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11.馬上槍試合大会

 馬上槍試合は開国以来行われている伝統ある競技会です。特に年齢制限はございませんが、多くは若者が参加します。休戦協定後、戦が減ったので若手に経験を積ませる目的もあり、アウレア・ルプス王の時代以後、より盛んになりました。今ではあちこちで行われています。実際の戦闘を模した団体戦もございますが、今回は個人戦です。


 国に四つある独立騎士団に所属する者のほか、各領地軍の軍人、さらには所属のない個人でも参加できます。ここで各団の団長や領地軍の指揮官の目に留まれば、仕官先が決まることもあり、伝手のない平民も腕さえあれば騎士や軍人になることも可能です。騎士団や領地軍の関係者側にしても良い人材を発掘する場となっています。


 有力な若手や前年活躍した者などは事前に注目されますが、当日飛び入りで参加する者もあります。そのため、当日になってみないと参加人数ははっきりしません。王宮主催の一番大きな槍試合ともあって、国中から参加者が集まり、多い時は数百人程度参加しているようでございます。


 午前中に予選会があり、三十名程度に絞られ、午後に本戦が行われます。

 わたくしはお父様と共に朝から参りました。といっても、会場に着くとお父様は騎士団長や領地軍指揮官や領主などが座る席に行かれます。


「今日は陛下もお見えになるご予定だが、お前は今日は目立たないようにしておれ。女が槍試合で目立つのははしたないからな」

「心得ております」


 中央の高くよく見える席には王族の方々が座り、お父様達は一段下がったその近くの席でございます。家族がそちらに参ると仕事のお邪魔になりますので、わたくしは貴族用の観覧席に行きます。

 楕円形をした広い闘技場では既に予選会が始まっています。一階の競技者に近い席には平民の観覧者がぎゅうぎゅうになって歓声を上げています。貴族席は二階にゆったりと作られ、上から見下ろせるようになっています。この辺りの作りは劇場と同じようなものです。席もいくつかにしきられていて、多くは友人同士、親族家族など小集団ごとに座ることができます。


 わたくしは従者と侍女と共に座ることにします。

 午前中の貴族席はがらんとしています。予選会は時間がかかるので、大抵は昼頃からいらっしゃる方が多いようです。軽食を持ち込んで、食べながら本戦を楽しむことが恒例となっています。貴族用の観覧席はそれを想定して机などを設置できるよう、広めに作られています。





 眼下では、既に予選会が始まっていました。本戦と違って、いくつもの柵が設けられ、流れ作業のように試合が行われています。柵に沿って互いに馬を走らせた者同士が、すれ違い様に相手めがけて武器を叩きつけ、落馬した方が負けです。槍や剣が盾にぶつかり派手に砕ける音が響きます。

 予選では公平を期すため、また大怪我を防ぐため主催者側が用意した木製の槍、もしくは木剣を使います。大抵は一度で砕けて一瞬で勝敗が決まり、どんどん武器を変えながら人数が減るまで戦い続けることになります。


 予選会は退屈に感じる方もいらっしゃるようですが、わたくしは興味津々で試合を観戦します。勝ち残るには剣や槍、盾などの技量のほか、両手が塞がった状態で同時に馬を操る技量が必要です。上手い方を見ると勉強になります。


 会場で特に目立っているのはエリスタル騎士団の騎士達でございます。白銀色の鎧に鮮やかな濃い赤地のマントが取り分け目を引きます。マントには団旗と同じ金色の獅子が刺繍され、翻る度に日の光に煌めきます。

 ついそれに目を奪われて眺める内に、ひとりの騎士に目が留まりました。槍を手にしたエリスタル騎士団の騎士です。後ろ姿なので顔や鎧の紋章は確認できません。ただ馬上に翻るマント姿や佇まいが、不思議と無視することを許さないのです。


 そのエリスタル騎士団の騎士が対する相手は、東の砦を守るイペール騎士団の騎士でございます。東の砦はリゼインにも近く、ファラゼイン伯爵軍とはよく共同演習も行いますので馴染みがあります。金色の鎧に緑と赤で縁取られた明るい橙色のマント、その刺繍は緑の蔦に赤の双頭の鷲。とにかく派手で煌びやかなのです。イペール騎士団の鎧姿も立派ですが、わたくしにはエリスタル騎士団の白銀の鎧姿の方が、凜として気品があるように感じられます。


 ふたりは向かい合わせに柵の端と端に立ち、あっと言う間に馬を走らせ、すれ違います。エリスタル騎士団の騎士が相手の剣を盾で防ぎ、すれ違う一瞬の間に相手に向かって槍を突き出しました。

 ドッと音を立て落馬するイペール騎士団の騎士とは対照的に、体勢を崩すことなく駆け抜け、端までいくと馬首を返して反転しました。こちらにその姿が見えます。

 相手が落ちたことを確認し、ふと観覧席を仰いだ姿にどきり、としました。


 ――ディリエお兄様?


 鎧の胸にはアーヴェル家の紋章があり、面覆いのない兜の下から鋭い目が覗いています。


 ――違う、バリィだわ……。


 わかっていても一瞬跳ねた心臓はすぐには落ち着きません。以前会った時は叙勲前でしたので、考えてみたら正式なエリスタル騎士団の鎧姿のバリィを今日初めて見たのでした。鎧姿だと、出会った頃の若いディリエお兄様によく似ていました。

 ディリエお兄様は今のバリィと同じ十七歳の時にこの槍試合で優勝されています。わたくしはまだ三歳で、お父様に連れられて会場にいました。詳細はよく覚えていませんが、鎧が白銀に煌めき、誇らしそうに長槍を掲げたディリエお兄様の姿だけは、はっきりと記憶にあるのです。わたくしはその姿に心奪われたのでございました。


 大きく息を吐くと、わたくしは席を立ち二階席の端へ行きました。バリィはこちらには気づいていないようなので、従者に大声でその名を呼ばせました。


「バルトルト様!」


 声に気がついたバリィにわたくしは手を振りました。振り仰いだバリィが手を挙げ、馬をこちらに近づけます。手すりの真下まで来ると、笑顔でわたくしを見上げました。


「ずいぶん早いな」

「ええ、お父様と一緒に参りました。ご機嫌よう、バリィ。イペール騎士団相手に見事ですわね」

「見ていたのか。俺はもう三戦目だ。――まだかかりそうだな」


 本戦に残るのが当然、という風情でさらりと言いました。


「バリィ、お昼のご予定は?」

「後で届けさせることになっているが」

「今日アーヴェル家の方、誰もいらっしゃらないのでしょう? 良かったらこちらにいらして召し上がったら?」


 槍試合に参加する者は、王都に身内がいれば通常身内と昼食を取ることが許されています。平民なら会場外にたくさんの屋台が出ているのでそちらで買い食いしたりもするようですが、貴族はそうは行きません。遠方から来ている騎士団や領地軍軍人などは所属の者同士で昼食にしたりもするようです。しかしそれも義務ではございません。昼休憩は割と自由にしていてよいようです。


 今日はエリスタル騎士団の団長様がいらしているので、副団長であるディリエお兄様は西の砦に詰めていらっしゃるそうです。団長様が戻られると入れ違いで王都にいらっしゃるご予定のようです。王宮主催の舞踏会には間に合うと聞いています。リュカス様はお仕事のようですし、ラルス様にお昼ご飯の配慮など期待できません。テューラ様もローラも来ていないようですので、どうせなら一緒に食べたらどうかと思ったのです。


「お父様は向こうでおつきあいがあるようですし、わたくしもひとりよりは楽しいですから。お父様の分を考えてずいぶんたくさん作らせてしまったの。良かったら」

「――ではそうさせてもらおうか。侍女をこのような所で待たせるのも心配だったからな。こちらで預かってもらえれば安心だ。後でこちらに届けさせるから頼まれてくれるか?」

「ええ、お待ちしてますわ」

「――ああ、クラウディウスも一緒で構わないか? ついでだから忘れないうちに紹介しておきたい」

「用意しておきますわ。本戦に残れるよう、頑張って」

 頷くとバリィは騎士団の控え場所に戻って行きました。





 行き違いにならないよう、急いでわたくしからの書き付けを預け、我が家の馬車には一度戻ってアーヴェル家に行ってもらいました。昼食を持ってきたアーヴェル家の侍女をこちらの観覧席に案内してくるよう指示します。

 貴族席ではそうでもありませんが、平民も参加する槍試合ともあって会場外には半分ならず者のような者達もうろうろしています。なにかあっては可哀想ですし、バリィもそれを心配していました。昼少し前に大きな手提げ籠を抱えたアーヴェル家の若い侍女がやってきました。わたくしの顔を見ると、ほっとしたようにしましたので、会場外からこちらまで来る間もかなり緊張していたのでしょう。軽く膝を折って挨拶すると、わたくしにテューラ様からの書き付けを渡してくれました。


「当家の主人からよろしく、と言付かって参りました」

「ご苦労様。うちの者と一緒に準備してくださる?」

「かしこまりました」


 我が家とアーヴェル家の側仕え達によって、瞬く間に簡易の机や昼食が用意されていきます。昼食の準備が終わる頃、会場でも予選が終わったようでした。

 本戦に残った人の名前が読み上げられていきます。その中にはバリィやクラウディウス・ソールバルグ様のお名前もございました。

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