絵本
その昔、神に認められ、大天使の最高位・熾天使の座に迎えられた一人の天使がいた。
名を『輝ける者』という。
輝ける者は、光ある生のため、神に尽力し、数々の功績を残した。だが、輝ける者は次第に神の在り方に不信感を覚え、ある日神に問うた。
『あなたは何故、神の座に君臨されていらっしゃるのですか?』と。
それに対し神は、
『余がこの世を創り、統べているからだ。生も死も、全ては我が手の中にあるからだ』と。
その答えを聞いた輝ける者は、不信感の正体に気づいた。
この神は、人々のためにこの世界を統べているのではなく、単に支配感を味わっているだけなのだと。
そして輝ける者は直感した。
来るべき未来、この神は自身の気まぐれで人々の住む世界を放棄し、滅ぼさせるだろうと。
故に、輝ける者は自身の考えに賛同する同胞を集め、神に反旗を翻した。
神の座を奪い、人々の住む世界を永遠に保たせるために。自身が世界の神となるために。
だが、神の力はやはり至高にして頂点。たかが大天使や天使が束になったところで敵うはずがなかった。
そして叛逆に手を染め、敗北を喫した輝ける者とその同胞たちは、地の底……地獄、あるいは魔界と呼ばれる世界へと堕とされた。
だが、堕天使となってもまだ、輝ける者は諦めきれなかった。
人々を救いたいと願っていた。
だが、今の我が身では到底敵わない。ならば、神から授かった名などいらぬ。
天使の誇りも、神への忠誠心も、全て捨てでも己を高めろ。
たとえこの身が穢れ、悪魔と揶揄されるようになったとしても、我は神を、人々を支配している優越感に浸り、いつか人々の住まう世界を放棄するであろう神を決して許しはしない。
ならば、今より我が名は『輝ける者』から、神を『妨げる者』となるであろう。
すべては人々のために、光ある生のために……!
これは、とある絵本の話。
人間たちが作ったただの創作。
だが、もしそれが、人間たちの意思には関係なく、偶然にも全て事実だったとすれば、これは妨げる者となった者からのメッセージなのかもしれない。
して、その絵本の題名は
『優しい魔王』という……――。