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いざ次の町へ

最初の村を旅立って、新たな町に向かいます。登場人物も増えます。

 アオイが大蛇を担いで帰ったのを見て、他の冒険者は仰天した。ランク1の狩人が倒せる敵ではないし、魔法も使わず、人間が担げるような重さではないのだ。

「あいつ、何者なんだ?」

「ウトの野郎、うまいことやったな」

「素敵ー!私もアオイ様のパーティーに入りたい!」

 その騒ぎをアリアは、何故か得意げに眺めていた。

「アオイさん、報酬をお支払いしますね!」

 大蛇は、討伐依頼が出ていたため、討伐報酬と売却で20オロもの金額になった。

「パーティーの所持金増えたけど、落としたりしないか心配やなぁ」

「ギルド預金の口座を作ると、どこの支部でも出し入れできますよ」

 アオイは、アリアの勧めで口座を作ることにした。預金の管理はインフォウオッチで行うという。なかなかに便利なシステムである。

「あ、アオイさん、新しいスキルを覚えてますね!」

 口座を作るためアオイの情報をギルドの端末で確認したアリアが言った。

「見たことないスキルです。えーと、神鹿召喚?」

「え?なにそのスキル?いつ覚えたんやろ」

 ギルドにいた者で、そのスキルを知っている者は、いなかった。狩人のスキルではないらしい。

 アオイは、深く考えても仕方ない。機会があったら使ってみよう、と思った。


 それから、1月余り、アオイとウトは、森で経験値とお金を稼いでいた。森には、あまり強い獲物も魔物もいないため、お金はまだしも、経験値があまり稼げず、ジョブランクも5から上がりにくくなっていた。

「あ、久々のハバリや!よし!」

 アオイは弓を引いた。すると、バキッと鈍い音がして、弓は上部3分の1ぐらいのところで折れてしまった。

「うわ!やってもうた!」

「お前、ついにレンジャーボウをへし折ってしまったのか!」

「新しい弓、買わないとあかん。」 

「…お前、もう狩人やめて転職しろよ。弓は、新しく買っても、またすぐに折ってしまうぜ、どうせ。」

「ええー?無限矢筒もったいないし」

「矢筒は、ギルドに預かって貰うか、買い取って貰えばいいだろ?第一お前、大物を仕留める時は弓矢じゃなく、丸太とか素手でぶん殴ってるじゃないか」 

「それもそうやな。まあ、料理のスキルも取得したから、転職すべしやな」

 アオイは、転職を決意した。


 アリアは、アオイが今できるジョブの一覧を表示した。と言っても最初と全く変わっていない。

「アオイさんは、狩人のランクがまだ足りてないので、上級職には就けないんですよ。基礎のジョブで、剣士か格闘家がいいと思います」 

「うーん。どれにしようかな?」

「どれもこれも、格闘一択だろうが!」

「遠距離攻撃できるから弓矢も捨てがたし、なんやけどなぁ」

 アオイがジョブ一覧の画面にタッチすると、画面が切り替わり、今まで表示されていなかったジョブが出てきた。

「ん?サムライ?シノビ?」

「ああ、それは、東方の島国の独特なジョブで、修行して免許を取らないと就けないですよ」

「東方の島国かー。行ってみたいな」

「確か、ウトさんのお爺さんが東方の出身でしたよね?」

「ああ、オレは行ったことないけど」

「サムライは、剣士カンストしないとなれないんかなぁ?」

「いえ、全く別系統のジョブなので、大丈夫だと思います。一応、基礎のジョブを何か極めておく方がいいかもしれませんが」

「そうか。ほんなら、格闘家に転職するわ。」

 手続きが終わり、矢筒をギルドに預けたアオイは、もう1つの決意をアリアとウトに打ち明けた。

「オレ、明日には、この村を出るわ。ロープレの基本として、次の街に行かないと、もう成長せんと思うんよね」

「そうですか。それなら、ここから馬車で北に1日のところにあるガイアナという町がいいと思います。」

 アリアは、残念がるかと思ったのに、意外とあっさり、そう言った。

「ガイアナの近くには、小さいながらダンジョンがありますから、レベルやランク上げに適してます」

「ダンジョン!じゃあ、そこに行くわ。アリアちゃん、ウト君、今までありがとうな」

「アオイ、オレも行くぜ。お前1人だと、辿り着く気がしないし、オレも、ダンジョンで経験値と金を稼ぎたいからな」

 ウトは、アオイにそう言ったあと、アリアに向かって

「アリアちゃん、オレ、強くなって、絶対ここに帰ってくるから、待っててくれよな!」

 と言ったが、アリアは、曖昧な微笑みを浮かべただけだった。


 翌朝、値切って買った格闘用グローブを身につけたアオイとウトは、乗合馬車の前でアリアに別れを告げた。

「あ、そうそう。新しい町に着いたら、ギルドの支部で手続きして下さいね」

「うん、分かった。アリアちゃん、ありがと。またな!」 

「ええ、またね、アオイさん。」

「あ、アリアちゃん…ううっ…」

「まあ、ウトさん、何を泣いてるんですか!しっかりして下さいよ。今生の別れじゃあるまいし!」

 なかなか泣きやまないウトを急きたてるように、馬車が出発の合図の鈴を鳴らした。


 馬車には、アオイ達の他に、身長が1メートルほどのホビットの聖職者が乗っていた。グルグル眼鏡をかけていて、出発前から何やら必死でお祈りをしている。馬車が走り出して1時間もすると、ホビットは、顔色が悪くなり、脂汗を流し始めた。

「どしたん?車酔い?」

「だ、大丈夫です。ご心配なく、オェッ」

「いやいや、えづいてるやん。飴ちゃんあげよか?ましになるよ?」

「大丈夫です。回復魔法が使えるので、うっぷ。」

「おいおい、吐くなよ?にいちゃん。早く回復魔法かけろよ」

 ウトが声をかけると同時にホビットは、はいと呟き、魔法を自分にかけたが、次の瞬間には吐いてしまった。  

「効いてないじゃないか!」

「毒を消す魔法を使ったのですが…」

「毒じゃないから!」

「食中毒の時は、これで直ったんですぅ」

 3人が騒いでいると、御者が、気付いて馬車を止めた。

「あー!お客さん困りますよ!」

 車内の様子を見て御者が叫んだ。

「こりゃあ、清掃しないと使えないっすねー。お客さんたち、元の村に戻るか、この先の宿屋で新しい馬車に乗るかにしてくだせえ」

「替わりの馬車を呼んで貰う訳には?」

「いや、無理っすねー。わしがガイアナに着いてかわりを寄越しても1日以上かかりますぜ。まあ、元の村に帰るこってすな」

 馬車は、3人を残し無情にも走り去ってしまった。

「すみません、私のせいで」

 ホビットの青年は、小さい身体をさらに小さくして、アオイ達に謝った。

「仕方ないよ。酔ってしまったもんは。気分どう?降りたらましになった?」 

 アオイは、遠足の時、必ずバスに酔う子供だったので、小さなホビットを責める気にはならなかった。

「はい、だいぶましになりました。」

「しかし、どうする?アオイ。村に戻るか?」

「いやー、戻るのもなぁ。この先の宿屋とやらに行って、馬車に乗ろうよ」

「まあ、それでもいいけど、このホビットの兄ちゃんはどうする?」

「私のことは、お構いなく。なんとかしますから」

「ホビットさん、名前、なんてゆうの?」

「え?キリエ・ローリンですけど」

「キリエ、オレはアオイ・シロガネ、こっちは…ウト君?」

「ティモ・ウドウことウトだ」

「え?ウト君て、渾名やったん?」

「お前、1月もパーティー組んでるのに名前も聞きやしねぇから。まあ、皆ウトって呼んでるから、いいかと思ってな」

「アオイさんとウトさんですね」

 キリエは、どうして名乗りあっているのか分からなかったが、ちょこんとお辞儀をした。

「ほな、お互い知り合いになったことやし、オレらと一緒に宿屋に行こうか」

「いや、でも、これ以上のご迷惑は…ひゃあっ!」

 アオイは、キリエを担ぎ上げた。

「遠慮せんと!連れて行ってあげるから!」

「でも、多分、結構な距離がありますよ。私を担いでいくのは大変だと思います」

「大丈夫!オレ、怪力やから!」


 宿屋は、予想していたより遠かった。何回か休憩し、キリエに回復魔法をかけてもらったが、ウトよりも効果の高い魔法が使えるようだった。日もとっぷり暮れた頃にやっと宿に辿り着いたが、食事は終わってしまい、しかも今夜は満室だという。なんとか頼み込んで、食堂に泊めてもらうことができた。床は堅いが、毛布も借りられたし、外よりはましだった。


 夜半、アオイは、不審な物音に浅い眠りを破られた。

 誰かが勝手口の辺りでヒソヒソ話をしている。地獄耳で聞き取ると、どうやら盗賊が、宿に紛れ込んだ仲間の手引きで侵入してきたようだ。

『金目の物を盗ったら、宿に火をつけろ。』

『ああ、皆殺しだな』

『女は連れて行こうぜ』

『宿屋のオヤジと、202号室の商人に娘がいるぜ』

 話し声から、盗賊は4人組みだと思えた。

 アオイ達が着いたのが遅かったため、盗賊は、食堂に人がいることを知らない。不意打ちできるか?アオイが息を潜めていると、ウトとキリエも目を覚ました。ウトは、不穏な気配を察して剣をそっと引き寄せた。

 一方、キリエは、眼鏡を探している。

 盗賊達の足音が近付いてくる。アオイとウトが身構えていると、最悪なことに宿の主人がランタンを手に食堂にやってきた。

「シロガネさん、やっぱり腹が減って眠れねぇのか?」

 ランタンの明かりの中に盗賊の姿が浮かび上がる。

「だ、誰だ!お前たち!」

 次の瞬間、盗賊の1人が素早くナイフで宿の主人の喉に斬りつけた。首を押さえながら、倒れる宿の主人。

「誰でもいいんだよ!お前は、もう死ぬんだからな」

「待て、シロガネさん、てのは誰のことだ?」

 盗賊は、ランタンを手に辺りを見回した。しゃがんで身構えるアオイとウトの姿が照らし出される。

「お前たちのことか!こんなところに人がいるとはな。」

「まあ、いいさ。すぐに死んで貰うだけだ」

 盗賊は、今度は長剣を鞘から抜きはなった。


 ちょうど、その時、キリエは眼鏡を見つけた。キリエが眼鏡をかけると、血まみれで倒れている宿の主人が見えた。

『た、助けなきゃ!』

 キリエは、宿の主人にヒールをかけようとした。魔法を放つと同時に、アオイに斬りつけようとした盗賊が、キリエの視界に飛び込んできた。

 一瞬、閃光が走り、ドンッと音がした。盗賊は、後方に吹っ飛び、仲間にぶつかって倒れた。

「あー!間違って雷の魔法をかけてしまった!」

「結果オーライや!」

 アオイは、盗賊の1人に飛びかかり、腹を思い切りぶん殴った。手加減する余裕がなかったため、拳が腹を突き抜けて血が飛び散る。

「うわーっ!化け物!」

 1人残った盗賊は、逃げようとしたが、ウトに脚を斬りつけられ転倒し、捕らえられた。


 宿の主人は、虫の息ながら、キリエの治癒魔法を必死に拒んでいた。

 雷に打たれた賊が即死したのだから当然のことだった。

「大丈夫ですよ!さっきは慌てていたから間違ってしまいましたが、治癒魔法は得意なんです。ヒール!」

 瞬間的に目を閉じ、死を覚悟した主人だったが、今度は治癒魔法が成功し、命の危機を脱した。

「何があったんですか?」

 宿泊客の商人が恐る恐る食堂に入ってきた。

「盗賊が侵入してきたのを、こちらのアオイさんたちが倒してくれたんです」

「え?あ、これはうちの従業員です!盗賊の仲間だったのか」

 商人は、脚に怪我して捕縛されている男を見て恐怖に震えた。

「あの、アオイさん?盗賊を退治していただき、ありがとうございます。」

 商人は、礼を言ったが、アオイは落ち込んでいて、ああ、とか生返事しかしない。

「ああ、もっと加減して殴ればよかった。腹を突き破るとは」

 盗賊とはいえ、人を殺してしまったのだから、落ち込むのは無理もないと思ったウトが慰める。 

「殺らなきゃ、殺られてたんだ。落ち込むなよ」

「いやいや、落ち込むよ。洋服汚してしもたやん。」

「えっ?そこ?」

「助けてくれた礼に、洋服くらい、いくらでも差し上げますよ」

 商人の申し出に、今度は、アオイは、パッと反応した。

「ええの?ありがとうございます!助かります!」


 宿の主人がギルド通信で呼んだガイアナの警察は、早朝に宿に現れた。宿の惨状を検分し、アオイたちに、調書を取るためガイアナに連行するという。

「まあ、人が死んでますのでね。形式的なもんですわ」

 刑事ドラマのような台詞に、少し嫌な予感はしたものの、ガイアナまで、タダで行けると踏んだアオイは、むしろ喜んで連行されることとした。

「キリエって、何のためにガイアナに行こうとしてたん?」

 警察の馬車の中で、また車酔いしているキリエにアオイが話しかけた。

「ホビットの里の教会の再建資金を稼ぐために冒険者になるつもりなんです」

「再建?」

「雷魔法でランプを着けようとしたんですが、威力を間違えてしまって、全焼させてしまいまして」

「ヒールと間違えたんじゃなくてよかったなぁ」

 アオイは、ウトに向かって言った。

「なあ、ウト君、キリエをうちのパーティーに入れへん?」

「ええ?いや、あの」

「あ、いいんです。私は、ヒールと間違えて雷魔法を放ってしまうようなドジなホビットです。仲間にしてもらうと、きっと迷惑をかけてしまいます」

 ウトが嫌がっていると思ったキリエが、しゅんとして言うと、ウトは、罪悪感に見舞われた。

「い、嫌とは言ってない。」

「よし!決まりやな!今からキリエは、うちのパーティーの一員や!」

 アオイのパーティーは、3人になった。

次は、また、新たな出会いがある予定です。

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