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【私小説】

夜道にて、私は考えた。

 




 嫌なことがあった。

 でも、嫌なことがあったこと自体は良いことなのかもしれない。





 その為に私の心は激情に苛まれ、そこから自省が生まれるはずだ。

 そして、それを元手にして”現在の私を向上せん”と行動に移す可能性がある。

 成長を求める心、それは大変によろしい。





 しかし、果たしてこのような激情に背中を押されて行ったものに意味はあるのだろうか。

 今までの半生を思い起こしてみるも、それらが身を結んだことは恐らく無い。

 逆に、そのような行動によって生じたトラブルが、更なる激情を私に起こすことすらあった。





 然れば、この激情という奴は、時間経過と共に失われる意味のないものに過ぎない。

 何ならこれを慰める為に金銭やエネルギー莫大に消費するという始末。

 または、バカ食いしたり、酒を浴びるように飲んだりして、健康を損なってしまうに至る。





 つまり、”嫌なこと”というのは激情を私の心に起こす。

 しかし、そいつは私の大切な資源を無駄に消耗させるだけの害悪極まりないものである。

 ……と、言えるのかもしれない。





 ”いや、しかし待てよ”

 と、恐らく私の右脳辺りに住んでいるおっさんが、脳内から直接”私”へと語り掛けてくる。





 ”確かにあんたが激情と呼んでいるものは厄介な代物ではあるが、それが無いと君は何一つ変わろうとしないではないか”と。






 しかし、私はおっさんに反論をする。

 ”変わらなくて、何が悪いのだ”と。






 確かに私はポンコツだし内向的だし、その上めんどくさがりで大して頭も良くない。

 が、しかし良いところだって私には沢山あるんだぞ、と。

 私は脳内にいるおっさんを説得にかかった。





 しかし、おっさんは黙って首を横に振った。





 ”貴様のそのポンコツで内向的で、めんどくさがりで頭の悪いところが、今回は丁度他人様を怒らせてしまったんじゃないか、それで、あんたは今嫌な気持ちになってるんじゃないか”と、おっさんはピシャリと言い放つ。





 これには、私も閉口せざるを得ない。

 そう、今回の件は全くもってその通りだったのだ。





 私のポンコツで内向的で、めんどくさがりで頭の悪い……言っていて悲しくなるそれが、今回は大変マイナスな方向に働いてしまったと言える。





 ”私はどうすればよいでしょうか”私は私の右脳に住むおっさんに問いかけた。





 でも、おっさんはそういうことには答えられない。

 人を責め立てる才能だけは一人前なのに。





 結局のところ、私がどうしたのかといえば、一人でとぼとぼと夜道を一時間かけて散歩しながら、時折恨み言をこぼしつつ、違法駐車の自転車に重たいローキックをかまして、ぶっ倒したあげく、それをまた同じ格好に戻すと、家に帰って、youtubeを見ながらビールを飲んだのだ。





 これにてほとんどの激情を消化しきったのだが、後に残ったのはすっかり疲労して重たい肩回りと、なんだかもやもやした感情だ。





 それはどうやって処理したかというと、今こうやって書いてることがその結果だ。





 私はこうしてまた、激情を無駄にするに至った訳だ。














夜道にて、私は考えた。 -終-


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