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プロポーズ ―もうひとつのエピローグ―

ここから番外編です。

番外編一話目は、クロエ視点のエピローグです。少し甘めのふたりをどうぞ。


「勝者、バルトルト・ファン・アーヴェル!」


 勝者が告げられた瞬間、わたくしはさっと立ち上がり、一階に向けて駆け出しました。

 貴族の令嬢が駆けるなどはしたない、と言われようとも、今だけは聞き入れることはできません。纏わりつくドレスを少し持ち上げて、走りやすいようにします。……もちろん、足があんまり見えないように、です。

 銀朱の地に、ふわりと透ける山吹色の軽い絹地を重ねてあるドレスはバリィのマントの色を意識したものです。薄い紗のような生地には金糸で繊細な刺繍を入れてあります。それが、翻ります。今日、バリィが優勝することを願って、このドレスにしました。

 踵の高い靴を履いてきたことを少し後悔しましたが、構わず愛しい人のもとへ走ります。


 バリィに、一番にお祝いを言いたかったのです。


 平民の観覧席の反対側は、席が設けられてはいません。人が少ないそちら側へ通路を迂回して移動し、闘技場の端からバリィに手を振りました。

 ぐるり、と会場を一周していたバリィが、わたくしを見つけてくれました。

 すぐに馬をこちらに寄せます。


「クロエ、勝ったぞ!」

「ええ、もちろん見ていましたわ。優勝、おめでとう!」


 馬を止めたバリィに声をかければ、バリィは嬉しそうに笑いました。

 そのまま、馬を下りてわたくしに近づきます。

 わたくしの手を取ると、さっと片膝を立てて跪き、女性に対する騎士の礼を取りました。


「……バリィ?」


 バリィに今更そんな風にされて、困惑します。

 ……いえ、格好良くてどきどきするのですけれど。


「クロエ。優勝できたから、きちんと言わせてくれ」

「……きちんと?」

「ああ。急いで婚約してしまって、ちゃんと言っていなかったから」

「……えぇと、なにを?」

「――そなたに、求婚する」


 き、求婚……!?


 バリィが甘やかな目でわたくしを見上げてきます。

 わたくしはみるみる赤くなっていくことを自覚しました。

 ――確かに、求婚はわたくしの方からしたのでした。だから、バリィから「結婚してくれ」とは言われていないのです。ですが、婚約できたのですから、そんな言葉を期待してもいませんでしたし、言ってくれるとは思ってもいませんでした。


「……クロエ。子どもの時からずっと好きだった。そなたが誰を好きでも、諦めることができなかった。――俺はこれから、そなたの育ったリゼインを守り、そなたを支え、ずっと守ることを誓う。その誓いの証として、この優勝をそなたに捧げる」


 バリィは一度、言葉を切りました。

 真剣な眼差しに、わたくしはなにも言えなくなり、ただその瞳を見返しました。


「――俺と、結婚してくれ、クロエ」


 区切るようにはっきりと告げられた言葉が頭の中に響きます。

 なんて答えたらいいか、咄嗟にわからなくなりました。

 ――けれど、答えなんてはじめから決まっています。

 気取った言葉なんて存じません。

 こう答えるしか、ございません。

 わたくしは、微笑みました。


「――ええ、もちろん。よろしくお願いいたします」


 バリィが蕩けるような甘い笑みを浮かべました。

 わたくしの手を取ったまま立ち上がり、手を引かれました。そのまま引き寄せられますが――バリィ、鎧ですわよ。


「い、痛!」


 ぎゅっとされたら鎧が当たって痛いのです。

 鎧の胸に手をついて当たらないように体を離し、抗議しました。


「バリィ、痛い! 鎧なのですから抱きしめないで!」


 バリィがちょっとむっとしたのがわかりました。

 そんな顔したって駄目です。痛いものは痛いのですから。

 それに、ここは貴族席からも見えるかもしれません。誰かに見られでもしたら恥ずかしいではないですか。

 少し顔を背けようとしたわたくしを許さず、そのまま唇に軽くバリィのそれが触れました。

 ――な、なにをしているのですか、こんなところで!


「バリィ……!」


 恥ずかしさやら痛さやらで、思わず真っ赤になって、ついその胸を叩こうと取られていない方の腕を上げると、それも簡単に捉えられました。睨むと、バリィは吹き出すように笑いました。そのまま、さっと抱き上げられます。

 通路の奥の方へわたくしを抱き上げたまま連れていき、上機嫌でバリィが囁きます。


「こういう時は我慢するものだぞ。大人しく抱きしめられておけ」

「……痛いものは痛いのですもの。それに、恥ずかしいし……」

「じゃあ、見えないところならいいのか? ここなら?」

「うっ……! 外じゃ駄目です! これからいくらでもふたりきりになれるでしょう!? け、結婚、するのですもの……」


 なんでしょう。バリィがどんどん強くなって、抗えないことが増えていきます。

 ……これが、惚れた弱味というものでしょうか。告白してからというもの、バリィに敵わないことが多すぎるのです。

 バリィが、軽く笑いました。そして、目元に口づけられます。

 真っ赤になったわたくしを、笑って見つめてきます。

 ――この余裕。なんなのですか。

 うぅっ、と恥ずかしさに唸ります。

 甘い声が耳元で響きました。


「……じゃあ、後で。今夜はゆっくりそなたの茶が飲みたい。……淹れてくれるか?」

「……ええ。用意して待っています」

「楽しみにしてる」


 そこで、下ろされました。バリィは表彰式に向かわねばなりません。すぐに係の者が捜しにきました。

 案内されていくバリィの背中に、わたくしはもう一度、慌てて声をかけました。


「バリィ! 優勝、本当におめでとう!」


 振り返ったバリィが手を振って破顔しました。 

お読みいただき、ありがとうございました。

この後は時系列順不同で、クロエの周辺の人のエピソードを一話完結で投稿していきます。基本的にはどれから読んでいただいても大丈夫です。更新は不定期になりますので、ご了承ください。

設定はしたけど、入れられなかった裏設定や本編ではほとんど登場しないファラゼイン家の使用人達のお話も載せる予定です。

よろしければ、もう少しおつきあいください。

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