは。
この世界の中で、人間たちの生息域の南西の端にあたり、魔人たちの生息域との境界近くに造られた城塞都市に住む人々のことである。
人間たちの暮らす地域から『ランデルク』『グランダール』『アントバニア』の三つの城塞都市を抜けて魔人の生息域へと進んでゆくと、魔人の王が治める魔王城が在った。そんな立地からも必然的に、アントバニアは人間が魔王を攻める際の橋頭堡となった。
ここで誰もが思う。
このような魔王城に近い町を魔人が放っておくのか? と。
そう、町を城塞にするだけで何千年も安住できるような生易しい土地ではない。それ故そこに住む人々は、自らの身体を強化することで、魔人たちに対抗した。そして、その強化の方法というのが、魔人の血を取り入れてゆくというものであった。
魔人には身体能力・知力・魔力のそれぞれにおいて、人間よりも高い能力を持つ種族が多い。人間はこれら魔人との混血を重ねることで、代を経るにつれて肉体を強化してきたのだ。
ただし、魔王城に近い町の人々は、そのように魔人の血を入れつつも、人間らしい姿を保つことにこだわった。そこで自分たちに課したのが『魔人との交配は三世代に一度まで』という掟を定めることであった。
そんなこだわりもあって、人々はなるべく人間の見た目に近い魔人の種族を選び、交配を重ねていった。そして無事に子が産まれても、その子があまりにも人間の姿からかけ離れていたならば、生まれた時点で親の意思で命を絶たれるか、生きても迫害を受けるためその命は永くはなかった。
こうして何十世代にも渡って魔人との交配を重ねた人間は、現在では魔人を凌ぐ能力を持つに至り、いつしか自らを「ハイブリッド」と称するようになっていったのだった。
そして今 ───
「何だ、キビットじゃねぇか」
気持ちの沈むキビットに声をかける者がいた。