第7話 牽制
放課後になると、美雪は私の住所を調べるためにと職員室まで行ってくれた。
美雪を困らせるのもどうかと思ったが、私のために頑張ってくれているという事実が嬉しかったので、黙っておいた。
とはいえ、やり過ぎもいけないし、程々で。
そんな風に考えていると、職員室に着いた。
早速美雪が中に入り担任の元に向かうので、私も付いて行く。
「あの、先生……」
「……ん? 何だ?」
「えっと、シロ……白田さんの住所を聞きたくて」
「はぁ?」
美雪の質問に、担任は眉を潜める。
まぁそうだよねー。一応私と美雪は一緒に住んでるってことになってるんだから。
でもここで私からネタ晴らしも出来ないので、私は笑って誤魔化しておく。
「私ねー、おうちの場所分かんないのー」
「はぁ……?」
「えっと……まだこの町に来たばかりで、家の場所がよく分からないみたいだから、送って行きたくて……」
美雪の言葉に、先生は苦い顔をして頭を掻いた。
確かに、この状況って担任からすればかなり意味不明だよね。
でも私からバラす気は無いので、ニコニコと笑って誤魔化しておく。
こういう状況だと、馬鹿の演技をしていて良かったと思う。
「教えるも何も……そもそも岡井。お前と同じ家じゃないか」
「へ?」
担任の言葉に、美雪は呆ける。
ポカンとしたその顔が可愛くて、私は口に手を当てて体中から溢れる興奮を抑える。
その間に担任が生徒名簿のようなものを取り出し、美雪に見せた。
「個人情報だから、あまり他の生徒のは見るなよ」
その言葉に、美雪は生徒名簿を見た。
私もそれに、美雪の後ろから見てみる。
文字は小さい方だが、なんとか見える。
とりあえず私は全生徒の住所に目を通しておく。
もし美雪に近づいたら自宅に直接嫌がらせをしよう。
「全く、その年齢で認知症か? まぁ、酷くなったら病院にでも行きなさい」
「は、はい……ご迷惑をお掛けしました」
そんなやり取りをして、美雪は私を連れて職員室から出た。
ちぇ……もう少し住所を確認しておきたかったのに。
とはいえ、一応記憶はした。家に帰ったらメモしておこう。
そんな風に考えていた時、美雪は「どういうこと……?」と呟いて頭に手を当て、ため息をついた。
「美雪どーしたの~? 顔色悪いよ?」
そう言いつつ顔を覗き込んでみると、美雪はハッとした表情で私を見て「大丈夫だよ」と言って笑った。
美雪はどんな美雪でも綺麗だが、疲れている美雪は見たくない。
けど、彼女の様子から、これ以上言及は出来なさそうだ。
「ちょっと疲れちゃっただけ。……もう、大丈夫」
「ふーん……それで、私のおうちはどこ?」
話題転換も兼ねてそう聞いてみると、美雪は優しく笑い、鞄を肩に掛け直した。
そして口を開く。
「えーっと、どうやらシロの家は私の家みたいです」
「えっ! 本当!?」
そう聞きつつ辺りを見た時、思いのほか私達が注目されていることに気付いた。
というか、私か。
まぁ、トイレとかで鏡を見て分かったのだが、私の髪は他の皆と違って純白だ。
犬だった頃の名残だろうか。その影響で、同学年だけでなく、一年生や三年生などの他学年からも注目されていた。
しかし、そんな中で、美雪を見る目もあった。
そういえば、美雪は私以外の前では割と無表情だったりする。
その美雪がこうして楽しそうに笑っている。
ただでさえ美人の美雪だ。注目されないわけがない。
……ここは、少し牽制しておくか。
「うん。だから……」
「ゴー!」
私は美雪の腕を引き、歩き出す。
それに、私達に向けられていた視線に籠った感情が、微かに変化した気がした。
突然引っ張ったからか、美雪は驚いたような表情で私を見ている。
「えっへへ~。美雪と同じおうち~」
そんな風に歌っていると、美雪は苦笑し、私の隣に並んだ。
そして……手を握られた。
「張り切るのも良いけど、シロ、家の場所分からないでしょ」
悪戯っぽく笑う美雪。
て、てててて手ががががががッ!?
繋がれた手と、いたずらっ子のように無邪気に笑う美雪に、私は動揺する。
しかし、それをなんとか隠し、私は彼女に答える。
「うっ……散歩コースだったら、なんとか……」
「私の通学路、散歩コースと重ならないよ?」
「そんなぁ!」
「いつも行ってた公園、学校と逆方向なんだけど」
美雪の言葉に、私は落ち込んで見せる。
すると、美雪は嬉しそうに笑った。
その笑顔も、とても可愛かったです。




