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トラカンド国の軍人達  作者: 黒い龍酸
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机の秘密(後編)

総統机破壊事件から総統はしばらくハートの部屋で書類処理をするようになった。だが、総統とエースは未だ気まずい雰囲気のままだった。幹部たちはその空間にどこか居心地の悪さを感じていた。総統も早く謝りたい気持ちでいっぱいだが、何分エースは多忙である。総統補佐であるエースは、殆ど誰かに捕まって仕事について聞かれたり、見回りなどで、総統が話しかける隙がない。おまけにジョーカーが仕事をサボるのでそれのフォローもしているのがエース。勿論総統にバレてジョーカーが怒られる。

多忙である彼に謝れない総統も仕事に追われタイミングが掴めずにいる。

そんな総統は、今日もハートの部屋で書類を整理している。


「・・・いい加減エースに謝った方がいいんじゃない?」

「私もそう思ってるわよ。でもね、いざ言おうとすると居なくなるし邪魔が入るし謝る隙がないのよ!!!」


総統は謝ろうとした今までの記憶を遡り、悔しさで机を叩いた。勿論力加減をして。


「・・・あのさ総統、エースの部屋に行くって選択肢はなかったわけ?」

「・・・・・・・・・・あ」


ハートはため息をつきながら提案をすると、総統は「その手があったか」とでも言わんばかりに口をポカンと、まるで鳩が豆鉄砲をくらったかのような表情になる。そんな総統の反応にハートはまた溜息をもらす。


「総統って、戦闘面では強いし頼りになるのに、そういうところはバカね、ホント」

「ハートまでそういうこと言う!?」

「事実そうでしょ?だからこんなことになったんでしょ?」

「うっ・・・」


総統はハートに言い返す言葉がない。

しかし、ハートの提案は総統の中にいい意味で刺激を与えた。総統は早速今夜にでも決行しようと決意する。




夜、総統はエースの部屋の前に来た。ドアを三回ノックすると、中から「どうぞ」とエースの声が聞こえる。総統は恐る恐るドアを開けると中からタバコの匂いと、窓枠に座って外を見ていたエースが居た。


「あぁ、総統か」

「遅くにごめんね、ちょっと言いたいことがあって、その・・・」


総統はいざ対面すると、緊張でか、ぎこちなくなり言葉を濁す。

エースはどこか不審に思い始め、目を細める。


「用がないなら、部屋に戻ったらどうだ」

「あっ、違うの!その、ごめんなさい!貴方の祖国の木で作った、あの机を壊してしまって」


総統は頭を勢いよく下げる。エースはその光景に驚いたのか目を見開き、総統を見つめる。そして、普段の顔に戻り、静かに総統に問う。


「思い出したのか?あの机の素材」

「ジョーカーに言われてね。・・・あの机、貴方の記念樹、だったわね」

「あぁ、今は無き、あの国で、俺が生まれたという事で植えられた木だった」

「懐かしいわね」

「別に」


総統は肩をすくめてエースに言う。エースは窓枠から下り、机の上に置いてあったタバコを取り、火をつける。


「確か、貴方が国に来るからそれを思い出で残しておこうって事で作ったのよね」

「それもあるが、あの机、もう一つ秘密あるだろ。他の奴らは知らない、俺とあんただけの秘密」

「え」


総統はそんな秘密あったかと言わんばかりの反応をする。そんな総統の反応を見て、エースはため息をつく。


「あんた、ホント記憶力乏しいというか、馬鹿だよな」

「それ、昼にもハートから似たようなこと言われたんだけど」

「事実だろうが」

「それも言われたわ!!」


総統はエースの言葉に少し不機嫌になる。

エースはタバコを吹かして、総統を見る。


「あの机は、確かに俺の記念樹で作られたものだが、正確には、過去の俺の記念樹だ。お前が俺にエースとして生きていくために、過去の名前を記念樹と共に机にして置いておこうってなったんだろ」

「あ・・・」

「あの日、あの机が出来た日、あの国で生きてた王子はあの戦争で居なくなった。代わりに、このトラカンド国に総統補佐、エースが誕生した日にしよう。生まれ変わる前の思い出をこの机にし、新しい思い出を作っていこうって、あんたが言ったんだろ」

「そうだったわね」

「俺はぶっちゃけあの国が滅びようがどうでもよかった。けど、あんたに忠誠を誓ったあの日、俺はエースになった。あんたの机に俺の記念樹が使われて、大事にされてて嬉しかったんだ。・・・まぁ、まさか自慢の制御できない馬鹿力で壊された挙句、その思い出を忘れられるとは思わなかったがな」

「あ・・・えっと~・・・ごめんなさい」


エースがジト目で総統を見始めると、総統は冷や汗をかきながら、あさっての方向を向く。

だが、エースはその反応がちょっと面白かったのか、クスクスと笑う。それを見た総統はまた少し不機嫌になるが、いつものエースに戻ったと思い、肩の力が抜け、総統もクスッと笑う。


「・・・改めて謝罪させて、机の件、ごめんなさい」

「別にいい。あの時は俺も怒りすぎた」

「ほんとよ、死ぬかと思ったわ」

「・・・はてなんのことやら」


エースはタバコを吹かしてそっぽを向く。総統はクスクス笑って「お互い様って感じね」と言う。

エースは「そうだな」と言ってタバコの火を消す。エースは総統に近づき、総統の前で跪く。


「改めて誓う、俺エースはどんなことがあろうと、総統、あんたに忠誠を誓う」


エースは総統の手を取り、その手の甲にキスをする。

総統は少し驚いたが、微笑んで「許す」とエースに言う。


次の日、食堂に仲良く行き、幹部から「やっと仲直りしたか」と言われ、仲直りする前の空気についてクレームを言われたのは言うまでもない。

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