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トラカンド国の軍人達  作者: 黒い龍酸
9/11

報復のオーナーチャレンジ

ポーカーの結果は、言わずも分かるが、ハートの連勝。どんどんとチップを稼いでいく。イカサマを疑われたりしたが、すぐに潔白は証明された。

後方で待機をしながらハートの手を見ていたジョーカーは参考になりそうな手を覚えつつ、ハートの強運に関心をしていた。


「結構稼いじゃったわね」

「そろそろ別のところに行ってみるか?ダイヤが退屈だったみたいで、船漕いでやがる。俺も寝たい」

「昨日スペードにまた発明品壊されて鬼の形相でスペードと追いかけっこしてたもんね。それに比べて、寝たいって言ってるジョーカーは朝方までゲームやってたんでしょ?」

「否定はしない」

「寝たいに込められた意味が変わるわね。そうね、飽きちゃったし移動しましょうか」


そう言ってハートが席を立つと、突然明かりが消え、辺は真っ暗になった。さすがの出来事に船を漕いでいたダイヤも覚醒をし、ジョーカーはハートを庇うようにし、神経を尖らせる。


「なにごと?」

「気をつけろよハート」

「わかってるわ」

『二人共大丈夫か?』


イヤーカフからダイヤの声が聞こえる。ハートはブローチのマイクをオンにし、ダイヤに大丈夫だと伝える。

すると、スポットライトが会場の中央にある噴水に当たる。噴水の前には煌びやかで派手な仮面をし、紺色のスーツを着た男がお辞儀をして立っていた。

会場の誰もがその男に視線をやる。男はゆっくりと顔を上げ、息を吸い、高らかに言葉を発する。


「今宵集まりし、紳士淑女の皆様。ようこそ、カジノ〝デッドライブ"へ。私はオーナーのアザミと申します!さて、早速本題に参りましょう。今宵、オーナーチャレンジの条件を満たし、チャレンジャーとなる者が決まりました」


会場の誰もがザワつき始める。アザミはニヤリと笑い、ざわつきを静止するかのように左手で指をパチンと鳴らす。すると、ハートのいる位置にスポットが当たる。アザミは片手を自身の胸、もう片手をハートの方に向ける。


「今宵のチャレンジャーはお嬢さん、貴女です」


周りから拍手と歓声が響く。ジョーカーは少し離れたところにいるダイヤに目配りをし、合図を出す。ダイヤもその合図に気づき、小さく頷き、気配を消してその場を離れる。ジョーカーはハートの方をチラリと見る。ハートは一瞬、驚いた顔をしていた。ジョーカーはハートの表情を疑問に思い、声を掛けようとしたがハートがすぐに通常通りの顔に戻った。ジョーカーはそれを確認し一安心し、ハートに手を差し出し、「行くぞ」と小さく合図を出す。ハートも合図を確認し、こくりと頷く。2人はスポットの明かりと共にアザミの元へ歩いていく。


「ようこそお嬢さん、そして付き添いの青年。お名前をお伺いしてもよろしいか?」

「ハピネスと申します。こちらは弟のジード。彼を一人にするのは不安なので、一緒に連れて行ってもよろしいかしら?」


ハートはお忍びで使う際の名前、ジョーカーには咄嗟に考えた名前をオーナーに伝え、社交辞令の挨拶をし、ジョーカーの同行許可をアザミに求める。アザミは嬉しそうに高らかと言葉を発する。


「全然構いません!是非とも弟君にもお姉さまの勇姿を是非観戦をしていただきたい。さ、こちらへどうぞ」


オーナーは階段を登った先にある奥の扉へと先導しながら案内をする。


「第二作戦、開始」


ジョーカーは小さく、ハート、そしてブローチを使いダイヤに聞こえるように呟く。ハートは緊張している素振りを見せながら、悟られぬようにブローチに手をかけ、マイクのスイッチを一瞬押す。イヤーカフからダイヤの「了解」という言葉が聞こえ、少し安心をする。

奥の扉が開かれ、中に入るように促され、ハートとジョーカーはその部屋に入る。アザミが扉をゆっくりと閉める。バタンという音を合図に、数名の黒服がジョーカーを捉えようと襲いかかる。しかし、神経を尖らせていたジョーカーには無意味で、体術で返り討ちにされ、一人を拘束し、他は気絶させる。その瞬間、扉や棚の中、天井から複数の黒服が姿を表す。


「おやおや、バレていましたか」

「気配ダダ漏れだっつーの。自慢じゃないが、軍の中では俺は切り札にされてんだよ、神経尖らせればすぐに分かる。だりーけど」

「やっぱり、貴方だったんですね。バイロンさん」

「あぁ、やはり覚えていましたか。わざわざ名前を変えましたが、無意味でしたか」


アザミ、もといバイロンはゆっくりと着けていた仮面を外す。仮面から現れた顔には、大きな切り傷の跡がある。

ハートはバイロンを敵意を込めて睨む。バイロンはニヤリと悪巧みをしているような笑顔を向ける。


「知り合いか?」

「ここに来る前に嫌なほどお世話になったゲス野郎よ」

「ゲス野郎とは聞き捨てなりませんねぇ。私はただ商売をしていただけですよ」

「闇オークションで人身売買を平然とやっていたくせに、よく言うわ、何がただ商売をしていただけよ。大方ここで行方不明になった人たちは、貴方ご自慢のオークションの商品にされているってことかしら?」

「如何にも。さすが元〝商品"だっただけはある。そこまで分かっていたとは」

「これはあくまで予想だっただけよ。貴方が現れたとき、喋り口調と声ですぐに貴方だと分かったのよ。でも、貴方はあの時、私が殺したはずだけど」

「確かに私は貴方に殺された。しかし、運良く生き延びたんですよ。あの場で確実に殺しておけば良かったものを、貴方は私の顔に傷を付け、その隙にトドメを刺しに来ましたが、急所を外し、そのまま放置した。貴女達が去った後、体を這いずって自己治療をしたのですよ」


バイロンはやれやれといったようにハートに話をする。ハートは自分の詰の甘さを悔いながら、この状況をどうするか考える。

ジョーカーは拘束した黒服の首元に隠し持っていたナイフを突きつけ、オーナーを睨む。


「さて、違法だと自分で暴露したわけだが、大人しくしてもらってもいいか?オーナーさん。こっちはさっさと帰りたいんだよ」

「帰りたい?ご冗談を。貴方方は、私の商品になっていただきますよ」


バイロンがパンパンと手を叩く。すると、黒服に拘束されたボロボロのダイヤが姿を現した。


「ダイヤ!」

「悪い、油断した」


ダイヤは申し訳なさそうに苦笑いをする。

バイロンはダイヤに近づき、ダイヤのこめかみに銃を突きつける。


「貴方が取り押さえている私の駒を開放しないさい。そうでないと、彼を撃ちますよ?」

「・・・チッ」


ジョーカーは拘束していた手を緩める。すると、先程までジョーカーに拘束されていた黒服が、今度はジョーカーを拘束する。


「さて、トラカンド国の幹部になった、ハピネス。もといハートさん。せっかくオーナーチャレンジまで来たんです。ゲームをしましょう。今はカジノをやっている身、このままでは私も面白くない。それに、私は個人的に貴女に報復をしたいと思っているんですよ。私はねぇ、商品でありながら、私に歯向かい、この顔を傷つけた貴女を殺してやりたいんですよ。なのでどうでしょう。ロシアンルーレットを致しませんか?」

「・・・それだと、貴女が死ぬ確率もあると思うのだけど?」

「私は負けませんよ。貴女を殺すまではね」

「私に対して、殺意高すぎじゃないかしら?まぁ、そうなったのは仕方ないけど。・・・わかったわ」

「ハート!よせ!!」

「ダイヤ、大丈夫。知ってるでしょ?私、運だけは強いから」

「そうでなくては。では準備をいたしましょう」


ダイヤは捕まってしまった自分の不甲斐なさを悔やむかのように、苦虫を噛み潰したような顔をする。バイロンは鼻で笑い、仮面を着けた別の部下にトレイに乗った拳銃と弾丸を持ってこさせ、トレイごと受け取り、ハートに渡す。


「最後になるかもしれませんから、お仲間に弾を込めてもらいなさい」

「最後になるのはどっちかしら」


ハートはクスクスと自信有りげに笑い、バイロンからトレイを受け取り、ジョーカーの前に持っていいく。ジョーカーの拘束が外れ、ジョーカーは弾丸を込める。


「ほらよ。これでいいか」

「大丈夫」


ハートが拳銃を持っていき台の上に置く。バイロンはニヤリと笑って台の上の拳銃を見る。そして、サイコロを持ちハートの方を向く。


「ルールは簡単です。このサイコロを振り、その数撃ちます。せいぜい6が出ないように祈ることですね」

「随分シンプルね。これで負けないなんて、銃にイカサマでも仕込んでるのかしら?」

「それはそちらでも言えることではないのですか?」

「・・・それもそうね。さっさと始めましょ」

「では、レディーファーストで、先行をどうぞ?」


ハートは台に置かれたサイコロを取り、転がす。出た目は「1」。ハートは自分のこめかみに拳銃を持っていき、ためらいなく引き金を引き、トリガーを引く。カチッという音だけがし、空砲だと誰もが分かる。


「実に素晴らしい度胸だ。まぁ、最初からでは面白くないですからねぇ。ではサイコロを振らせていただきましょう」


バイロンがサイコロを振る。出た目は「4」


「まずい、これで実弾が出なければハートは確実に・・・」

「大丈夫だろ」

「何を根拠に言ってんだよ!ハートが死ぬかもしれないんだぞ!!」

「まぁ、見てれば分かる」


ダイヤは焦りを感じた。これで実弾が出なければ、ハートの負け、つまりハートは死ぬのだと。しかし、ジョーカーはダイヤと違い、至って通常通りの顔をする。ダイヤは仲間が死ぬかも知れないのに平然としているジョーカーに少し苛立ちを覚えるが。今はハートを見守り、実弾が来ることを祈るしかなかった。

バイロンは4発目を自分に撃とうとトリガーを引く。ダイヤは当たってくれと願ったが、その願いは虚しく、カチッという音、空砲だったという音が聞こえる。


「・・・・・・どうやら、私の負けみたいね」


ハートは残念といったように肩をすく、力なく微笑む。


「最後にお仲間に言い残したいことはありますか?」

「ハート止めろ!その銃を今すぐそいつに撃て」

「外野は黙っていただけますかね」


バイロンは顎で指図した。二人を拘束している黒服はダイヤとジョーカーに拳銃を向ける。ダイヤは舌打ちをして大人しくするしかなかった。

ハートはゆっくりとジョーカーの方に向かい、ある程度の距離で立ち止まった。


「ジョーカー、あとはお願いね」

「・・・あぁ」


ハートはゆっくりと拳銃を自分のこめかみに持っていき、引き金を引き、トリガーに手をかけた。そして、


バンッ


真っ赤な液がハートのこめかみから華を咲かせ、その場に倒れた。

ダイヤは目を見開き、絶望をする。そして、黒服の手を振りほどき、ハートの元へかけ、抱き抱える。ジョーカーは拘束されたまま、目を伏せている。バイロンは肩を震わせながら、口元に手を持っていき、ユラユラとハートの近くへと歩く。


「クフフフフフ・・・・アーハッハッハー!!!ついにやってやったぞ!分かったか!これが商品の分際で!私に逆らった罰なんだよ!!!ざまぁろ!!!アハハハハハハハハハハハ!!!!!!!」


バイロンは今度は手を顔に持っていき、高らかと笑う。そんなバイロンを憎らしく思ったのか、ダイヤは懐に仕舞ってあった小型のナイフを取り出しバイロンに向かって駆け出そうとした。が、


「落ち着けダイヤ」


いつの間にか近くにいたジョーカーにスーツの襟を掴まれ後方に倒された。ドサッという音と共に倒れ、痛そうに後頭部を押さえながら左右に転がる。


「いってー!!!!!なにすんだよジョーカー!!!」

「感情で向かったって返り討ちに遭うだけだ。まずは俺があいつを押さえるから、お前は」

「そんな悠長に待てるかよ!!!・・・てか、あれ?お前さっきまで拘束されてなかったか?」

「あ?あー、拘束していた雑魚含めて、全員寝てもらってる」


ジョーカーは「ほれ」と言いながら親指で後方を指差す。ダイヤがジョーカーの示した方を覗くと、見事に伸びている黒服たちがいた。バイロンはまさかと思い、周りを見る。すると、バイロン以外の人間が全員倒れていることに気づく。


「貴様、いつの間に!」

「俺、気配消すことと、一瞬で気絶させることは上手いから、全員気絶させて貰ってたんだわ。お前が高笑いしてる間に」

「お前チートかよ」

「よく言われる。てかお前からも言われる」

「な・・・!!・・・だが、まだ控えている奴らはごまんといる。貴方たち二人だけではどうしようも」

「それなら俺が片付けといたわ。捕まる前に」

「はっ!?」

「作戦とは言え、お前ボロボロになるなら満身創痍で来いよ。面白くない」

「それだと他に控えてる奴いたら俺戦えないだろ」


ジョーカーとダイヤは世間話をするような感覚で会話をする。バイロンが眼中にないような雰囲気を出しながら。ふとした瞬間に、ジョーカーはチラッとハートを見る。


「つーか、お前もいつまで狸寝入りしてんだよ。さっさと起きろよ」


ジョーカーはため息をついてハートに声をかける。バイロンはジョーカーの一言に疑いを持ち、死んだと思っていたハートをそんなはずはいと思い見る。すると、倒れていたハートはムクリと起き上がり、ドレスについたホコリを払う。そして、バイロンに向かって微笑む。


「残念だったわね、バイロンさん」

「なっ・・・!貴様!何故生きて!実弾は確かに貴様を・・・!!」

「弾丸込めさせるなら、自分の部下にやらせないとね?」

「駆け寄った時に気づいたわ。心配して損した」

「ごめんねダイヤ」

「今度なんか奢れよ」


ハートはいたずらが成功した子供みたいにダイヤに向かって笑いかける。そんなハートを見て、ダイヤは仕方ないという表情を見せる。バイロンはそんなハート達を見て、今がチャンスだと思い、隠しておいた拳銃を取り出そうとロシアンルーレットに使っていた台に向かって走る。


バンッ


しかし、それをさせまいと、ジョーカーが拳銃をバイロンに向かって撃つ。見事右手首をかすめた為、バイロンは手首を押さえ、苦痛の顔をする。


「残念だったわね。うちのジョーカー、やるときはやる子だから」

「くそ!商品のくせに!!商品のくせに!!人間である私に歯向かうのか!!!」

「・・・生憎、私は商品じゃないの。私は、トラカンド国、幹部。外交官のハートよ。・・・・・・・私は・・・人間だ!」


ドレスに隠していた拳銃を取り出し、バイロンに向け、引き金を引いた。


バンッバンッ


バイロンは、心臓と頭から血を流し、崩れ落ちた。


「任務完了、かな?」

「まったく、ヒヤヒヤさせやがって」

「ごめんね。・・・ねぇジョーカー?やっぱりアレ、貴方が持ってて正解だったでしょ?」

「こうなるって分かってたなら、最初から言えよ。バレないように弾丸込めるのめんどくさかったんだぞ」

「カジノだから可能性段階で、確信ではなかったから言えなかったのよ」

「つーか、アレ、俺が作ったやつじゃねぇのか?」

「・・・・・・・ババアにいたずらで使おうと思ってこの前パクった」

「ジョーカー帰ったら覚えてろよ」

「まぁまぁ。さっさと帰りましょ?総統に任務完了の報告をしなきゃ」


ダイヤとジョーカーは「そうだな」と言って渋々ハートと共にカジノ会場を後にする。城に帰るとダイヤはすぐクラブの治療送りにされ、3日間は絶対安静にするようにと言われた。

後日、バイロンが経営していたカジノ会場は取り壊され、関係者は全員捕獲された。

そして、ダイヤが完全回復した日に、ダイヤとジョーカーの鬼ごっこが城の中で行われたのはまた別のお話。

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