初めてのダンジョンと再会と再会
キリエを加えて3人パーティーになったアオイ達は、初ダンジョンに挑みます。クエストは、成功するのか?あと、再会もテーマとなってます。
「カツ丼まだ?」
悪い予感というのは当たるもので、形式的に調書を取るだけと言っていたのに、アオイ達は、既に半日近く警察で取り調べを受けていた。盗賊の仲間割れではないのかと疑われているようである。また、格闘家ランク2(盗賊を倒してランクアップした)のアオイが、素手の攻撃で盗賊を1人殺したというのも、俄かに信じがたかったのだろう。
「素直に吐いちまえよ。食堂にいたのも奴らを手引きするためだろ?」
「好きで食堂で寝てたんちゃうねん。宿屋のご主人に聞いてくれたらええやん」
「怪しいんだよ、お前。変な訛りがあるし」
昼前にガイアナに着いたのに、もう夕方である。
「今日は、牢屋に入ってもらうぞ。明日また取り調べだ。」
「えぇーっ?横暴すぎ!冤罪!」
「うるさい!ほら、さっさと牢屋に行け」
騒いでいると、取り調べ室のドアがノックもなく開き、警察の偉い人と思しきカイゼル髭のおっさんが、慌てた様子で入ってきた。
「あ、署長!どうされましたか?」
「もう取り調べはいい。その方と、お仲間を早く解放しなさい」
「え?どうしてですか?あからさまに怪しい奴らですよ?」
「商人ギルドと冒険者ギルドから、盗賊の仲間ではないから早く解放するようにと要請があったのだ」
アオイは、宿屋にいた商人がギルドを通して要請してくれたのだろうと思った。冒険者ギルドが、なぜ、アオイ達が捕らえられていることを把握しているのかは不明だが、2つのギルドからの要請とあっては、拘束している訳にもいかないらしく、アオイ達は、解放された。
もう日が暮れていたものの、解放されてすぐに、アオイ達は、冒険者ギルドガイアナ支部に手続きに向かった。
「あ、アオイさん!警察から解放されたんですね、よかった!」
「アリアちゃん!どうしてここに?」
アリアがカウンターから声をかけてきたので、アオイとウトは、驚いて同時に叫んだ。
「ギルド間転送装置で来ました」
「そんな便利な物が…」
「アオイさんが馬車で来ると思って、昨日から待ってたんですよ。なかなか来られないから、心配しました。ガイアナに着いたと思ったら、警察から動かないし」
「アリアちゃんが警察に口利いてくれたん?てゆうか、オレの居場所、アリアちゃんに分かるん?」
「アオイさんだけではなく、登録してインフォウオッチを着けている冒険者の居場所は、ギルドで検索すれば分かります」
「そ、そうなんや。」
もしかして、これはストーカーとゆうやつでは?と思ったものの、助けられたのも確かなので深く追及するのは止めた。
「ところで、アリアちゃん、このホビットの人を冒険者登録してくれる?」
「いいですよ。聖職者の場合、他のジョブへの変更はできますが、再度、聖職者に就くには教会の許可が必要で、かなり難しいですが、どうします?」
「聖職者のままでお願いします」
「そうですね、ランクも42ですし、転職は、勿体ないですよね」
「えっ!キリエって、そんなにランク高い聖職者なん?ヒールの威力が高いなとは、思ってたけど」
「はあ、ランク詐欺とか、よく言われるんです。慌て者なので、とんでもない失敗をしてしまうので」
アオイとウトは、あー、それはね、と頷いた。
翌日、アオイ達パーティーは、ダンジョン地下3階のオルアという魔物の体液採取という、そこはかとなく嫌な感じの依頼を受けることにした。
「体液ってゆうのが、ひっかかるなぁ」
「仕方ないだろ。他の依頼は、魔法攻撃できないオレらには無理なんだから」
「魔法使いを募集しないとあかんねー」
いざダンジョンに向かおうとするアオイ達をアリアが呼び止めた。
「アオイさん、気をつけておいてほしいことがあります。まさか迷い込まないとは思うのですが、ダンジョンの向こう側には、別の国があります。ベスティアという種族の国でドゥーメトゥムといいます。」
「ベスティア?」
「獣人の種族です。ベスティアは、私たちウマノには、あまり友好的ではありません。戦闘を仕掛けてきたりはしませんが、気をつけておいて下さい。」
「その、どぅなんちゃらの方にもダンジョンの出入口があるの?」
「今は、塞がれています。ドゥーメトゥムでは、一年のうちの決まった期間だけダンジョンでの探索が許可されます」
「蟹漁みたい。なんでなんやろ?」
「ベスティアは、身体能力が高い上にダンジョンの魔物の一部に特効があるので、魔物を取りすぎないよう配慮しているんです」
「魔物に特効!いいなぁ、ベスティア、仲間にならんかなー。」
「無理だろ。友好的じゃないんだぜ?」
「もし、万が一、まかりまちがってドゥーメトゥムに迷い込んだら、インフォウオッチで通信できますので、私に連絡して下さい」
「通信できるの?」
「はい。青い色のインフォウオッチは通信機能つきです。」
「分かった。ほな、とりあえず、ダンジョンに潜ってくるわ。オルアは、地下3階におるんやな。いくで!」
3人は、ガイアナのすぐ西にあり全10階層のガイアナダンジョンに入った。一階は狭く、数匹のスライムに出会っただけで、すぐに下り階段がみつかった。地下一階には、ポイズンスライムや吸血蝙蝠などがいたが、ウトの剣で難なく倒すことができた。
「なんや、魔物ゆうても大蛇より楽に倒せるな」
「2人とも、油断大敵ですよ!転んだりして窮地に陥ることもありますからね」
「そうか、負けフラグ建てたらあかんな」
しかし、既に負けフラグは、ばっちり建ってしまっていた。
地下3階に降りた途端、アオイは、硬直した。カサカサと、嫌な音がしたのだ。ブーンという羽音も聞こえる。
「ま、まさか、ゴのつく黒い生物ちゃうよね?」
数歩歩くと、そのまさかによく似た黒い50センチくらいの虫を発見してしまった。
「ゴ、ゴキブリ!ぎゃーっ!」
「アオイ!落ち着け!」
アオイの悲鳴のせいか、巨大な蜂が飛んできた。ウトが剣で斬りつけるが、ゴキブリのような奴は堅くて上手く斬れない。キリエの雷魔法でなんとか倒した。
「もしかして、オルアっていうのも虫?」
ビクビクしながら奥へ進んで行くと、次に、1メートルぐらいの緑色の芋虫のような魔物が現れた。討伐依頼をウトがインフォウオッチで確認すると、この芋虫がオルアだった。
「ウト君、早く倒してよ!」
「お、おおっ」
ウトが切りかかると、オルアは、意外と鋭い牙で反撃してきた。
「アオイ!オレが引きつけるから、殴れ!」
「無理無理無理!虫を殴るなんて無理!」
「お前、盗賊の腹をぶち抜いて平気だったのに…」
「無理無理無理無理!虫は触れない!」
アオイは首を高速で横に振って拒否する。見かねたキリエが
「私が、雷魔法で!」
と申し出たがウトに止められた。
「ダメだ!黒こげになって体液が採れない!」
オルアの攻撃を凌ぐだけになっていると、壁や天井にゴキブリっぽい奴と、他のオルアが這ってきて、アオイ達の形勢は不利になった。
ボトリと、一匹の黒いのが天井から落ちてきた。
「ぎゃーーーーーーーーーーーーっ!!」
アオイは叫ぶやいなや、キリエを小脇に抱えて闇雲に逃げ出した。
「アオイ!待て!」
ウトは、必死にアオイを追う。アオイは、ダンジョン内で走り回り、虫が大量にいる小部屋に入ってしまっては、叫び、また走り回った。振りまわされているキリエは、顔面蒼白で口元を押さえている。
「アオイ!登りの階段だ!兎に角、一端、ガイアナに帰ろう」
ウトが必死でアオイの腕を掴んで階段を指差すと、アオイは、高速で頷きながら、階段を駆け上がった。地下2階もパニックのまま駆け回り、なんとか登り階段をみつけて、駆け上がった。
そこは、45㎡くらいしかない小部屋だった。下り階段以外、出入口もない。
「ここ、どこ?」
「知るか!ガイアナに戻れないことしか分からん!」
「降りて、他の階段を探しますか?」
アオイに抱えられたまま、キリエが言う。
「地下2階に、他に登り階段はなかった。3階まで降りて、元来た階段を探すしか…」
「また、あの虫たちの中に?」
アオイは、呆然とし、キリエをボトリと落とした。
「痛いっ!アオイさん、酷いですぅ!」
キリエは涙目で抗議したが、アオイは、呆然としたまま、周囲の壁を撫でながらウロウロしている。
「隠し扉とかあるんやないの?」
「アオイ、諦めろ。下に戻ろう」
「嫌やーっ!あんなとこ戻れん!」
アオイは、力任せに壁を殴り出した。
「アオイ、止めろって!」
なおも壁を殴りながら、アオイは、叫んだ。
「誰か助けてー、神様仏様ー!」
その時、どこからともなく鹿の群が現れ、一面の壁の中に駆け抜けて行った。
『ピンポン、スキル神鹿召喚がレベルアップ』
インフォウオッチの通知が響く。
「スキル…神鹿召喚…忘れてた」
アオイは、鹿が消えて行った壁を叩いた。少し他の壁より軽い音がする。
「ここが隠し扉か!オラオラオラオラー!」
アオイのラッシュで、壁に亀裂が入る。そして、音をたてて崩れ落ちた。
「登り階段や!」
瓦礫をどかし、スキップで階段を駆け上がるアオイ。
「アオイ!待てよ!ドゥーメトゥムの側かも知れないんだぞ!」
ウトとキリエがアオイの腕を掴んで止めようとしたが、アオイに引きずられ、スキップのリズムで跳ねながら地上に出てしまった。
ダンジョンを出ると、そこは、既に街中だった。明らかにガイアナとは違う。アオイ達の出現に、驚いて足を止める通行人達は、獣の耳や尾が生えていたり、虎の顔をしていたりと、獣人族に違いない外見をしている。
「ここが、ドゥーメトゥム。やっぱり、迷い込んでしまったのか…」
周囲を見回していると、警察と思しき男が通行人を掻き分けて来た。
「お前たち、ウマノだな?どうやってここに来た?」
「ダンジョンで道に迷って、たまたま、ここに来てしまいました」
「ダンジョン?ドゥーメトゥム側の出入口は塞いであったはずだ。ウマノに、あれを壊せる訳がない」
「いやー、何故か、壊れたんですよねー」
「見たところ、ソーサラーとかはいないようだな。まさか、火薬を使ったのか?ダンジョン内で火薬を使うのは禁止されてるはずだが」
「火薬なんて持ってないし、使ってないっすよ。臭いで分かるでしょ?」
警察官は、鼻をヒクヒクさせてアオイ達を嗅いだが、火薬の臭いは嗅ぎ取れなかった。
「では、どうやって壁を壊した?怪しい奴らだ。署で話を聞こうか」
署という言葉にキリエが反応した。
「また警察署?」
「また、とは?お前たち犯罪者なのか!」
「あ、しまった。違うんです。犯罪者ではなくて、どちらかというと犯罪を防いだんです」
「ますます怪しい!」
キリエと警察官が言い合っている間にアオイは、インフォウオッチでアリアに連絡を取ろうと左手を口の辺りに持ち上げた。拳は、流石に血塗れだった。
「あ痛たたた!怪我してた!」
「壁を殴り壊すからだぞ!キリエ、ヒールを頼む」
キリエがヒールをかけるより早く、警察官がアオイの手を掴んだ。
「殴り壊した、だと?ウマノが?」
「ああ、すんません。オレ、怪力なんです」
「マジか…」
「マジでマジで」
「ウマノとは思えないな。気に入ったぞ、お前」
警察官が、アオイの肩を叩いた時、人波から2つの影が踊り出てきた。
「アオイさん!」
「アオイー!みつけたー!」
赤い髪、緑の瞳の猫耳美少女がアオイに飛びついてくる。
「え?もしかして、ステラなん?」
「ステラだよー!」
「ステラ!なんでいるの?なんで、もう、いるの?」
再会できて嬉しいものの、神様に幸せにしてとお願いしたステラが、自分の転生後、わずか1月で死んでしまったのなら許せない。
「ステラ、神様にお願いして、アオイが転生する前の世界に転生させて貰ったんだよ」
ステラが耳元で告げる。
「幸せだった?死ぬまで」
「幸せだったよ。後でアオイがいなくなってからのこと話すね」
「ステラ!会えて嬉しいよ!」
アオイとステラはひしっと抱き合った。その2人に冷たい怒りを帯びた声が問いかける。
「アオイさん、この女は、誰なんですか?」
アリアだった。まだ通話していないのに、何故かドゥーメトゥムに来ている。
「アリアちゃん?なんで…いや、いい。」
やはりストーカーとしか思えない。
「アオイ!ムンドもいるんだよ」
アリアを無視してステラが言う。アリアは、眉を釣り上げたが、ステラに手招きされて、銀髪に水色の瞳の猫耳美少年が現れると、表情の険しさが消えた。
「あら、彼氏持ちなの」
ムンドは優雅にアオイに歩み寄り、長い尻尾をアオイの脚に巻き付けた。そして、アオイの肩に頭を乗せて言った。
「アオイ、待ってた。僕達、またアオイを守る」
「ムンド!ありがとう!待っててくれて!」
アオイは、ステラとムンドを抱きしめた。
次回は、ガイアナダンジョンへの再挑戦などの話になります。