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犬の恩返し  作者: あいまり
白田仔犬編
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第8話 家

 あれからは特に何事もなく家に帰ることが出来た。

 美雪は何故かずっと警戒している様子だったけど。

 彼女は何かに狙われているのだろうか?

 もしそうだったらその敵を問答無用で殺しに行くところだが……まぁ、流石に違うか。

 家の前に着くと、美雪は真剣な表情で顎に手を当て、熟考する。

 ……可愛い。


「さて、お母さん達にはどう説明したものか……」

「美雪にしたような自己紹介じゃダメなの~?」


 冗談でそう聞いてみると、美雪に「ダメに決まってるでしょ!」と怒られた。

 ちぇ。そんなに怒らなくても良いじゃないか。

 私だってそれくらいはわきまえているつもりだ。


「とりあえず、まずは様子を見て……元犬ってことは、絶対内緒だからね?」

「うんっ! 分かった~」


 私の返事に、美雪は呆れたようにため息をついて家に入った。

 それに付いて行こうとしたところで、少し考える。


 そういえば私……この家に入るの初めてじゃない?

 今まで飼い犬として、外で過ごしていたから。

 美雪が私を拾った時に一度入ったことはある。

 しかし、家族として入るのは……これが、初めて。


 家族なら、ここで言うセリフはお邪魔しますじゃない。

 挨拶を……皆が当たり前に言う挨拶を、するんだ。


「た、ただいまぁ……」

「ただいまー!」


 つい感極まって、大きな声で挨拶をする。

 すると美雪が焦った様子で私の口を手で押さえた。


 ……っへ!?

 み、みみみ美雪のてててて手が、わ、わわわわ私の口に!?

 ただでさえ感極まっていた状態にそんなことをされ、私の中で様々な感情が渦巻く。

 頭の中が真っ白になって、軽く意識が飛びそうになる。

 いつの間にか美雪の手は私の口から離れていたが、しばらくの間、私はその衝撃の余韻に浸っていた。

 口の周りに残る、美雪の手の感触……。

 柔らかくて、ひんやりと冷たくて……。


「仔犬お姉ちゃんただいま~!」


 しかし、その時、幸せの余韻をぶち壊す女が現れた。

 突然抱きつかれ、私はしばらく放心する。

 見ると、そこには、知らない女がいた。

 ……誰だテメェ。殺すぞ?


「えっと……アンタとシロはどういう関係?」

「お姉ちゃん。仔犬お姉ちゃんのあだ名どうにかなんないの? こんなに可愛いのに、あだ名全然可愛くな……」

「そうじゃなくて!」


 美雪の怒鳴るような声を聴きながら、私は目の前にいる女を見つめる。

 突然のことで分からなかったが、美雪をお姉ちゃんと呼んでいるのを見て思い出した。

 コイツはあれだ。美雪の妹の美香ちゃんだ。

 美雪と血を分けているというだけでも殺意が湧くが……まぁ、美雪の血縁だ。

 これから私の義妹になる可能性があるのだし、まぁ、多少は許容範囲か。


「……アンタ、シロと話したことあんの?」

「お姉ちゃん……ついに若年性認知症が始まったか……」

「ちがッ……!」

「何アンタ達玄関で騒いでんのよ」


 姉妹喧嘩が勃発しそうになっていた時、ようやく美雪の母である光子が現れた。

 彼女は言い争いをしていた美雪と美香を呆れたような顔で見てから、私を見て満面の笑みを浮かべた。


「そんな、玄関からも上がらずに騒いで……仔犬ちゃんごめんね~? 転校初日で疲れただろうに、この馬鹿二人のせいでうるさくして……」

「えっと……一つ聞きたいことがあるんだけど」

「何?」


 聞き返す光子に、美雪は少し息をついてから、質問をした。


「シロと私達との関係って……何だっけ」

「今更何言ってんのアンタ」

「お母さん。お姉ちゃん認知症始まったみたい」

「違うから!」

「分かった分かった。まぁ、認知症の方はしばらく様子見ということにして……仔犬ちゃんとの関係って、アンタ等のイトコじゃない」

「イトコ!?」


 おっ。ネタバレ来た。

 私は口を出せる雰囲気ではないので、引き続き無言で様子を伺っておく。


「えぇそうよ。私の妹の娘さん。でも、今海外にしばらく出張に行かないといけなくて、子犬ちゃんが高校生の間は我が家で預かっているんじゃない。思い出した」

「へぇ……」


 納得した様子で相槌を打つ美雪。

 それに光子は一度私を見て、呆れたように笑った。


「アンタ等、昔から仲良しだったじゃない。忘れたら仔犬ちゃんが泣いちゃうよ?」

「え、美雪私のこと泣かせるの!?」


 なんとなくここで反応しておいた方が良さそうだったので、試しにそんな反応をしてみる。

 すると美雪はギョッとした顔をして、慌てて否定する。


「泣かせないから! も~。お母さん変なこと言わないでよ!」

「ハイハイ。ていうか、そろそろ上がって手洗いなさい」


 そう言って去っていく光子に、美雪は不満そうな表情をした。

 しかし、光子の言うことにも一理ある。

 なぜ私達はこうして玄関で話しているのだろう。

 私達は靴を脱ぎ、洗面所に向かった。


「へぇ~。おうちの中ってこんな感じだったんだ~」


 そんな風に呟きながら、私は辺りを見渡す。

 落ち着いて家の中を見ることなんて今まで無かったから、なんだか新鮮。


「まぁでも良いじゃん。お姉ちゃんは仔犬お姉ちゃんと同じ部屋なんだから」


 しかし、美雪と話していた美香ちゃんの言葉に、私は固まった。

 ……今、美雪と私が同じ部屋って、言いました!?


「……へ?」

「私も仔犬お姉ちゃんと一緒に寝てみたいな~……まぁ良いんだけどさ。それじゃ、お先」


 そう言って去っていく美香ちゃんに、私は、これから無事に生きていけるのか物凄く不安になった。

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